表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/91

【2・猫の人と中の人】ネカマ……じゃないよ? 3 (麗 視点)

「あぶないあぶない、よかった、商社マンさんいてくれて」



 ふぅ、と息を吐くと、麗はログアウトの解除をした。

 六十秒のカウントダウン中であれば、いつでも解除出来る仕組みだ。



 ===== ===== ===== =====



 Flaw:

 ふう、危なかった。@三十秒くらいでしたw


 Alphonce:

 よかった(^_^) 俺が街まで護衛するから、一緒に行きましょう。


 Flaw:

 かえって迷惑かけてしまって、ごめんなさい(T-T)


 Alphonce:

 いえいえ。気にしないで。ここじゃみんなそうやって助け合って生きてるんだから



(助け合って生きてる……? まるで――)



 Flaw:

 まるで、ほんとにここに住んでるみたいに言うんですね


 Alphonce:

 ああ半分そんなもんですよ。時間的にじゃなくて、気持ち的に、というか。


 Flaw:

 気持ち的に、ですか?


 Alphonce:

 あはは、廃人の戯れ言なんで聞き流して下さい。はい、行きますよ!



 ===== ===== ===== =====



 FlawはAlphonceの後にぴったりくっついて、雪道をざくざくと歩き、途中気配を消す魔法などをかけてもらいつつ、巨人や魔法生物などの間をくぐって、街までの洞窟を歩いていった。


 自分一人でこの洞窟を抜けたときは、いつ敵に見つかるかと必死だった。なのに今は全ての脅威を素通りしている。


 麗は、ちょっとした優越感に浸っていた。



 ===== ===== ===== =====



 Flaw:

 私もね、似たようなこと考えてました


 Alphonce:

 似たような事って? どんな?


 Flaw:

 私も『気持ち的に』ここに住んでる、って



 ===== ===== ===== =====



 入院生活のため自由の少ない彼女にとって、思うままどこにでも行かれるこの世界は、とても魅力的だった。気が付けば、心が世界に入り込んでいることも少なくなかった。


 聞こえるはずのない川のせせらぎや、踏みしめる枯れ草の感触、草原をわたる風が髪を揺らす感触、湿った霧の立ちこめる森の匂い……。


 どれもリアルではないけれど、自分の意思で見て歩いている場所だからこそ、そこに在る、と感じられることもあった。



 ===== ===== ===== =====


 Alphonce:

 え? ・・・それはマズイ傾向かもw 足洗えなくなりますよwww 早く他の楽しみ探すことをオススメします(ォィ)


 Flaw:

 洗えなくっていいんです。べつに。洗ったって、することないから


 Alphonce:

 ま、そういう危険性のある場所だ、ということだけ頭のスミに入れておいてもいいかもな、ってことで。(経験者談)


 Flaw:

 はーい。センパイw



 ===== ===== ===== =====



 麗の最後の言葉に答えず、彼はそのまま道を急いでいた。実際、街へは僅かな距離を残すだけだったのだ。でもそれが、彼女には少し冷たく感じられた。


「なんか気を悪くするようなこと……言っちゃったかなぁ。明日でもでメッセ流しとこ」


 思いの外早く街に着いて、麗は安心したと同時に、少し寂しい気もしていた。別の誰かと一緒に行動する事自体、彼女にとっては貴重な体験だったからだ。


 洞窟の終点までやってくると、二人は街への入り口をくぐった。

 画面が暗転し、now loadingの表示が出た。

 ダウンロードを終え、二人は街へと戻ってきた。


 洞窟と繋がっていたのは「港」と呼ばれるエリアで、ここから周辺各国への定期便が就航している。しかしパスを持たないFlawは、まだこの空を走る定期便に乗ることは出来ず、彼女は、いつになったら乗れるのだろう、と憧れと諦めの混ざった気持ちで見上げるばかりだった。


 ――やっぱり、自分にはこの街はまぶしすぎる――



 ===== ===== ===== =====



 Flaw:

 とうちゃーく!


 Alphonce:

 はーい、おつかれさまでした。そうだ、名前、なんて読むんですか?


 Flaw:

 フラウでお願いしまーす(^_^) そちらは?


 Alphonce:

 長いんで、アルでいいです。


 Flaw:

 今日はどうもありがとう、アルさん。じゃ、おやすみなさーい(^^)/

 >FlawはAlphonceにていねいにお辞儀した


 Alphonce:

 はーい、おつでした

 >AlphonceはFlawに手を振った


 Alphonce:

 そうそう、俺が猫至上主義なのは最高機密ですよ。では。

 >Alphonceはニヤリと笑った



 ===== ===== ===== =====



 そう言うと、Alphonceは(きびす)を返して、再び島へと渡っていった。



「面白い人……」



 麗はくすりと笑った。

 ふと、廊下の方で足音がした。無論リアルの方である。ドアについている小さな窓から、ナースの照らす懐中電灯の明かりが僅かに見える。



「やば、消さないと」



 麗は慌ててベッド脇の照明を落とし、ノートPCを閉めて布団を被った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ