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【3・麗のお願い】そして俺は君を救いに来た 7

「聞いて、麗。――確かに、今の病院にいても、寿命をいくばくか延ばすことしか出来ない。でもね、病院を移れば治せるんだ」



「……え?」


 一瞬、何を言われているのかわからず、麗は何度か目を瞬かせた。



 神崎はシートベルトを外すと彼女にぐっと身を寄せた。

 そして、彼女の手を取り、両手で握った。



「俺、本当は君を救うために、日本に帰ってきたんだ」


「ほん、と……?」



 麗の長い睫毛が、唇が、震えた。



「助かるの? ……私」


「ああ」



 彼女の目を真っ直ぐ見て、大きく頷いた。



「でもこの話は、君のお父さんが出張から戻ってきてから話そうと思っていたんだ。黙っていて、悪かった……」


「……ホントに治るの? 私」



 信じられないといった様子で、麗は恋人を見上げている。



「もちろん。でも、まだ誰にも言わないでね。話がややこしくなるから」



 舌っ足らずな麗から、余計な情報を両親の耳に入れたくはなかった。



「うん……」



 麗は微妙に腑に落ちないといった顔をしながら頷いた。

 それでも今は神崎に任せるしかない、ということだけは十分わかっている。



「有人さん……」


「ん?」


「私、有人さんのことを、自分が死ぬまでの短い時間、思い残すことのないようにって神様から使わされた、やさしい死神だと思ってた。

 でも本当は、私を助けに来てくれた勇者様だったんだね……きっと、そうだよね?」



 言葉のおわりの方は悲鳴にも似て、神崎の胸をえぐった。


 麗の顔が切なげに歪んだ。

 そしてまた、大粒の涙をぽろぽろと零しはじめた。

 今度の涙は絶望の涙ではなく、希望の涙だった。

 全てを諦め、投げ出していた自分が救われるなど、夢にも思わなかったから。


 ああ、と神崎は大きくうなづいた。


 死なせてなるものか。

 百年以上も待ち続けた愛しい人を、ここで失うわけにはいかないのだ。

 少なくとも自分は、彼女にとっての死神ではない。



「俺が君を必ず護る。だから『どうせすぐ死ぬ』とか二度と言わないでくれ。いいね?」

 静かだが、強い意志を感じさせる口調で語りかけた。


「……うん、もう、言わない……もう言わないよ、有人さん……」



 彼女の目が、全力で『助けて』と叫んでいた。

 今まで一度も求めたことのない『救い』を、彼女は初めて心から求めていた。



「もう大丈夫だから」



 安心させたくて、一番いい笑顔を作って彼女に応えた。



「やっと、おうちに、帰れるんだね、……私」


「そうだよ。前に言ってたよね。家に帰るのが夢だって。俺が必ず叶えるから」



 神崎は小さく頷いた。

 獅子之宮(あそこ)なら何もかも揃っている。彼女を治せる筈だ。きっと。



「じゃ、有人さん、私をおうちに連れて帰ってくれるって、約束して」



 麗は青白い小指を突き出して、ゆびきりの催促をしている。



「約束する。君を必ず家に連れて帰るよ」



 神崎は、麗の白くか細い小指に、自分の小指を絡ませて約束した。




 ――そう、『ステュクスの流れ』に誓って。

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