【2・一時帰国】キミこそ俺の探していた君 4
ひとしきりファッションショーを楽しんだ麗は、「庭を一緒に散歩したい」と言い出した。有人が来たら、絶対一緒に庭を歩こうと決めていたらしい。
神崎は部屋の隅に畳んだ車いすを見つけると、引っ張り出して広げ始めた。
「歩けるよ、有人さん~」
車いすを勧める神崎に、麗が不服そうに言った。
必要がないわけではない。ただ、神崎と手をつないで歩きたかっただけなのだ。
「なるべく疲れさせないでくれって、看護師さんに言われてるんだよ。ほら、いい子だから座って?」
言われた覚えはないが、菊池からの資料で麗の体については熟知していた。
「うーん、しょうがないなぁ」
唇をアヒルのように尖らせ、麗は渋々車いすに腰掛けた。
何故いままで彼女を見つけることが出来なかったのか、と神崎はずっと考えていた。
どんなに離れていても、今までは必ず見つけることが出来た。
運命的に出会うようになっていたのだ。
では今回は? やはり、病弱でほとんど外を出歩いていなかったせいなのだろうかと考えた。至近距離で接触出来なければ見つけることは出来ないからだ。
――しかし生まれた時期が、渡し守から聞いた時期よりもひどくズレている。米国の核兵器のせいで、時空に若干のズレが生じたのか……?
神崎は車いすを押し、麗を連れて病院の庭へ散歩に出た。梅雨も終わり、これから夏がやってくるという蒸し暑い中、広い病院の庭を日傘を差し木陰を探して歩いた。
「大丈夫? ちょっとでも気分悪くなったら言うんだよ、麗」
神崎は、背後から麗に優しく語りかけた。
麗はいつもそうしているように、小さく頷いた。
彼の微妙な罪悪感は、彼女の傍らにいられる歓びの前にいつのまにか霧散していた。
にこやかに車いすを押している彼の頭の中身は、いかに速やかに現在の仕事を別の社員に引き継いで、彼女の傍らで過ごそうか、と段取りの高速演算を行っている。
さらにもう一つの大きな案件を片付ける、というのも今回の帰国の目的であったが、こちらもかなりの難易度だ。
スムーズに運べばいいが、いや、うまく運んでみせる。麗のためにも。神崎は胸の内に強い決意を抱いていた。
『――おかえり、僕の白猫』
そんな自分は、百万回出迎えた猫、
永劫の時間を、待ち続けた野良猫。