【4・おにぎり】死の商人だって自炊したい 1
神崎の赴任先は、国境から五十キロほど奥まったA国一大きい軍事基地――のはずだった。一応は軍事基地であることには間違いはなかったのだが、神崎の落胆ぶりは酷かった。
☆ ☆ ☆
神崎は基地に到着早々、
「暑いのやだーおうちかえりたいー」
と叫んで、空港から乗ってきた冷房の効いた装甲車に回れ右しそうになったが、速攻で運転手のマイケルに蹴り出されて無事着任するに至った。
ここまで彼が冷房にこだわるのは、今度の仕事はデスクワークだからだ。暑さをガマンしてのデスクワークなど考えるだけおぞましい。
絶対に空調のある所にしてくれと念を押していたにもかかわらず、基地施設のあまりのオンボロさに目眩を起こしかけていた。
さらにこの基地、施設のショボさだけでなく、骨董品クラスのポンコツ兵器や、用途不明な兵器が敷地内のそこここに転がっていた。恐らく、悪い売人にでも捕まったであろう様が、神崎には容易に見て取れた。
結局は、そんな時代遅れな装備のおかげで親会社のGBI社は大口受注を取り付けるに至るのだが――。
☆
それから半月後。
神崎が事務所で遅い昼食を取っていると、東京支社の菊池から電話がかかってきた。日本との時差は四時間、こちらは昼下がり、あちらは夕方だ。
『おう、最近どうだ? 結構いい数字出してるみたいじゃないか』
「ご苦労さまです。まぁぼちぼち、って所ですね」
神崎は口の中のおにぎりを、少しぬるくなったノンアルコールビールで一気に喉の奥に流し込む。今日はこれで三本目だった。
『なんだ、浮かない声だな。何かあったのか?』
「いや……そういうわけじゃないんですけどね」
大統領府の件もあり、一躍人気者となった神崎の商売はとても好調だった。
予想以上の営業成績に、先日金一封(微々たる金額だったが)が出たばかりだった。おかげで直属の上司である菊池はご満悦で、最近ひんぱんに電話をかけてくる。
しかし、売り上げの大きな部分を占めているのが、実はGSS社員のムダ遣いだったということは、上司にはなかなか言い出せなかった。
自分がこの現場に派遣されたのは、一ドルでも多く顧客から絞り上げるため。
なのに連日、宵越しの銭は持たないとばかりに、カラーコピーした商品カタログ片手に、神崎のデスクを訪れる「ムダ遣い志望」の社員たちが後を絶たず、彼は頭を抱えていた。
ホントは顧客用のカタログなんだけどさぁ、とぼやく神崎を無視して、社員たちは日頃のストレスを膨大な買い物で発散していた。
民間軍事会社の社員ともなれば、それなりに刹那的な生活をしている訳だが、ア○ゾンも届かないような場所で好きなものが買えるとなれば、手当たり次第注文したくなるのが人情というものだ。
おかげでこんな場末のコンビニ、神崎マートの売り上げはうなぎ登りだった。
『ん? なんだ、煮え切らないな、お前らしくもない』
「自分の仕事の結果にイマイチ納得出来てない、というカンジで」
『大そうな数字だと上は言ってるんだ、もっと自信持て』
「ありがとうございます。他に何かありますか」
『いや。それじゃ頑張れよ。以上だ』
「了解」
彼は電話を切ると、昼食を再開した。