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【1・キミが君でなくとも】ネトゲ彼女と交際します 1

『――白猫なんて、いるのかな? いっそ茶猫でも、いいかもね?』


 そんな自分は、百万回迷う猫、

 永久の時間を、ふて腐れ歩く野良猫。



     ☆ ☆ ☆



 先日の補給で、おにぎりのラインナップも増えて食生活は向上し仕事も順調、神崎青年は悠々自適な御用聞きライフを満喫していた。彼としては毎度吐いちゃうような過酷な任務ばかり押しつけられるのだから、たまにはゆっくりさせてくれよ、という気分だった。



「ボス、そろそろ起きて下さいよ。お昼寝は一時間半までですよ~」



 事務所のソファで昼寝をしていた神崎は、イケメンゲルマン事務員のカールに揺り起こされた。時刻は既に午後の二時をまわり、とっくに昼休みは終わっている。


神崎の自室よりも涼しくて寝やすいオフィスは格好のお昼寝スポットだった。無論ソファはフカフカで、人間どころか神すらダメにするブツに買い換えてある。


 ――つまり、神崎はハナから昼寝をする気マンマンというわけだ。


 気持ち良さそうに寝ている駄戦神(カンザキ)を起こすのは、何故かいつもカールの仕事だった。他の連中が起こそうとすると、寝ぼけた神崎に強く首根っこを掴まれて、度々窒息しそうになったことがあった。それゆえ怖がって誰もやりたがらないのだ。



「うーん……。いま何時?」



 神崎は眠そうに目をこすりながらカールに訊いた。もう二時過ぎてますよとため息交じりに言われると、神崎はもそもそと体を起こした。


「まったく、これが今月ひと月で三億ドルも売った男なんですかねぇ……」


「俺じゃなくてもそのくらい誰でも売れる。今までこの国まで商売をしに来る根性のある奴がいなかっただけに過ぎないよ」


 神崎は横目で彼を睨みながら気怠そうに言うと、机の上に放置して冷め切ったコーヒーのカップを取り、親会社から送られた分厚いファックスの束を読み始めた。内容は、先日神崎が調達を依頼した中古兵器の購入リストだった。



「あ……ん?」



 神崎は眉根を寄せ、ファックスの何枚めかでふと手を止めた。



「たく、あいつら頭沸いてやがる……」



 神崎の機嫌の悪いときは汚い日本語を使っているとき、と相場が決まっているので、これは悪い報せだな、と丁稚(でっち)ーズは皆感じていた。

 普段彼等と神崎との会話はドイツ語だったが、彼等にとっては、神崎に日本語で罵られるよりも、ドイツ語で罵られる方が数倍恐ろしいらしい。


 最後までファックスの内容を確認し終えると、彼は険しい表情のままNY(ニューヨーク)の親会社に電話をかけた。そこでの公用語は英語だ。



「…………で、何でこんなもの買ったんだ? 必要なものがないならないで、勝手に買わないで何でこっちに一報入れてこないんだ」



 購入担当者は、神崎のリクエストした中古の自動小銃が、別の業者に押さえられてしまった、とこわごわ説明を始めた。



「で、ちょい高だけど? ふん、こっちの方が性能が上だから、いいんじゃないかと思って? ……ふざけるな!」



 神崎の怒鳴り声で、課員全員が身を縮みあがらせた。



「誰が性能のいいモノに変更しろって言ったんだ! これじゃ、アホどもがすぐブッ壊すに決まってるじゃないか! 数揃ってなくてもいいから、あるだけ押さえて発送しろ。あ、忘れずに一度メンテしてからだ。足りない分は継続して仕入れろ。いいな!」



 ガチャン!

 神崎は、受話器を乱暴に置いた。


 ふと丁稚ーズがビビリ上がっているのに気づいた。


 ……ひどく気まずい。


 いたずらに怯えられるのも切ないので、神崎は仕方なく丁稚ーズにコーヒーを入れてやることにした。


 使い捨てのカップを人数分並べ、コーヒーサーバーにセットしようとしたところで電話が鳴った。

 電話はカールが間髪入れずに取ったようだ。


 ――ロシア語で対応している所を見ると、政府関係者だろうか。



「ボス、大統領府から、ボスに出演……? の依頼です」



 カップをいじっている神崎の背後から、カールが(いぶか)しげな顔で声をかけた。



「うえっ……こないだの余興がクセになったのか。じゃあ、突き指してるからダメだ、って断っておいてくれ」



 大きくため息をつくと、神崎はコーヒーサーバーのスイッチを入れた。

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