【1・中の国】ネトゲがなかったら今ごろ死んでる 6
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Flaw:
ありがとうございました! 助かります
>Flawはていねいにおじぎをした
Alphonce:
どういたしまして。衰弱治るまで見ててあげるから、こっちで座ってて。
Flaw:
すみません・・・お手間かけます(T-T)
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――彼女の名は、『彼女』の名だったのだ。
恋しさに奪われかけた平常心を、彼は必死に取り戻そうと努力した。鍛え上げられた軍人でもある彼は数瞬の葛藤の後、心の何割かの指揮権を取り戻した。
Alphonceが池の上に張った氷の上に招くと、彼女は長い尻尾をゆらゆら揺らしながら側にやってきて彼の足元でひざまずいた。それが休息のポーズなのだ。このポーズを取ると、体力が回復するシステムになっている。
それを見届けると彼は当初の目的である釣りを始めた。彼は腰から古びた竿を取り出すと、慣れた手つきで振り出し、ルアーを水面に投げ入れた。ぽちゃん、と音を立ててルアーは雪まじりの池にゆっくりと沈んでいく。
それを眺めながら、つい思いついたことを口にしてしまった。
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Alphonce:
ちょっと聞いてもいいですか?
Flaw:
えーと、なんですか?
Alphonce:
そのPC名、どうして付けたんですか? 良かったら由来とか教えて下さい
Flaw:
そうですね・・・なんとなくなんですけど、RPGやるとき、自分のゲームキャラにはいつも付けてるんですよ。でも、どうしてですか?
Alphonce:
昔の知り合いが似た名前だったので、ちょっと気になっただけなんです。気に障ったらごめんなさい
Flaw:
いえいえ、ぜんぜん気にしてないですよ♪
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「……だよな。ま、そんなもんだよ……」
やっぱりというか案の定というか、望むような情報は得られず、Alphonceは再び釣りを続行した。
(空しくなるだけだ。いい加減諦めろよ、有人……)
彼は現在釣りのスキルを上げるためこの池によく通っているが、今日は日が悪いのか何なのか、釣果ははかばかしくない。
イラつきながら竿を何度も振っている。リアルでのことでムシャクシャしていた中の人は、今日はダメだな、と思っていた。
「お、衰弱治ったか」
彼は、猫の人の変化に気が付いた。衰弱状態から回復したのだ。だが体力はまだ全快してはいないため、Alphonceは猫の人に回復魔法をかけてやった。一気に彼女のHPバーが、ググっと伸びて満タンになっていく。
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Alphonce:
強化要ります?
Flaw:
はい、よろしくお願いします
>Flawはていねいにおじぎをした
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「はいはい、サービスしときますかね……」
早速、ご要望にお応えして、彼女に物理防御と魔法防御の強化魔法をかけてやる。
華麗にかつ素早く詠唱をするAlphonce。
詠唱のシメで片手を天に向かってひらりと挙げるモーションが、彼は特に気に入っていた。