表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/91

【2・猫の人と中の人】ネカマ……じゃないよ? 1 (麗 視点)

 ――自分は淋しい、籠の中の白猫。



 ☆ ☆ ☆



 その晩、東京は雨だった。

 日本はもう、雨期に入っている。


 壁に掛けられた時計の針は午後十時を回り、室内には湿り気を帯びた冷たい空気が満ちている。


 明かりを落とした殺風景な部屋の中で、ベッド脇のサイドテーブルに置いた、読書用ランプの小さな明かりと、ノートPCから漏れる光だけが、この部屋の主の姿をおぼろげに浮かび上がらせている。



「やさしいなぁ……商社マンさん。うふふ……」



 コントローラーを握るうら若き乙女、塩野義麗(しおのぎうらら)は、嬉しそうにそう呟いた。



 ===== ===== ===== =====

 >clock 22:25:39

 >Server No.10 : Tricorn

 >【North Island】

 ===== ===== ===== =====



「うわ~、強化かかってるとこんなに違うんだ……。すごいなぁ……」



 自分の分身である猫型の獣人キャラが、見違えるように強くなったのを目の当たりにして、麗は高位の強化魔法の絶大な威力を噛みしめていた。


 PL(パワーレベリング)は世間体を気にする日本人プレイヤーの間でモラル的に問題視されることが多い。しかし麗が今まで、こうした恩恵を受けずに来たのは、何もモラルを気にしていたというわけではなく、誰とも絡まずに孤独なプレイを続けてきたからに過ぎなかった。


 ――ふと、Flawの体が光の結晶に包まれた。強化しなおすにはまだ早い。



 ===== ===== ===== =====



 Flaw:

 あれ、なんでですか?


 Alphonce:

 ああ、魔法切れたから、かけなおしてただけ。こないだのアップデートで修正が入ってね、レベル差が大きいと、すぐに強化が切れてしまうようになったんだ。気にしないで、どんどんミミズ叩いてていいですよ。時間もったいないから。


 Flaw:

 はーい、ありがとうございます(^_^)



 ===== ===== ===== =====



「へー。なんでそんな修正するんだろ。面倒なだけなのに」



 麗は画面の向こうの彼のいうままに、どんどん大ミミズを切り倒していった。

 信じられない量の経験値が入り、どんどんレベルが上がっていく。いきなりこんなインフレ状態を目の当たりにして、麗は軽い興奮状態になっていた。


 普段はリスクの低い、弱い相手ばかりと戦っていたため中々レベルが上がらず、業を煮やしてこの島に単独でやってきてしまったが、結果は言わずもがなだった。


 その後、死体のまま誰かを待っていたところ、呑気に釣りなどしにふらふらとやってきた彼、Alphonceに救助されて現在に至る、という次第だ。



「あ、もう時間かぁ……。今日はなんか、ちょっと短かったなぁ……」



 麗は残念そうにつぶやいた。大分調子も上がってきたところだったので、もう少し続けたかったが、さすがにこれ以上起きていると翌日に支障が出てしまう。

 約束の時間になったので、プレイを切り上げることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ