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【4・二つ名はイージス】全ては帰国のため 4

 空を叩き、払って、爪弾いていく。


 これほどの数の小隊を一人で制御する様は、まさにオーケストラを前にした指揮者(コンダクター)だった。



 高速処理された情報をリアルタイムで共有するGSS社の部隊は、衛星軌道上からのバックアップを受けながら相互に補完しつつ確実に敵を殲滅していった。


 有機的に絡み合って動いていく彼等に死角はなく、何倍ものポテンシャルを発揮し敵を蹴散らしている。



「あと……十五分……」



 神崎の顔に汗が浮かび、鼻血が流れ始めた。


 唇を噛みしめながら、残された時間を数百倍にも駆使して情報を送り続けている。体への負荷が益々大きくなり、呼吸が浅くなっていった。



「ごふっ……ぐうっ」



 ふいに、操作パネルの上に、大量の血を吐き出した。神崎はグラブの甲で口元を拭い、また吐きを繰り返しながら、ひたすら操作を続けた。



(やはりバケモノには敵わない……どうしたら平気でいられるんだ? サイボーグ共は)



 PCに接続して使用する簡易型と比べ、本物の制御卓は更に数倍の負荷がかかる。彼にとって非常に危険なシステムだった。時間を越えて使えば、待っているのは精神崩壊だ。



「あ……あと、十分…………」



 敵の拠点を数カ所壊滅させ、国境線から大きく後退させた。

 手の空いた部隊を敵の多い地域へ、次から次へと投入していく。

 そして、安全が確保された所から、各方面へ補給物資の輸送も開始した。



 複数の衛星とリンクした、神崎の操る軍の圧倒的火力と寸分違わぬ正確な攻撃に、敵は瞬く間になし崩しになっていった。



 見た目だけなら、細かいグラフィックのストラテジーゲームだ。


 しかし、そこで動いているコマは、本物の人間、車両、部隊だ。光点が消えれば、命が消えたのと同じ。

 仮想空間にありながら、全てはリアルなのだ。



 こんなリアリティのない戦争などに、何の意味があるのか。

 造り物の兵士があらゆるものを破壊する世界。それこそ、全てが茶番になってしまうじゃないか。


 だから神崎は、兄の進める軍事サイボーグのプロジェクトが不愉快でたまらないのだ。



(くそ……目が……霞んできやがった…………)



 遠のきそうな意識を戻すため、彼は腰のナイフを抜き、太股に突き立てた。



「ぐああぁっ、……くくく、くく……」



 猛烈なスピードで、残り時間を示すカウンターが回る。


 神崎は自分の精神と引き替えに、更に部隊への指示スピードを加速させていく。



【全小隊に通達:衛星による支援は残り五分で終了する。その後は各自の能力に委ねる】



「あ! 見つけたぞ……あのクソ野郎め!」



 彼は、最後の最後に敵本拠地を見つけ出した。


 周辺の詳細情報を取得、逃走中の大統領の甥を発見、拘束のための部隊を差し向けようとしたが、手空きの部隊は一つもなかったところで、タイムアップとなった。



「クソッタレェェッ!」


 神崎は叫び、制御卓を叩いた。



 制御卓の天板に零れた鮮血が、両の拳で弾かれて周囲に飛び散った。


 神崎のシャツも赤い飛沫を浴び、ゴーグルや頬には血で描いた筋が幾重も流れていた。



 神崎は、血飛沫を撒き散らしながら、一斉に衛星リンクをシャットダウンし、ログアウトを開始した。

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