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【4・二つ名はイージス】全ては帰国のため 5

 全てが終わり、数分ほど放心状態になっていた神崎が、我にかえりゴーグルを外すと、目の前と足元が血の海となっていた。


 未だ精神へのダメージが回復していないせいか、意識が混濁している。


(ひどいなあ……どうしよう、これ……怒られちまうだろうなあ)


 自分の衣服も、あちこち毒々しい飛沫模様が描かれ、操作パネルも真っ赤に染まり所々血糊が乾き始めていた。

 自分の吐瀉物と分かっているが、あんまりなビジュアルだ。


 一応機械だし、スキマから血が入って壊れたりしないだろうか、と少々不安になった。


 彼はグラブを外し、目を閉じて大きく息を吸い込んだ。


 そして意を決して首の後の端子をひと思いに引き抜くと、鋭く尖った端子を投げ捨てた。



「うう……ぐあああッ」



 彼は首を引きちぎられるような痛みに、短く悲鳴をあげた。


 針に纏わり付いた己の神経を引きちぎったのだから、ただ抜くより何倍もの激痛が走る。


 痛みは激しいが、おかげで混濁していた意識が少しハッキリしてきた。



 すでに痛みすら感じていなかった、太股に突き立てられたままのナイフも引き抜かれ、甲高い金属音をたてて床にうち捨てられた。


 べったりと赤黒い液体を纏った端子は、高い金属音を響かせながらコンクリートの床に落ち、端子に繋がっている血糊だらけのケーブルが、手負いのヘビが這い回ったような跡を床の上に幾重も描いていた。


 意識がはっきりしてきたためか、痛みが強くなってきた。

 恐らく、鈍化していた感覚が戻ってきたのだろう。



「大丈夫か?」グレッグが心配そうに声をかけた。


「ああ、生きてる……まだ作戦中だ。そっちを心配しててくれ、グレッグ」


「わ、分かった」

 と言ってグレッグはオペレーター席へと去っていった。



 椅子の上で神崎がぐったりしていると、レイコが黙って首筋と太股の処置を始めた。



「すまん、レイコさん。急いでるんだ……適当でいいよ」


「そうですか……」



 レイコに簡単な処置を受けた後、神崎はおぼつかない足取りで部屋を出ていった。


「すまん……後片付け、よろしくな……」



     ☆



 廊下の壁に手を突きながら、神崎は足をひきずってロッカールームに向かっていた。


 ほとんどの社員は出払っており途中誰ともすれ違うことはなく、手負いの姿を見られることもなかった。


 宿営地がカラになってしまう程、本当にギリギリの状態で戦っていたのだ。



 ロッカールームに入ると、神崎は血に汚れた服を脱ぎ捨てて紺色の戦闘服に着替え、夜間作戦用の装備を身につけ始めた。


 タクティカルベストには、マガジンを詰められるだけ詰め、弾薬やプラスチック爆薬、手榴弾などをバッグに押し込み、ヘルメットに暗視ゴーグルも取り付けた。



「これも……持ってくか」



 そう呟くと、自分のロッカーから一本の合金製軍用サーベルを取り出した。

 黒い鞘が日本刀を思わせる。



「最後に頼りになるのは、刃物だからな……」


 ストラップをたすき掛けにしてサーベルを背負っていると、背後から男の声がした。



「一人でどこ遊びに行くんだ? ボーイ。パパも連れていってくれよ」



 そこにはちらりと犬歯を覗かせたグレッグと、狙撃銃(スナイパーライフル)を担いだマイケルが立っていた。



(そういえば、マイケルの班は、負傷者を回収して戻って来ていたはずだったな)



「ヒマそうだな。人狼(ワーウルフ)のダンナとジャーキーガイ。一緒に狩りに来るかい?」


 神崎はやせがまんをして、二人に笑ってみせた。



「で、どこ遊びに行くんですか? マスター・ニンジャ」

 マイケルは愛用の狙撃銃で自分の肩をトントン叩きながら、嬉しそうに訊いた。



「本丸だ。夜陰に紛れて、首級を取りにいくのさ。ニンジャはそういうもんだろ」

 と神崎は自分の首を刎ねるマネをしてみせた。



「どこにいるか分かったのか?」

 ニヤニヤしながらグレッグが言った。

 瞳が薄暗いロッカールームの中で、妖しく光る。



「ああ。場所はついさっきわかったんだ。奴ら移動してたんだよ、今まで……」

 神崎はこみ上げる胃液を押し戻すように、口を押さえて背中を丸めた。



「トレーラーとかか?」

 夜間戦で圧倒的な強さを誇るこの人狼の男は、装備を着けながら言った。

 夜目の効く彼なら、暗視ゴーグルなどという無粋なものは必要としない。



「近くで手の空いてる部隊が全くないんだ。今から手空きの誰かを回しても、遠くて間に合わない。だから俺が直行するんだ。一人で乗り込んで平気な奴は俺くらいだからな」



 未だ気分の優れない神崎は、苦虫を噛み潰したような顔で言った。

 出血が酷かったためか、顔面は蒼白だ。



「なるほど。じゃあ、僕もマスター・ニンジャにお供しましょう。報酬は、ジャーキーでいいですよね?」


 マイケルは、まるでパブにでも付いて行くような口ぶりで言った。



「好きにしろ。戻ったら、十箱でも二十箱でもくれてやるよ」

 神崎はニヤリと笑った。

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