【1・キミが君でなくとも】ネトゲ彼女と交際します 2
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神崎有人は民間軍事会社GSS社の平社員である。彼は本来の任務ではなく、イレギュラーな任務『御用聞き』に日々専念していたのだった。
――とは言いづらく、実際は珍しく出来たガールフレンド(?)との交流が楽しくて、毎日毎日、夜が訪れるのを心から待ち遠しく感じていた。
日本との時差は四時間、彼女のログイン時間が七時。
それに合わせるように、昼間は一生懸命(?)仕事をして、三時前には自室に戻るという状態だ。
夕食も、食堂からトレーごと自室に持ち込んで、ゲームの片手間に食事をするといった徹底ぶり。ただの暇つぶしだったゲームが、今や彼の生きがいにまで格上げされていた。
営業成績的に結果オーライならば、多少早上がりして「ネトゲで女の子と待ち合わせをする」なんてことは、全て『正当化される』はずなのだ。
――彼はそう、強く信じていた。
だってマジ売り上げ出してるもん。文句あっか。――である。
愛しいFlawのアカウントから個人情報を手に入れることくらい、神崎には朝飯前ではあったが「さすがに野暮だ」と思い、このお付き合いを自然に任せていた。
――いや、まだ本当に女の子と決まったわけではないけども、というか、女の子じゃない可能性もそれなりにはあるのだろうけど、でも多分俺の勘じゃ女子だし、しかし、猫な人はいろいろ問題ありそうで要注意そうだってことも、この業界に長い自分には重々承知な特記事項ではあるけども、でもでもしかし。
――別に自分は「奉仕種族」ってわけじゃないし、誰かに喜んで欲しいだけー、とか、役に立ちたいー、とかってつもりで付き合ってるわけじゃないし、つかそんな純粋なことを考えるほどピュアな男じゃないし、というか、いい加減荒み切って薄汚れている自覚は激しくあるわけで。
――つかこんな、メンヘラ傭兵兼戦神崩れなんか、世の中のゴミだからとっとと死んでしまえばいいのに、とか毎日思っているくせ自殺する根性もないから、ズルズル何万年も生きてるわけで。
――いや、一度だけしたことあったっけか。あんときゃたしか、刃物で喉を景気よく掻き切ったんだっけか。すぐに見つかって、兄貴に首を縫合されちまったんだっけな。……余計なことしやがって。
――ともかく、下心ははっきりとある。百%自覚はある。しかし、一般的な下心とはベクトルがちょっと違うから、一般的見地で「下心はない」と見なされているだけに過ぎない。しかしそのくだらない下心のせいでしょっちゅう自爆していることは最重要機密だ。
というわけで、彼は毎日、陽が傾く頃が待ち遠しかった。
片思いでも構わない。ちゃんと「いる」誰かを想っていたかった。
それほどまでに、彼の心は飢え、乾き、潤いを求めていた。