【1・東シナ海上空】そして戦地へ 1
神崎は病院を出て一路、旅客機でA国に向かっていた。挨拶もせずに出て来たため、目下恋人の麗に詫びのメールを打っているところだった。
『神崎から送信』
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To Urara From Kanzaki
Subjekt ごめんなさい
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このメールを中東に向かう旅客機の中で打っています。
いま、東シナ海の上を飛んでいます。
黙って戻る僕を、どうか許して欲しい。
向こうでは、死者数十人を出す事故が発生しており、
事態の収拾のために、責任者の僕が帰らなくてはならないのです。
別れの挨拶をしなかったのは、
君に引き留められてしまったら、
僕には、その手を振り払うことが出来ない、と思ったから。
どうか、僕のわがままを許して下さい。
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麗の入院する病院から空港に向かうヘリの中で、彼はスタッフから現地の状況報告と、兄からの勅命を受けとった。
『総指揮を執り、我が社の現地施設を死守せよ』と。
神崎は成田で旅客機に搭乗するとファーストクラスの隅の席に陣取り、ノートPCでネットに接続していた。
現地の詳しい被害状況を確認するため、機内からNYの本社サーバーにアクセスを開始……
――一体、自分の不在の間に何があったのか。ただの事故ならよかったのに。
「何がどうしてどうなってんだよ……。訳わかんねぇよ……」
現地の事故の状況、発生原因、情報が出れば出るほど神崎は混乱した。
そして、更に不可解な事実が、苛つく神崎を一層不快にさせた。
(……これは、事故じゃない。攻撃だ!)
問い合わせのため、神崎は直接、グレッグのいる現場指揮所にメールを送信した。想像したとおりなら、おそらく返信には時間がかかるだろう。
なお、現状で分かった情報は以下の通り。
――国境付近を中心に突如として出現した、未確認武装勢力に攻撃を受けている。被害は日増しに激化しており、社員の被害も甚大である。
A国の資源埋蔵地域の被害が激しく、持ちこたえてはいるが長引けば撤退も考えなければならない。敵の目的は資源の略取であろう。
国軍は、一部再編して国境付近に配備したが、指揮官もまだ未熟で被害が拡大している。現在、我が社は孤立無援状態で――。
(最悪だな……。いくらグレッグが脳筋だからといって、ありえない状況だ……)