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【3・麗のお願い】そして俺は君を救いに来た 5

     ☆ ☆ ☆




 麗のリクエストに応えて、神崎は青山から最寄りのホテル街・渋谷円山町にやって来た。渋谷界隈は道が狭く、神崎の車では少々窮屈な思いをすることになった。


 わずかに傾斜のついたホテルの入り口では、車体の腹をこするのではとヒヤヒヤした。大きい車だと、日本の道路は神経を遣う。


 内心、あまり運転したくないなあと思ったものの、今後は麗のために車を運転する機会が増えるだろうから、同居したなら扱い易い日本車にするべきだろうか。


 ――などと数秒思案したが、ここで麗のご機嫌を損ねてはならぬ、と脳内会議の議題を頭から放り出した。




 フロントで、なるべく面白そうな部屋を選んでカギを受け取る。面白そう、というのは設備が充実しているという意味だ。


 間接照明で室内を照らした二十畳ほどの部屋に入ると、麗のテンションが一気に上がった。彼女の原動力は、好奇心そのものなのだろうか?



「わーいっ、ねぇねぇカラオケなんかあるよ! あ、こっちは自販機だ~」



 他にも、ダーツやミニシアターなど、細かい備品が盛りだくさんの部屋だ。

 麗は面白がって見て回っている。

 設備はゴージャスだが、内装は至って落ち着いている。



「俺は別に、ヘンなことしないで、麗とカラオケだけして帰ったっていいんだけど?」


「あー、そういうの『契約不履行』っていうんだよ! だめだよ~」


「契約不履行ね。はいはい」



(君にそれを言われるのが、一番つらいんだけど。つい数日前まで、俺はその不履行を本気でしようとしていたのだから……)



 上着を脱ごうとして、ふと銃の場所を探す。彼女には見せたくない、そういう気持ちから、本来それがあるべき場所に触れる。

 しかし、そこには何もない。


 ――当たり前だ。ここは日本だ。出国する前に、置いてきたはずだ。


 しかし、それが存在するのが当たり前の生活を送っていたから、反射的に「見せたくない」なんて感情が沸いたのだろう。

 頭を左右に二、三度振り、ハンガーに上着を掛ける。


 神崎があれこれいらぬ心配をしている最中、彼にお願いをした当人は、すっかりアミューズメント施設にでも来たような気分で、あちこち物色しまくっていた。



「じゃ、遊んでないでこっちおいで」


 革張りのソファに腰掛け、自分の隣をぽんぽん、と叩く。


「はーい」


 トコトコと素足でやってきて、神崎の隣の空間にちょこん、と座った。



 彼女のお願いそのものが、『冥土の土産』的性格を持っている以上、正直あまり気は進まない。しかし、ここは名誉だと思って、真心込めてご奉仕することに決定。



「AVでどんなの見てたか知らないけど……不肖、努めて紳士的な対応をさせて頂く所存ではありますので……」


 ゆっくりと肩を抱いて麗の体を引き寄せる。


「もう、前置きはいいから……」


 麗は半分夢見心地な顔で、身を委ねてきた。


「前置きしないと、一瞬で狼になっちゃうから言ってるの。俺がどんだけ女断ちしてると思ってんだ……」



 世の中のDT(ドウテイ)が、泣いて土下座するくらいの期間だぜ。クソッタレ。


 神崎は、そんな恨み言を頭の外へ必死に追い出しながら、麗の柔らかい唇に、少しカサついた自分の唇を重ねた。

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