73 カリウス領領都カーネリア
少しずつ馬車が領都の門へと近づいていく。門の前には数人の門番が立っていて、門を通る馬車や人々のチェックを行っている様子が見えた。
俺たちの乗る馬車は他の馬車の後ろで順番待ちをするのかと思いきや、停まることなく門へと進んでいく。
当然門番が駆け寄ってくるのだが、御者台に座るホリーが何かの札を掲げた。それを見て、すぐさま直立不動で敬礼をする門番。たぶん貴族の証みたいなモノを見せたのだろう。貴族パワーすごいね。
そうして俺たちは停車している馬車を横目に領都の中へと入っていった。
門を抜け、馬車が大通りに向かう。大通りでは人々が行き交い、横並びに面している店からは客寄せの声が途切れなく聞こえ、活気が伝わってくる。
グランダにも活気はあったけれど、あそこは前線都市と言われているだけあってどこか荒っぽい雰囲気があり、ここで感じるような華やかさはなかったように思う。グランダは下町で、領都は都会といった感じだね。
「お姉さま、マツナガ様。この後はどうされるのですか?」
窓から外の様子を眺めていると、向かい席のレヴィーリア様が話しかけてきた。俺より先に伊勢崎さんが答える。
「私は特に何もないわ。おじさまがやりたいようにしてくだされば、それについていくつもりよ」
「そう? それじゃあ領都を見て回りたいんだけどいいかな?」
「もちろんです。お供しますわね、おじさま!」
伊勢崎さんがにっこりと笑う。伊勢崎さんは領都に来たこともあるようなので、ガイド役をお願いすることにしよう。
「お姉さま方が楽しそうでなによりですわ。それではわたくしも、わたくしが生きていることに戸惑う姉の顔を見て、愉しんでくることにしますわ。オホホホホ……」
眉間にシワを寄せながらオホホと笑うレヴィーリア様。なかなかの凄みである。
「そ、そうですか。あの……気をつけてくださいね?」
これから会うという姉のデリクシルは、レヴィーリア様に暗殺を仕掛けてきたと思われる人物。貴族と距離を取りたいとは思うけど、やっぱり心配なのは心配だ。
「わかっておりますわ。用事だけ済ませたらさっさと戻ることにいたします。……ところで、こちらが例の紹介状になりますわ」
「ありがとうございます」
俺はレヴィーリア様から刻印された封蝋で封をされている封筒を受け取った。同封されているのは魔物素材業者への紹介状だ。
俺が倒したアースドラゴンの素材は高く売れるらしい。それならもちろん売却したいところだけれど、俺と付き合いのあるレイマール商会は肉を除き、魔物素材は取り扱い外なのだそうだ。
アースドラゴンの肉は固くて食べられるようなものではなく、売れるのは甲羅や爪、鱗などらしい。
そこでレヴィーリア様から提案があり、彼女の仲介で領都にある魔物素材専門の業者に買い取ってもらうことにしたのだ。
カリウス伯爵家とも取引のある店らしいので、余計なことは聞かれないし、ボラれることもない。
俺は『収納』が使えるので運び役として選ばれたレヴィーリア様の使用人という体で、そこに向かうのだ。
なんとも素晴らしい好条件だよね。レヴィーリア様曰く、こんなのは自分を守ってくれたことの礼にもならないとのことだけど、ありがたく厚意に甘えようと思う。
ちなみに冒険者のみなさんのお陰で倒せたという思いもあるので、売却益の分け前について彼らに相談したのだけれど、それは固辞されてしまった。
護衛としてのプライドもあるだろうし押し付けるのもどうかと思ったので、こちらもありがたく総取りさせてもらうことにしたよ。
「レヴィーリア様。この辺りがよろしいでしょう」
御者台のホリーから声がかかり、馬車がゆっくりと通りの端に停まった。どうやらここでお別れのようだ。
俺と伊勢崎さんはレヴィーリア様に別れの挨拶を交わして馬車を降りると、すぐに馬車は出発した。レヴィーリア様とはグランダで再会する約束も交わしているのであっさりとしたものだ。
そして外には俺たちを迎えるように冒険者のみなさんが待っていてくれていた。
彼らの護衛仕事もここまでのようだ。誰もが仕事が一段落したことにスッキリした顔をしている。すぐにリーダーが近寄ってきた。
「おうっ! マツナガさんたちはこの後どうすんだ?」
「しばらくここに滞在しようかと」
流れるようにウソをついたけど、素材の売却と観光が終われば『次元転移』で帰るつもりなんだけどね。
「そうかい。俺たちはレヴィーリア様を護衛しながらグランダに戻る予定だ。今回は本当に世話になっちまった。今度グランダで出会ったら酒をおごらせてくれ」
そう言いながら手を差し出したリーダーと俺が握手を交わしていると、遠くからギータの声が聞こえた。
「マツナガさん、奥さん、またなー!」
ギータがぶんぶんと手を振りながらシリルと大通りを駆けていく。明日まではフリーらしいので、さっさと二人で遊びに行きたいのだろう。
「ギータ! 集合時間に遅れるなよ!」
「わかってるってー!」
呆れ顔で見送るリーダー。そして他の冒険者たちも俺に挨拶をしながらバラバラと解散していく。そして最後にリーダーも大通りの向こうへと消えていった。
これまで団体行動だったせいか、都会に二人残されたことに心細さを感じながら冒険者のみなさんを見送っていると、伊勢崎さんが袖をくいっと引いてきた。
「それではおじさま、まずはどうされるのです? ふふっ、どこにでも案内いたしますわ!」
上機嫌に瞳を輝かせる伊勢崎さん。田舎者の俺とは違い、さすがは領都経験者だ。面構えが違う。
「それじゃ観光は後回しにして、先に面倒な方をやっちゃおうか。魔物買取業者の店の場所はわかるかな?」
「わかりますわ。たしかまだまだ先の方ですわね」
伊勢崎さんが大通りを真っ直ぐ指差しながら言う。
「そっか。それじゃあのんびりと町を眺めながら行こうか」
「はい、おじさま!」
笑顔でうなずく伊勢崎さん。俺は彼女を伴い、大通りをゆっくりと歩き始めた。




