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【1・キミが君でなくとも】ネトゲ彼女と交際します 7

「おいおい……回りくどいって……。参ったな。……あ、番号きた」



 画面に表示された彼女の携帯番号を手元のイリジウムに一つ一つ確認しつつ打ち込む。人工衛星にアクセスする、呼び出し音が鳴るまでの無音時間が、やけに長く感じる。


 ごくり。と生唾を飲み込んだ。

 一体、なんて言えば。――傷つけなくて済むのか。諦めてもらえるのか。


(諦めてほしくなんかないくせに)


 うるさい、やめろ、バカ。俺には――



「あ、繋がった」


「も、もしもし。アルです。いや、――神崎有人です」


『あ……もしもし、かけさせちゃってごめんなさい……フラウです……』



 電話口から聞こえるその声は、鈴を転がしたような、可愛らしい声だった。背後で、ゲームのBGMがかすかに聞こえてくる。



「キミは無理に本名を名乗らなくてもいい。PC名だけで、かまわないから」


『ううん、私だけ名乗らないなんておかしいし。塩野義麗(しおのぎうらら)っていいます』


(うらら、か。かわいい名前だな……)



「麗さん、か。いい名前だね」


『アルさんて、ほんとに「アル」なんだ。まんまだね。うふふ』



 屈託なく笑う様は、ゲームの中の彼女とまったく同じだった。彼女も、口に出すことをそのまま打ち込んでいたのか――。



「まぁ、名前とか考えるのめんどくさいでしょ。だから。……それはそうと、その……」

『めんどくさいですか? 私のこと構うの』

「えっ……。どうしてそう、ストレートに答えにくいことを言うんだ?」

『聞きたいことを、そのまま聞いた方が誤解ないでしょ?』

「うーん……イヤなら、毎日毎日構ってなんかいないよ」



 たしかに、普段の彼女は裏表がなく、物言いが直球なことが多い。多少は分かっていたものの、こういうデリケートな話題の際は扱いに困ってしまう。



『こういうこと言われると、うれしいけど困るの?』

「いや……あ……うぅ……」

『やっぱホントは迷惑なんだ』

「えっ……、あ、そういう意味じゃなくて……。ああ、参ったな……ごめん、困ってる」



 すっかり麗にイニシアチブを取られ、しどろもどろになってしまった。しかし、相手が女の子で本当に良かった、と彼は心から思っていた。



『同じなんですね』



 そう言うと、麗はくすくすと笑った。



「な、なにが?」

『あっちでも、こっちでも、アルさんは同じ人なんだなって』

「あ……あはっはははははっ……、俺も、今全く同じこと考えてた」



 一気に力が抜けた。無論問題は何も解決してはいないのだが。



『表裏ある人キライだから、そのまま言っちゃうんだと思う、私』

「そっか。ところで今、病院、なんだよね。ケガ? 病気?」



 少し精神的余裕が出来たところで、彼女の様子をうかがってみた。



『中学上がる前くらいから、ずっと病気で。いま二十歳だから……、八年くらいかな』

「……そんなに長く……」



 神崎は思わず歯噛みをしていた。

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