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【1・中の国】ネトゲがなかったら今ごろ死んでる 4

     ☆ ☆ ☆



 ===== ===== ===== =====

 >clock 18:11:31

 >Server No.10 : Tricorn

 >【North Island】

 ===== ===== ===== =====


 エリアを移動したことを表示する、システムメッセージがチャットウィンドウに流れる。時刻は現地時間の十八時十一分だ。現在のエリアは、ノースアイランド。



 Alphonceが、街から長い長い、コウモリだらけの地下洞窟を通り抜けると、そこは切り立った断崖の島だった。洞窟は街とこの島を結ぶものであった。


 周囲は氷に覆われ、魔物が闊歩する、生けとし生ける者を拒絶するような場所だ。島の中心には不思議な形をした象牙のような塔がそびえ立つ。空にはゆらめく光の帯が輝き、時に吹雪いていた。


 島の所々には、巨大な動物の骨のような構造物が横たわって冒険者の行く手を塞ぎ、その上を、ぼろきれを丸めたような生物が、奇怪なうめき声を上げながら虚ろな目で周囲を伺っていた。



 冷たい向かい風の中、Alphonceは固い雪を踏みしめながら目的の池を目指していた。まだ太陽は天頂近くにあったはずだが、厚い雲に覆われて輪郭すら伺うことは出来ない。


 手に入れたばかりの青緑色をした西方装束は、キルティングのせいか思いの(ほか)防寒効果があり、極寒のこの島の上でも比較的上半身は快適だった。

 しかし、少し風通しのよい丈の短い足元は、風が巻き上げる粉雪で裾が凍り付き、湿り気を帯びて積もった雪が、靴底を通して体温を奪っていた。


 所在なさげに腰からぶら下がったなまくらなレイピアは、素手で触れようものなら指先が一瞬で凍りつきそうで、いざという時に、冷え切っていてすぐに抜ける気がしない。

 Alphonce自身、青緑色の西方装束は気に入っていたが、付属している〝奇妙なとんがり帽子〟だけはどうしても受け入れ難いセンスだったので、結局頭部には普段被っている赤い鍔広帽を載せていた。


 もっとも、今の自分にはこの帽子の方が遙かに似合っているし、やっぱり相応しいと思っている。この鍔広帽だけが、自分の職業を示すアイデンティティそのものだったからだ。



「はー…………」



 Alphonceは、すっかり冷え切った頬を少しでも暖めたくて、両の手のひらで顔を覆い、息をゆっくり吐いてみる。しかし、北洋を望むこの島を通り抜ける強い風は、すぐに剥き出しになった肌の体温を奪っていく……。



 ――――ような気がする。



 そう、気がしているだけ。

 これは現実ではなく、拡張現実(VR)でもない。

 でも、冷たい。確かに。



(……やるだけ無駄、か。そもそも「こいつ」は寒さなんか感じちゃいない)



 ただ見ているだけでも凍り付きそうな島の様子に、灼熱の砂漠の国にいるはずの中の人、神崎有人は、何故か寒気を感じている。

 多分、心は【中の国】にあるからだろう。


 北方からやってきた、身の丈三メートルほどもある巨人たちが闊歩している横を、何食わぬ顔でAlphonceは通り過ぎる。


 薄緑色の肌をした巨人が身につけているのは、冒険者の遺留品と思しき盾を括り付けた粗末な腰ミノと、毛皮を巻き付けただけの粗末なブーツ、そして棍棒などの粗野な武器だけ。

 彼等とて無駄に傷付きたくないと見えて、格上のAlphonceには手を出そうとはしない。それはそれで有り難いことだ。


 お互い面倒事は起こさないに越したことはない。

 それが「ここ」であっても、リアルであっても。

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