【1・中の国】ネトゲがなかったら今ごろ死んでる 7
「にしても、なんでこの猫、こんな場所でソロってんだろ?」
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Alphonce:
ところで、今日はソロなんですか?
Flaw:
はい・・・というかいつもソロです。PTだと迷惑かけちゃうことがあるので
Alphonce:
迷惑?
Flaw:
要領わるいし、ときどき都合で席を外さないといけないから、長時間拘束されるとつらいので・・・だから、めったにやらないんです
Alphonce:
そうなんだ。今日はあんまり釣れないし、よかったらPLしましょうか?
Flaw:
え、悪いですよ。どうぞお気になさらず、釣りなさってください^^
Alphonce:
いやいや俺は別に構わないですよ。ヒマだし。一人だと効率悪いでしょう?
Flaw:
ホントに?うん、じゃ、お願いしちゃおうかな・・・ちょっとだけ
Alphonce:
あいあい。じゃいま六時半くらいだからPLするの八時まででいいですか?
Flaw:
え?今十時半ですよ。もしかして、時計遅れてますか?
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(あ、しまった! 日本との時差があったんだ。ええっと……今向こうは十時半?)
神崎は時差を失念していた。素早く暗算で日本の現在時間を弾き出す。
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Alphonce:
ああ、ごめんなさい。日本はもう結構遅い時間なんですよね。大丈夫?
Flaw:
時間は大丈夫です。・・・もしかして、外人さん?日本語お上手ですね!
Alphonce:
いえいえ、俺日本人ですよw仕事で海外に赴任しているんです
Flaw:
へー、すごいですね!四時間の時差というと、アジア方面ですか?
Alphonce:
そうですね。中東です。商社に勤めてます(^^)/
Flaw:
おお、商社マン!エリートさんなんだ!カッコイイ!すごいですね☆
Alphonce:
イヤイヤ(#^_^#) ああ、猫さん、時間もったいないから、始めましょ?
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「エリートさんねぇ……。そんないいモンじゃないデスよ、俺は……」
そう、神崎はうそぶいた。
うっかり外人扱いされるところだったのが、いつのまにやら自分はエリート商社マンになっていた。そんなのはここでは良くあることだ、と彼は苦笑した。
そして、鼻の頭の汗を手の甲でぬぐって、少しぬるくなったドイツ産ノンアルコールビールを少々、喉にトロリと流し込む。事務所は空調がよく効いているが、自室の寝床は微妙に暑い。トランクス一枚の尻の下がムレてきたので、彼はうつぶせに転がった。
(まぁ個室が与えられているだけマシではあるが。後でサーキュレーターを注文しよう)
彼が先ほどから彼女に施している「PL」という作業は、パワーレベリングの略称である。
高レベルプレイヤーに回復などの補助してもらいながら、早いスピードで経験値を稼ぐプレイスタイルのことで、モラル的にグレーゾーンなため、PLを嫌うプレイヤーは極端に嫌う。
が、キャラクターの育成にべらぼうな時間のかかるこのゲームでは、必要悪として捉える向きも多い。
Alphonceは彼女に、攻撃速度を上げる強化魔法を追加で施した。そして、「手短な所からどんどん敵を倒していこう」と彼女に促した。
彼の仕事は、敵に削り取られた彼女のHPを湯水のように回復してやること。こうすれば彼女は敵からのダメージを気にすることなく、連続して戦闘を繰り返すことが出来る。
「さーて、残り一時間半、どこまでレベル上げられるかな……」
彼女は尻尾を振りながら、懸命に大ミミズ相手に剣を振り回している。
やっ! と可愛い声を上げながら、バシバシと一心不乱にミミズを叩いている。
(そうだ、がんばれ、俺がついてるぞ)
Alphonceの中の人、神崎有人は、モニタ越しに猫の人を心から応援していた。