【3・麗のお願い】そして俺は君を救いに来た 6
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休憩じゃない休憩を終え、親密度のパラメータの上がった二人は、なんとなく都内を車でうろうろしていた。
微妙な達成感で気分がフワフワしていた神崎は、正直なところ、密室に二人でいられれば、もうどうでもよかったのだ。
カーステレオからは「浪漫飛行」が流れていた。なんとなく、トランク一つぶら下げて、世界中どこの戦場にでも行く自分には、合っているような気がした。
だが、フワフワ気分だったのは、神崎だけだったのかもしれない。ラブホテルの魔法は、案外すぐに解けてしまっていた。ドライブを再開して二時間ほどで、麗の様子がおかしくなった。
「どうしたの? 麗、気分悪い? それとも……痛い?」
「気分は大丈夫。痛い……のは、ちょっとだから大丈夫……」
麗の表情がどうにも暗くて気になってしまう。神崎は車を路肩に停めた。
「じゃあ、何?」
「やっぱり……独りで待つのがこわい」
「麗……」
彼女は両の手で顔を覆った。小さな肩が震えている。
「待つけど、約束したから待つけど……でも間に合わなかったら……」
神崎は歯噛みした。
一度抱いた程度では、麗の死への恐怖に克つことは叶わなかったのだ。
「大丈夫、俺が死なせやしない」
彼女の髪を撫でながら、神崎は静かに語りかけた。
「気休めでもなんでもなく、本心からそう思っている」
麗はゆっくりと、顔を覆った手を下ろした。
血の気の薄い彼女の頬は涙で濡れていた。
「無理だよ……」
麗の目は絶望に彩られていた。
恐らく、これが彼女の本心なのだろう。
誰にも見せなかった心の内を、その瞳は悲しげに物語っていた。
「心臓移植する人はみんな、アメリカに行くっていうでしょ。日本にいてもドナーなんて見つかるわけないし……だから……やっぱ無理だよぉ……」
神崎は、涙でぐしゃぐしゃになった麗の顔を、ハンカチで拭いてやった。お世話されることに慣れている彼女は、おとなしく神崎のされるがままになっている。
未定の話を前提として聞かせるのは避けたかったが、このまま彼女の気持ちが崩れてしまえば元も子もない。
万一転院の話がまとまらなかった場合、いざとなれば無理にでも向こうの病院に連れて行く。
たとえ誘拐犯扱いされたとしても、彼女が死ぬよりマシだ。