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【2・一時帰国】キミこそ俺の探していた君 2

     ☆ ☆ ☆




 ようやく仕事を片付けた神崎は、一路東京へと向かった。


 深夜基地を出る会社の輸送機に便乗した神崎は、カタールのドーハ空港で途中下車し、そこから早朝出発の民間機で十数時間、関空を経由して成田空港に到着した。こんな長い空の旅も、愛しの麗ちゃんと会えると思えば全く苦にもならなかった。


 帰国の報せだけでもと思い、神崎は駅のホームから彼女に電話をかけた。麗の面会時間はおろか、消灯時間もとうに過ぎていた。



「ただいま。いま日本着いたよ。これから東京に向かうからね」


『おかえりなさい。成田に出迎えいけなくてごめんね』


「いいんだ、そんなこと。じゃ、電車来るから切るよ」


『うん。きをつけてね』



 神崎はドーハ空港で買った中東土産を抱え、成田エクスプレスに飛び乗った。新宿でNEX(成田エクスプレス)を下車した神崎が、麗が入院する病院近くのホテルにチェックインした頃にはもう、時刻は深夜になっていた。


 長旅で疲れていた彼は、フロントに少し遅めのモーニングコールを頼んだ。シャワーを浴びて、バスローブ姿でベッドに転がっていると、狙いすましたように麗から電話がかかってきた。



『いまどこ?』



 ごそごそと衣擦れの音がする。布団の中にもぐっているのだろう。



「ん、病院のすぐそばのホテル」


『すぐ来て。窓から手振るから』


「明日までガマンなさいって。俺疲れてるんだから、寝かせてよ~……」


『じゃいい。いつ来るの?』


 

 諦めもまた早い。ダメならダメでいいのだろうか?



「面会時間になったらすぐ行くから」


『待ってる』


「じゃ寝るよ。おやすみ」


『おやすみ~』



 麗はあっさりと電話を切った。



     ☆



 翌日、神崎は病院に併設されている小さな花屋で花束を購入した。

 

 出来合いの花束はバラにかすみ草という組み合わせだったが、少しベタな気がしたので、店員に任せて季節の花を取り混ぜにしてもらった。



「さて、髪よし。花よし。ネクタイよし。土産よし。あと、なんだ? ま、いっか」



 彼は病院のロビーの姿見でチェックをしつつ、ついてもいないズボンのほこりをパンパンとはたいた。

 意味のない行動を取ることで、神崎は逸る気持ちを抑えてはいるが、実際は麗の病状を考えると喜んでばかりもいられなかった。


 東京支社の菊池から送られた、彼女の病状に関するレポートからは、楽観出来る材料が全く見つからなかったからだ。

 臓器移植が叶わなければ、彼女はそう長くは保たないだろう。


 ――彼女はあてもなく、ドナーを待っていたのだ。


 それ故、彼女が自分に縋りたい気持ちも理解は難くなく、彼女の『来るまででもいいよ、私』などという言葉が、己の死期を悟っていることから発せられたのだと分かった。


 『なんとかしたい』そんな気持ちを胸に秘め、彼は麗の病室のドアを叩いた。

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