【3・裏目】彼女が壊れたら俺のせいだ 4
『麗の容態が、急変したんです……』
――なん……だって?
母親の話によれば、一昨日、麗の容態が悪化して、現在ICUで治療を受けている。
これ以上状況が悪化した場合を考え、手術の用意もしているらしい。
転院させたことで、神崎はすっかり油断していた。麗はもう大丈夫なのだと。
転院直後の精密検査では、急変するような兆候も見られなかったからだ。
――そばにいてやりたい……。
麗のために急ぎ日本に帰りたいが、全く身動きが取れない状態に神崎は歯噛みした。
母親との電話を切った後、メールの着信を調べてみた。
ずらりと並んだ未読のメール。
日に日に、呪詛の言葉に変わっていく件名――。
「俺は……なんてことをしてしまったんだ……」
忙しさにかまけて、麗をほったらかしにしていたことを激しく後悔した。
彼はしばらくベッドの上で嗚咽を漏らしていたが、気を取り直して、麗からのメールを一件一件開いていった。
そこには、日に日に心細さが募っていく様が、生々しく綴られていた。
『麗からの返信』
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To Kanzaki From Urara
Subjekt ひどいよ
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本当に私の病気は、新しい病院で治るのかな……
もしかしたら、このまま再び会えずに死んでしまうのかな……
新しい病院に来たのに、どんどん胸が苦しくなっていく……
私は見捨てられたのかな……
助けて……
助けて助けて助けて
どうして貴方はいないの? どうして私のそばにいないの?
どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
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最後のメールを見た後、神崎は携帯を床に落としてしまった。
液晶画面いっぱいに、麗からのSOS、いや呪詛の声が綴られていたのだ。
希望を与えた分だけ、麗の心の闇もまた濃くなり、それが体をも蝕んでしまった。
きっとそうだ、そうにちがいない。彼女が倒れたのは、自分のせいだ。
このまま彼女が死んでしまったら、自分を許せない――――。
何もかもが裏目に出てしまった――。
神崎は、ボロボロだった。
零落し、神としての力をほとんど失った今の自分には、何もしてやることが出来ない。
やり場のない無力感が体の中で暴れ回り、彼の心をズタズタに引き裂いていく。
どれだけ修羅場をくぐろうと、どれほど長く生きようと、そんなことは関係なかった。
恋人が己のために苦しんでいる、その現実は、いとも容易く彼の心を打ち砕いた。