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74 ドルネシア商会

 大通りの途中で脇道に入り、その道を真っ直ぐ歩いていると、ふいに伊勢崎さんが向こうに見える店を指差した。


「おじさま、あの建物ですわ」


 入り口に掲げられた看板には「魔物取り扱い ドルネシア商会」と書かれている。ここで間違いなさそうだね。


 事前にレヴィーリア様から聞いたのだが、この店は冒険者ギルドに魔物素材の依頼して買い取り、加工したそれを別の業者に販売する――いわば魔物素材の卸売業者なのだそうだ。


 本来なら個人の売買は受け付けていないみたいだけど、そこは貴族パワーである。


「それにしても伊勢崎さんはこんな店の場所をよく知っていたね。どんな用事があったの?」


「いえ、訪れたことはありませんわ。領都に呼ばれた頃にはもう大聖女と言われてまして、外を出歩く自由はほとんどありませんでした。それで与えられた部屋で、ヒマ潰しによく町の地図を眺めていましたので……」


 遠い目をしながら滔々(とうとう)と語る伊勢崎さん。なんとも不憫(ふびん)である。せめてこの後の観光は彼女にも楽しんでもらいたいものだよ。



 ◇◇◇



 店に入ると広々としたエントランスホールが俺たちを出迎えてくれた。


 ホール内には何かの魔物の牙や毛皮が陳列されたショーケースに飾られており、なんともいえない高級感が漂う。さすがは伯爵家御用達のお店だ。


 ホールの奥にある受付カウンターで受付嬢が俺たちを見て丁寧に頭を下げた。


「いらっしゃいませ、ドルネシア商会にようこそ。どのような御用でしょうか?」


「どうも。ええと、紹介があってきたのですけど……」


 そう言いながら、俺は紹介状を取り出し、受付嬢に見せる。すると――


「カッ、カリウス伯爵家の……! 失礼いたしました! しょっ、少々お待ちくださいませっ!」


 受付嬢は紹介状も持たず、血相を変えて奥へと駆け出していく。あまりの慌てっぷりに、ぽかんと口を開ける俺と伊勢崎さん。


「えっ? これはどういうこと?」


「さあ……わかりませんわ……」


 二人で首を傾げていると、すぐにでっぷりと太った中年の男がやってきた。必死に走ってきたのか、額から汗をダラダラと流し、ハアハアと息を吐いている。


「もっ、申し訳ございません! お迎えが遅れてしまい、なんとお詫びを申し上げればよいか……!」


「え? いや、事前に連絡はしていませんし、気にする必要はないですよ。むしろこちらこそ、急に訪れて申し訳ありません」


 軽く頭を下げ、俺は紹介状を店主に手渡す。


「え……? え? な、中を改めさせてもらっても?」


「もちろんです。よろしくお願いします」


 店主はいぶかしげに俺と封筒を交互に見ながら、封筒に押し付けられた封蝋を慎重に剥がす。そして中の手紙を確認すると、どこか安心したように肩の力を抜いた。


「……そ、そうですか。レヴィーリア様がお戻りになられていたのですね……」


「はい、今は所用で領都にいらっしゃってます。ところで、慌てていらしたご様子でしたが、なにか問題でも……?」


「あっ、ああ、いえ、気になさらないでください。と、ところでこちらの紹介状によると魔物をお売りにこられたそうですが、どのような魔物でしょうか?」


 あからさまに話題をそらされたが、まあ無理に聞くものでもないか。


「はい、アースドラゴンを買い取っていただきたく――」


「ほう! ほうほうほう! アースドラゴンですか!? これはまた大物ですねえ! 失礼ですが、どのようにして入手されたのか教えていただいても!? やはりベテラン冒険者パーティ『グラナダ』が討伐されたのでしょうか? それとも新進気鋭のドラゴンスレイヤー、セリフォスを有する『スティンガー』ということも!?」


 俺が言い終わるより先に、男が早口でまくし立てながらにじり寄ってきた。太り気味中年男のあまりの迫力に俺は一歩後ずさる。


「申し訳ありません。それは内密にとのことでして……」


「おおっと、これは失礼! どうも職業柄、魔物狩りの話には目がなくて……。申し遅れましたが、私はこのドルネシア商会の会頭を勤めさせていただいております、カーラントと申す者です。以後お見知り置きを」


 人懐っこそうな笑みを見せるカーラント。現れたときはやたらと緊張していたように見えたけれど、これがこの会頭さんの素の姿なのだろう。


「これはご丁寧に。私はレヴィーリア様の使用人のマツナガと申します。こちらは同じくイセザキです」


 俺の紹介でぺこりと頭を下げる伊勢崎さん。


「やあやあ、これはまたお美しいお嬢さんですな。ところでどのくらいの大きさのアースドラゴンでしょう?」


 伊勢崎さんを一瞥(いちべつ)しただけで、再び俺に視線を向けるカーラント。どうやら興味はもうアースドラゴンにしか向いていないようだ。


「そうですね。成獣のようなのですけど」


「ほほう、成獣ですか! それではアースドラゴンは今どちらに……?」


「ああ、私は『収納(ストレージ)』持ちでして」


「ほう! そういうことでしたか! ではこちらへどうぞ!」



 そうしてカーラントに案内され、俺たちは入り口のホールよりもさらに広い、石畳の大部屋へと移動した。


 どうやらここは魔物の解体をする作業場のようで、数人の従業員が作業台に載っていた鳥っぽい魔物を大きな包丁でぶった切ったり毛をむしったりしていたのだが、今は手を休めて興味深げにこちらを眺めている。


 なお、そんな従業員たちをカーラントが(とが)める様子はない。なかなかいい雰囲気の職場じゃないかな。


 休みたくても仕事をしているフリをしながら休まなきゃいけなかった、俺の前の職場とは大違いだよ。


 そんな哀しき記憶を振り払い、俺はひらけたスペースに向かって手を向ける。


「それでは取り出しますね」


 たくさんの視線が集まる中、俺は『収納(ストレージ)』からアースドラゴンを取り出した。

 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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