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【4・転院】最大の敵はパパ 1

 「本社に僕のことを照会されてもかまいません」


 神崎有人は、いかつい衛星携帯電話(イリジウム)をテーブルの上にゴトリと置いた。

 ――それは彼なりの作戦だった。一刻も早く彼女を救うための。




     ☆ ☆ ☆




 地方に出かけていた麗の父が、週末になってようやく東京に戻って来た。

 ある程度の事情は塩野義夫人から連絡が入っていたため、麗の転院の件について、スムーズに会合のセッティングをすることが出来た。


 心待ちにしていた時が、やっと訪れたのだ。

 これで麗を救える。早く麗を安心させてやりたい、と神崎は思った。



 週末の午後、病院の談話スペースには、神崎と麗の両親の三人がいた。

 四十代半ば、中肉中背の塩野義氏は薬剤師ということもあり、個性的ではないが温厚で知的な人物に見えた。


 その彼が警戒心を全開にして神崎を見ている。

 当然だ。


 どこの馬の骨……と言われるほど身元がいい加減ではないものの、神崎の登場はあまりにも唐突過ぎる印象を塩野義氏、つまり麗のパパ上に与えてしまったのだから。


 奥方から話だけは聞いているものの、不審者を見るような目で己を見るパパ上には、一から身の証を立てねばならなかった。


 それが神崎にはひどくもどかしかった。

 だいたい、自分の嫁を引き取るのに、どうして許可が必要なのか。


 今生のことしか知らぬ両親にとっては、神崎こそが強奪者なのだが、長い目で見れば理があるのは神崎の方で……。


 と、ひどくややこしい状況になっている。


     ☆


「今日はプライベートなので、無粋なSP連中は連れておりません」


 神崎はいかにもな台詞を吐いてみせた。

 無論SPなど最初から連れていない。


 普段は自分がSPをやっている側なのが可笑しかったが、実際、親会社の「GBI社グリフォンバイオロジカルインダストリーの副社長」として、兄に見世物にされる場合には、そんな自分にもSPが付くのだから愉快な話だ。


 神崎は、上着の内ポケットから役員名義の名刺と役員のIDカードを取り出して、ご機嫌ナナメなパパ上に手渡した。

 余程のことがなければ使わない、彼のもう一つの「不本意極まりない」肩書きを証明するものだった。



 神崎自身としては、この肩書きの使用は非常に不愉快だった。

 しかし、一般人を手っ取り早く納得させるには、巨大多国籍企業の役員という肩書きは絶大な効果がある。


 これがもし、ただの平の商社マンという肩書きだとしたら、両親の説得にあまりにも時間がかかり、最悪タイムアップで彼女を救えなくなってしまう。



 パパ上は、ほぉ、と声を上げながら渡されたIDの裏表をまじまじと見ている。未だに目の前の青二才が大会社の重役だということが飲み込めないでいる様子だ。


 世事に疎い母親ならともかく、一般社会人である父親は、神崎の会社がどれほどまでに巨大なのかということを漠然と理解しているために、余計に実感がわかないのだろう。



 GBI社は、およそ一般人が知るグローバル企業が束になってかかっても、一瞬で当たり負けするほどの、超巨大企業なのだ。


 この企業が日系である事実が、日本の国益を多大に守っていることを、国民のほとんどは知らない。



「日本支社に僕のことを照会されてもかまいません。今日のスケジュールも報告済みです」



 神崎有人はそう言うと、ベルトのホルダーからいかつい衛星携帯電話(イリジウム)を取り出し、テーブルの上にゴトリと置いて対面に腰掛けるパパ上に促した。

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