【4・二つ名はイージス】全ては帰国のため 1
麗の病状は予断を許さない状況で、神崎は一刻も早く彼女の元に戻りたかった。
しかし、今この国は、低俗なお家騒動に見せかけて、その実は、地下資源目当ての大国の支援を受けた武装勢力により、再び戦乱に巻き込まれようとしていた。
☆ ☆ ☆
――前日。
神崎は、アジャッル元副司令に、大統領の甥の背後に何があるのかを探らせていた。
演説の前に元副司令から報告を受けていたのだ。
やはりというべきか、この男はとてつもなく底の浅い人物だったようだ。
反政府勢力の力と叔父の不在を利用して、国内が不安定なうちに権力を奪い取ろうとしていた。
しかし、利用していたのは反政府勢力の方で、この男は自分が周りを利用していたつもりが、実際は踊らされていたに過ぎない、ただの担がれた神輿だったのだ。
そして彼等は、甥を上手く操って神崎達の行動を制限し、その隙に乗じて攻撃を仕掛けてきていたのだ。
アジャッルの話と照らし合わせると、先日神崎が基地司令室で見た猫背の男が、甥を操っている組織の関係者だろう、と推察出来た。
だが、神崎達が顧客を無視して独自に動き出したとなれば、ヘタをすると、彼等にとって甥に利用価値はないと判断され、最悪殺される可能性がある。
その前に反逆者として生かして捕え、請求書も添付して帰国した大統領に突き出さなければならない。
この反逆者逮捕の手柄をアジャッル元副司令のものにすれば、きっと彼の復権も容易なはずだ。
元司令は、残念ながら既に敵に投降している。にわか仕立ての国防大臣も使い物にならない。
このような非常事態にも拘わらず、なぜ叔父である大統領一行が帰国出来ないのか。
それは恐らく、敵の後についている大国の差し金であることは容易に想像がつく。
だが、一企業である神崎たちが、そこまで手を回すことなど出来はしない。
せいぜい、護衛役の社員で大統領の命を守るのが関の山であろう。
本来は国を立て直す手伝いでやってきたはずなのに、今まで自分の売ってきた武器の多くは、現在テロリストの手に落ちている。
己の手で敵を肥えさせ、数多くの味方を死に至らしめてきたのだと思うと、神崎はひどく憂鬱な気分になった。
アジャッルの報告の後、神崎はひとり思索に耽っていた。
……兄貴は最初から、面倒事になるのが分かっていたのだろうか?
なぜ、情報収集を大統領府に任せたのだろうか?
それとも、知らされてなかったのは我々だけなのだろうか?
――大統領を外に出すため? 何故? 膿みを出し尽くすためか?
考えれば考えるほど、胸糞の悪い想像ばかりが浮かんでくる。
かつての創造神もいまでは人間に愛想を振りまき、金の亡者に成り下がっている。
兄のそんな姿が彼にはたまらなく嫌で、どうして豹変してしまったのか、理解出来ずにいた。
いずれにしても、弟の自分さえいればどうにかなる、兄はそう考えているのだろう。
と、いつもと全く同じ結論に至り、余計に胸糞が悪くなる。
とにかく、一刻も早く日本に帰らなければならない。そのためには――――
――クズ野郎、落とし前をつけてもらうぞ――