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【3・麗のお願い】そして俺は君を救いに来た 6

     ☆ ☆ ☆




 休憩じゃない休憩を終え、親密度のパラメータの上がった二人は、なんとなく都内を車でうろうろしていた。


 微妙な達成感で気分がフワフワしていた神崎は、正直なところ、密室に二人でいられれば、もうどうでもよかったのだ。

 カーステレオからは「浪漫飛行」が流れていた。なんとなく、トランク一つぶら下げて、世界中どこの戦場にでも行く自分には、合っているような気がした。



 だが、フワフワ気分だったのは、神崎だけだったのかもしれない。ラブホテルの魔法は、案外すぐに解けてしまっていた。ドライブを再開して二時間ほどで、麗の様子がおかしくなった。



「どうしたの? 麗、気分悪い? それとも……痛い?」


「気分は大丈夫。痛い……のは、ちょっとだから大丈夫……」



 麗の表情がどうにも暗くて気になってしまう。神崎は車を路肩に停めた。



「じゃあ、何?」


「やっぱり……独りで待つのがこわい」


「麗……」


 彼女は両の手で顔を覆った。小さな肩が震えている。


「待つけど、約束したから待つけど……でも間に合わなかったら……」



 神崎は歯噛みした。

 一度抱いた程度では、麗の死への恐怖に克つことは叶わなかったのだ。



「大丈夫、俺が死なせやしない」


 彼女の髪を撫でながら、神崎は静かに語りかけた。


「気休めでもなんでもなく、本心からそう思っている」



 麗はゆっくりと、顔を覆った手を下ろした。

 血の気の薄い彼女の頬は涙で濡れていた。



「無理だよ……」



 麗の目は絶望に彩られていた。

 恐らく、これが彼女の本心なのだろう。

 誰にも見せなかった心の内を、その瞳は悲しげに物語っていた。



「心臓移植する人はみんな、アメリカに行くっていうでしょ。日本にいてもドナーなんて見つかるわけないし……だから……やっぱ無理だよぉ……」



 神崎は、涙でぐしゃぐしゃになった麗の顔を、ハンカチで拭いてやった。お世話されることに慣れている彼女は、おとなしく神崎のされるがままになっている。


 未定の話を前提として聞かせるのは避けたかったが、このまま彼女の気持ちが崩れてしまえば元も子もない。


 万一転院の話がまとまらなかった場合、いざとなれば無理にでも向こうの病院に連れて行く。

 たとえ誘拐犯扱いされたとしても、彼女が死ぬよりマシだ。

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