98 楽しいショッピング
俺と伊勢崎さんはレイマール商会を訪れた。エントランスにいた従業員に取り次ぎを頼むと、すぐさま俺の担当となっている金髪イケメンヒゲのライアスが小走りでやってきて深々と頭を下げる。
「お久しぶりです、マツナガ様に奥様。ご来店いただきありがとうございます」
「どうもお久しぶりです、ライアスさん。今回もお世話になります」
「いえいえ、私のほうこそ毎度ご贔屓にしていただき、ありがとうございます。ところでマツナガ様は領都の旅にご同行されたそうですね。レヴィーリア様からそのように窺っております。それでその……」
どこか言いにくそうに視線をさまよわせるライアス。
「あの、どうかしましたか?」
「何度か当商会にレヴィーリア様がお越しになられたのですが、マツナガ様を見かけたら官邸に来るようにと言付かっております。その……ずいぶんとお探しのようでしたので、なるべく早くお伺いしたほうがよろしいかと……」
そういえばレヴィーリア様とはグランダに戻ったら訪問する約束をしているんだった。とはいえ、こっちもいろいろと所用があったので仕方ないんだけど。
「そうですか、それでは後ほど伺おうかと思います。ですがまずは商談の方を進めさせていただいても?」
「はいっ、もちろんでございます!」
待ってましたとばかりにライアスは笑顔をこぼし、俺たちを応接室へと案内した。どうやら相変わらず俺の持ち込む日本の商品は好評のようだ。
今の俺の財布にはアースドラゴンの売却益1億Gがあるものの、あぶく銭なんかはあっという間になくなるものだ。これからもなるべくコツコツと稼いでいくつもりだよ。
そうして今回も毎度お馴染みとなったライターやボールペン、LEDライトにウイスキー等などを販売し、400万Gほどを荒稼ぎ。
購入価格が4万円程度なのを考えると笑いが止まらないような利益率なのだけど、この儲けはこれからのショッピングで儚くも消えていくことになる。お目当ての魔道具はお高いのだ。
俺は商談がまとまりホクホク顔のライアスに頼み、魔道具を見せてもらうことにした。俺たちはライアスを先頭に、商会の建物内にある魔道具が陳列されているフロアへと向かう。
その道すがら、こそこそと小声で伊勢崎さんが話しかけてきた。
「うふふっ、楽しみですわね。おじさま♪」
「そうだね。伊勢崎さんはアドバイスを頼むよ。俺は魔道具を買うの初めてだからさ」
「はい、お任せください!」
むんと胸を張って答える伊勢崎さん。とても心強いね。
◇◇◇
俺たちは広々としたフロアに到着した。この場所は以前も少し見学させてもらったことがあるのだけれど、本来は卸売のためのショールームのようなものらしい。
しかし今回俺たちはここに陳列された魔道具を、特別に直接売ってもらえることになっている。すっかり上客として認定されたようで、ちょっとした優越感を感じるね。
ずらりと並ぶ様々な魔道具を眺めながら、俺はお目当ての物を探すことにした。
とにかく家電から魔道具に置き換わりそうなものをじゃんじゃん購入したい。魔道具は俺の魔力を魔石に注入すれば動くので、電気もガスもいらないのだ。
――しかし、フロアの手前からいくつかの魔道具を見せてもらったものの、やはり性能だけを比較するなら地球製の方が高性能な物が多い。
例えば魔道具の照明器具は明かりがどこかぼんやりとしているし、洗濯機っぽい物は中の水をグルグルとかき回すだけ。
最近開発されたという掃除機にいたっては、音がすごくデカくてとても自宅のマンションでは使えない。こんなのを使っていたらご近所トラブルの元だろう。これらの魔道具は家電に置き換えることは無理のようだ。
そういうことで、次は本命の魔道コンロを見せてもらうことにした。コンロに必要なものは火力のみ。そして火力は家電のコンロと変わらないというのは、エミーの宿に置かれた魔道コンロで調査済である。
ライアスに案内された陳列棚には、バーナーが一口の魔道コンロから、業務用と思われる五口までついた魔道コンロが並んでいた。
一品一品が手作りのようで同じ商品でも微妙に形が違ったりするけれど、見た目は日本製とさほど変わらない。家電コンロならメーカーのロゴなんかがプリントされているであろう箇所に『シャグナ』と職人の銘らしきものが刻まれているくらいだろうか。
まあ魚焼きなんかに使うグリルも付いてはないけれど、そもそも俺は自宅のグリルも使ったことなかったので問題はない。
ただしグリルなしとはいえ、値段は結構お高い。レイマール商会で売られている魔道コンロはそれだけ高品質なのだ。
火力が強い上、魔力を貯める魔石の燃費もよく、万が一の安全装置まで備えているらしい。
そういえば俺はエミーの宿の魔道コンロでうっかり火柱をぶっ立てたことがあるけれど、そういう事故もここの商品なら防いでくれるのだとライアスは説明してくれた。
そんな魔道コンロはバーナーが一口の物でも50万G。五口の魔道コンロともなると、なんと500万Gほどの価格である。
「さて、どれにしようかな……?」
ぽつりとつぶやきながら俺は陳列棚を眺める。
やはりここは一口コンロだろうか。陳列されてる中で最安ではあるけれど、値段に惹かれただけではない。
俺のマンションの前の住人が置いていき、そのまま使わせてもらっているコンロが一口コンロなのだ。同じ一口なら使い勝手もさほど変わらないだろうし、これで十分だろう。
よし、これにするか。
俺は少し離れた場所で控えているライアスを呼ぼうとした。
「――あの、おじさま?」
しかしそこで伊勢崎さんから待ったが入ったのだった。




