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【4・転院】最大の敵はパパ 3

「差し出がましいようですが……、うちの系列に獅子之宮(ししのみや)総合病院という大きな私立病院があります。

 そこなら彼女に、もっと高度な治療を受けさせてあげられる。必要なものを用意出来るのです。どうか、その病院へ彼女を転院させては頂けないでしょうか」



 獅子之宮総合病院は、世界最高クラスの高度な医療を提供するセレブ御用達、悪く言えば金さえ積めば何でもしてくれる、と有名な病院だ。日本国内以外にも主要各国に展開しており、高度な医療を提供している。


 ――薬剤師の塩野義氏が知らぬはずはなかった。



 公にはされていないが、親会社のお家芸、バイオテクノロジー部門や化学薬品製造部門の強力なバックアップで、最新の高性能薬品や最先端医療を提供する。

 なにより世界中の戦場で培った高度な外科技術もこの病院の売りだった。


 つまり子会社であるGSSグリフォンセキュリティサービス社の社員は、親会社の高度医療を受けられるかわりに、実験動物でもあり、そのフィードバックで最高の医療を提供しているのが、この獅子之宮総合病院でなのである。



 その獅子之宮でなら、麗を確実に救うことが出来る。

 今ならまだ間に合うのだ。



「獅子之宮……そ、そんな高級な病院、いくら金があっても……」



 神崎は父親の言葉を遮った。



「費用は僕が全て負担します」


「全て……って、君」


「お願いです、僕は、僕は麗さんを救いたいんです!」



 神崎は立ち上がって、必死の形相で訴えた。



「このまま彼女を死なせたくないんだ!」


「神崎君、落ち着いてくれ。私とて……同じ気持ちだ」


「申し訳ありません……つい」



 神崎は椅子に腰掛けると、悲しげに視線を落とした。



「しかし、気持ちは有り難いのだが、会ったばかりの君が、どうして娘にそこまで?」


(俺は、あんた達よりも、ずっと昔からあいつと一緒なんだ。当たり前だろう……)



 自分が麗をどれだけ本気で想っているかなんて「地球が丸い事」と同レベルに当たり前なことを、今さらこの男に納得させなければならない。


 それがひどくもどかしく思えた。


 父親は渋い顔をして言った。



「神崎君。確かに、麗が君を支えにしていた事は知っているし、私も感謝している。しかし、これは捨て猫を拾うのとは訳が違うんだ」



 娘を救いたいが、納得出来ない形での援助は受けたくはないのだろう。



「……確かにそう、麗さんは捨て猫とは違う。でも、僕には彼女を救える可能性がある」



 神崎は、床に置いていた二つの金属製のスーツケースをテーブルの上に、ドンッドン、と置いた。

 病院の安物のテーブルは、スーツケースの重みに一瞬たわんだ。



「こんなことは、本来の僕の主義には反するのですが……」



 そう言いながら神崎は、バチン、バチン、とロックを外し、スーツケースの蓋を二つ同時に開けた。



「どうかこれで、僕の誠意を信じて頂けないでしょうか……」


「! こ、これは…………」



 麗の両親は、目を丸くして驚いた。

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