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72 とあるフリーターの一日

「ありあとやしたー」


 店から出ていく客の背中に声をかける俺。これで店内の客はゼロになった。


 時刻は夜の九時前。今日は朝までのシフトで、バイトはまだ始まったばかりだ。ダルい、ダルすぎる。


 ここのコンビニはあまり繁盛してないのはラクでいいんだけど、ヒマすぎるのも考えものなんだよな。やっぱり適度にやりごたえのあるバイトの方が時間が進むのも早く感じるし、結果として疲れない気がする。


 あーあ、このバイトもう辞めちまおうかなー。そういやタカシが倉庫整理のバイトをやってるって言ってたな。


 キツいらしいけど時給はいいらしいし、そっちに転職するかなマジで。やっぱ俺にこんなぬるま湯のバイトは似合わねえよな。俺の能力が生かされてねえっていうかさ。


 そんなことを考えながらレジ袋の補充をしていると、自動扉が開いた。


「いらっしゃせー」


 扉が開くと反射的に声が出る。たまに客で店に入ったときにもやってしまうのはコンビニ店員あるあるだよな。


 入ってきたのは、特に特徴のない中肉中背のおっさんだった。まあおっさんといっても、俺と歳あんま変わらねえみたいだけど。


 でも、その後すぐに店に入ってきた女の子にビックリした。だってアレだよ、とんでもねえレベルの美少女だもんよ。


 なんかもうただならぬオーラが出てるように見えるし、それにあの銀髪がめちゃ()えるし、しかも巨乳。マジ弱点無くね? もしかしてアイドルかなにか? 


 あのブレザーはたしか聖城学園の制服だったよな。中高一貫校でこの辺りじゃトップクラスの進学校だって聞いたことがある。


 JKはおっさんのすぐ後に入ってきたけど、もしかして知り合いなのか?


 ……いやいや、違うか。入店のタイミングが一緒だっただけだな。フツーのおっさんと美少女JK、どう考えても接点なさすぎだし。


 しばらくするとJKがレジにやってきた。いくつかのスナック菓子とチョコレート、それからコスメをお買い上げのようだ。あんまりメイクしてそうには見えないけどな。


 商品をコンビニ袋に入れて会計のターン。……うおっ! 出たぞ、黒いクレカ。


 やっぱ金持ちの子なんだな。てか金持ちなのにコンビニコスメなのか。いや、庶民的なところも逆によくね? マジ推せるわ。


 そしてレジが終了。JKは去り際、小さく会釈をして出入り口へと向かう。その時、あの銀髪がふわりと揺れてすげーいい匂いがした。はあ……なんか幸せな気分……。


 そういや銀髪で思い出したけど、俺が何年か前にバイトしてすぐに辞めたゲームショップでも、あれくらい綺麗な銀髪の小学生を何度か見たことがあるな。


 もしかしてあの子が成長したのが今のJKだったり……? いや、顔は整ってたような気がするけど、なんかすげー痩せてたし地味で暗い子だったしな。今のJKみたいにはならねえか。


 それにしてもいいモノを見させてもらったなあ。ヒマなバイトでも今日一日は頑張れそう――っていつの間にかレジの前に客がいる!? 一緒に入ってきたおっさんじゃねーか!


 やべ、文句(クレーム)つけられたら面倒くせえ。俺は慌ててスキャナーを手に取ると、商品のスキャンを始め――って、カゴ二つ分!? どんだけ買ってんだよ。


 思わず手を止めた俺に、おっさんは申し訳なさそうに軽く頭を下げる。どうやらレジを待たせたことは怒っていないようだ。


 なんだよ、いいおっさんじゃん。だよな、あんな美少女に目を奪われないほうがどうかしてるよな!


 それにこのおっさんも苦労してそうだ。カゴ一つは食料品、もう一つのカゴにはぎっしりとコーラのペットボトル。


 どこかの体育会系の部活の顧問なのかもしれない。たまにそういう買い出しにくる客もいるからな。


 でもさ、ここで買うよりスーパーで買ったほうが安くつくと思うぞ。コンビニ店員の俺がいうことじゃないけどさ。


 そして俺の華麗すぎるレジ打ちで、あっという間に会計が終わり、おっさんが店から出ていった。


「ありあとやしたー」


 おっさんを見送った俺は店内を眺める。うん、商品棚がだいぶ空いてんな。


 さてと、それじゃさっそく棚を埋めてくることにしますか。ヒマじゃないのはありがたいぜ。あのおっさん、一時間おきくらいに来てくんねーかな。



 ◇◇◇



 などと思っていたら、マジで一時間ちょっとであのおっさんが再び来店してきた。


 しかも後ろにはなぜかJKもついてきている。え? もしかしてこの二人知り合いなのかよ!?


 ってか、めっちゃ親しそうじゃん。JKが俺には見せてくれなかった笑顔をおっさんに振りまいているよ。クソッ、笑顔がまぶしすぎるぜ。あの二人、一体どういう関係だよ。


 まさかパパ活ってことはないだろう。あれだけの美少女なら、ちょっと町を歩けば速攻でモデルのスカウトとか来るだろうし、もっと稼げるだろうからな。なにより黒いクレカ持ちだ。


 ……あっ、そうか、わかったぞ。部活の顧問の先生と生徒。うん、間違いないな。俺のカンはよく当たるんだ。


 でもよ、もう十時も過ぎてるし、この時間帯に生徒を連れ出すのはよくないかもな。ほどほどにしておくんだぜ?


 今回はJKは後ろについているだけで何も買わず、おっさんはレジにあるホットスナックを中心に買いまくっていった。


 お陰でヒマ潰しに揚げすぎたホットスナックが全部売り切れてくれた。ありがとう、おっさん。


 そしてまた三十分くらいすると、おっさんとJKが三度目の来店。バックヤードから出したばかりのコーラを全部買っていった。


 それから――まさかの四度目の来店だ。もちろんJKも一緒。


 今回もコーラを買いまくるおっさん。補充すれどもすれども消えていくコーラ。そしておっさんは空のホットスナック棚を見て、少しがっかりした顔を浮かべていた。


 すまねえな、夜にホットスナックを揚げたら売れ残るから普段は自重してるんだよ。


 しかしおっさんのお陰で今夜のバイトは大忙しだ。ヒマじゃなくなって嬉しいぜ。


 ……いや、本音を言えば、もう少しヒマでもいいかもな? 他の客も入ってきたし、なんかもう今日は十分働いた気がするしさ。



 ◇◇◇



 そしてそんな俺の願いが通じたのか、おっさんたちはバッタリと店に訪れなくなった。


 俺はひっきりなしに続いていた仕事がなくなったことに安堵をしつつ、


「休憩はいりまーす」


 疲れた体を癒やすためにバックヤードに入って行ったのだった。……うん、やっぱバイトはヒマなのが一番だわ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ある意味パパ活と言えなくも……いや無理か
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