【2・猫の人と中の人】ネカマ……じゃないよ? 3 (麗 視点)
「あぶないあぶない、よかった、商社マンさんいてくれて」
ふぅ、と息を吐くと、麗はログアウトの解除をした。
六十秒のカウントダウン中であれば、いつでも解除出来る仕組みだ。
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Flaw:
ふう、危なかった。@三十秒くらいでしたw
Alphonce:
よかった(^_^) 俺が街まで護衛するから、一緒に行きましょう。
Flaw:
かえって迷惑かけてしまって、ごめんなさい(T-T)
Alphonce:
いえいえ。気にしないで。ここじゃみんなそうやって助け合って生きてるんだから
(助け合って生きてる……? まるで――)
Flaw:
まるで、ほんとにここに住んでるみたいに言うんですね
Alphonce:
ああ半分そんなもんですよ。時間的にじゃなくて、気持ち的に、というか。
Flaw:
気持ち的に、ですか?
Alphonce:
あはは、廃人の戯れ言なんで聞き流して下さい。はい、行きますよ!
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FlawはAlphonceの後にぴったりくっついて、雪道をざくざくと歩き、途中気配を消す魔法などをかけてもらいつつ、巨人や魔法生物などの間をくぐって、街までの洞窟を歩いていった。
自分一人でこの洞窟を抜けたときは、いつ敵に見つかるかと必死だった。なのに今は全ての脅威を素通りしている。
麗は、ちょっとした優越感に浸っていた。
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Flaw:
私もね、似たようなこと考えてました
Alphonce:
似たような事って? どんな?
Flaw:
私も『気持ち的に』ここに住んでる、って
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入院生活のため自由の少ない彼女にとって、思うままどこにでも行かれるこの世界は、とても魅力的だった。気が付けば、心が世界に入り込んでいることも少なくなかった。
聞こえるはずのない川のせせらぎや、踏みしめる枯れ草の感触、草原をわたる風が髪を揺らす感触、湿った霧の立ちこめる森の匂い……。
どれもリアルではないけれど、自分の意思で見て歩いている場所だからこそ、そこに在る、と感じられることもあった。
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Alphonce:
え? ・・・それはマズイ傾向かもw 足洗えなくなりますよwww 早く他の楽しみ探すことをオススメします(ォィ)
Flaw:
洗えなくっていいんです。べつに。洗ったって、することないから
Alphonce:
ま、そういう危険性のある場所だ、ということだけ頭のスミに入れておいてもいいかもな、ってことで。(経験者談)
Flaw:
はーい。センパイw
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麗の最後の言葉に答えず、彼はそのまま道を急いでいた。実際、街へは僅かな距離を残すだけだったのだ。でもそれが、彼女には少し冷たく感じられた。
「なんか気を悪くするようなこと……言っちゃったかなぁ。明日でもでメッセ流しとこ」
思いの外早く街に着いて、麗は安心したと同時に、少し寂しい気もしていた。別の誰かと一緒に行動する事自体、彼女にとっては貴重な体験だったからだ。
洞窟の終点までやってくると、二人は街への入り口をくぐった。
画面が暗転し、now loadingの表示が出た。
ダウンロードを終え、二人は街へと戻ってきた。
洞窟と繋がっていたのは「港」と呼ばれるエリアで、ここから周辺各国への定期便が就航している。しかしパスを持たないFlawは、まだこの空を走る定期便に乗ることは出来ず、彼女は、いつになったら乗れるのだろう、と憧れと諦めの混ざった気持ちで見上げるばかりだった。
――やっぱり、自分にはこの街はまぶしすぎる――
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Flaw:
とうちゃーく!
Alphonce:
はーい、おつかれさまでした。そうだ、名前、なんて読むんですか?
Flaw:
フラウでお願いしまーす(^_^) そちらは?
Alphonce:
長いんで、アルでいいです。
Flaw:
今日はどうもありがとう、アルさん。じゃ、おやすみなさーい(^^)/
>FlawはAlphonceにていねいにお辞儀した
Alphonce:
はーい、おつでした
>AlphonceはFlawに手を振った
Alphonce:
そうそう、俺が猫至上主義なのは最高機密ですよ。では。
>Alphonceはニヤリと笑った
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そう言うと、Alphonceは踵を返して、再び島へと渡っていった。
「面白い人……」
麗はくすりと笑った。
ふと、廊下の方で足音がした。無論リアルの方である。ドアについている小さな窓から、ナースの照らす懐中電灯の明かりが僅かに見える。
「やば、消さないと」
麗は慌ててベッド脇の照明を落とし、ノートPCを閉めて布団を被った。