【2・一時帰国】キミこそ俺の探していた君 1
……ごめんよ。僕の白猫。
それとも、キミは僕の白猫?
☆ ☆ ☆
神崎は、急ぎ日本に帰るため、猛烈な速度で仕事を片付けていた。もちろん愛しの麗ちゃんに一秒でも早く逢うためである。本気の神崎に不可能はない。
もともと『彼女』に逢えない寂しさを紛らわすため、自主的に仕事漬けになっている男なので、当然ながら滅多に休暇を取ることもない。そんな彼が一週間の臨時休暇を要求した時、NYの本社オフィスが騒然となった。
『なんだって!? 神崎が休暇の要請だと? 大変だ!!』
病気なのか、余所の会社からの引き抜きなのか、それとも密かに現場で誰かにいじめられたのか……。
ああ見えて神崎は非常にいじけやすい性格だから、きっとそれに違いない! と、何故か犯人捜しが始まってしまった。
早速犯人の洗い出しが始まったのだが、当然ながらそんな人間など存在しない。
それに気づいた本人が
「んなわきゃねぇだろ! クソッタレ共めらが!」
と、電話で怒鳴り散らして事態は収束。
いじめ説は一瞬で鎮火し、本社の言い出しっぺがオフィスで袋だたきにあっていた、ということは神崎本人に聞かされることはなかった。
神崎は毎晩どころか昼間でも、ところ構わず麗にラブコールをしまくるので、電話料金が天文学的な金額になっていたが、そんなことはどうでもよかった。
彼にとって、麗の声を聞けることは何物にも換えがたかったのだ。
まもなく二人は、夜間はゲームを休んで、PCを使ったテレビ電話で話すようになった。
最早神崎にとって、代替品のゲームなど、どうでもよくなっていたのだから、プレイしなくなるのも当然と言えよう。
結果、神崎にとって麗の存在は、そして麗にとっても神崎の存在は、いつしか大きな心の支えとなっていた。
帰国に先立ち、神崎は麗の母親への根回しとして、病室に幾度か花を届けた。
麗には、中東に出張中の知り合いが近々見舞いに来るということを、それとなく母親に伝えるよう言ってある。
そうしないと、いきなり病室に見ず知らずの男が来たら警備員につまみ出されてしまうからだ。
未然に防げるトラブルは極力除去しておくのがスマートなやりかたというものだろうが、実際にはママ上に嫌われては、たとえ大企業の御曹司といえども彼女とお付き合い出来ないのだ。
さしあたり何事もなく休暇願いは受理され、神崎が日本に帰国出来たのは、麗と初めて電話で話してから二週間後――すっかり二人の仲が出来上がってからだった。