71 旅七日目
護衛の皆さんが徹夜で警戒したものの、結局二度目の襲撃がないまま俺たちは朝日を迎えた。
そもそもあれだけ大掛かりな襲撃だ。護衛の皆さんもおそらく二度目はないと考えていたと思う。
それでも万が一の可能性を見過ごすことができないのが、護衛というお仕事の悲しいところなんだよね。無職の俺が言うのもアレだけど。
馬車は寝不足顔の冒険者たちに包囲されながら、予定通り早朝に出発。
しかし馬車を走らせてしばらく進んだところで、すぐに馬車を停めることになった。
近くの茂みに打ち捨てられている男女二人の遺体が発見されたからだ。行方不明になっていた――俺を見捨てて逃げた冒険者二名の変わり果てた姿である。
そんな二人ではあるけれど、俺としては恨みなんかはまったくない。あんなのは逃げ出したって仕方ないと思う。冒険者の中にも彼らを悪く言う者は一人としていなかった。
遺体を調べたところ、二人は遠くから矢を射掛けられて命を落としたようだ。ローブ男が言っていた賊の包囲網は本当にあったらしい。
遺体からは金目の物は奪われてはいたが、体を辱められることがなかったのが唯一の救いだろうか。
ひと通り遺体の検分が終わると、冒険者たちは遺体を火の魔法で焼き払った。遺体をそのままにしておくと、生ける屍になってしまうことがあるのだそうだ。
冒険者にとって同業者の死は珍しくもないのだろう、粛々と遺体を処理し埋葬を行う姿が印象的だった。数日前に弓使いの女性を口説いていた斧戦士だけは、酷く悲しい顔をしていたけれど。
そしてその日の昼には、捕縛した賊を尋問した結果をホリーがレヴィーリア様に報告にやってきた。俺や伊勢崎さんがいる馬車の中での出来事だ。
なんだか関係者としてガッツリ巻き込まれている雰囲気があるけれど、俺としても知りたくないといえばウソになる。そのまま拝聴させてもらったよ。
賊の自白によると、ローブ男は突然ふらりと賊の根城にやってきて、レヴィーリア様の襲撃を賊に依頼してきたそうだ。
ターゲットが伯爵令嬢ということで、当初は賊の中にも二の足を踏む連中がいたらしい。しかしそんな連中も報酬の大金と戦力のアースドラゴンを見るや、手のひらを返して大喜びで参加したのだという。
強大な戦力を持ちながらも、万が一の失敗をも想定して賊にまで協力を求めるローブ男――やはり賊の中にもその正体を気にする者がいたらしいが、ローブ男がそれを語ることは一切なかったそうだ。
ホリーたちも捕縛した賊には随分念入りに尋ねたらしい。しかし賊が口を割ることはなく、おそらく本当になにも知らされていないとホリーたちは判断したとのことだ。
どうやって念入りに尋ねたのかは、恐ろしくてとても聞けなかったけどね。
◇◇◇
道中では何度か『次元転移』の時間差についても調べた。
その結果、これまで日本で過ごす1時間が異世界の10時間になっていたものが、異世界の3時間にまで短縮されていることが判明した。
お陰で日本への買い出しもずいぶん楽になった。警備体制が強化され疲れを見せる冒険者が多くなっていく中で、せめてものねぎらいに差し入れくらいはしてあげたいと思っていたのだ。
とはいえ日本では未だに深夜が継続中。『跳躍』を使えば24時間スーパーにも跳べるけれど、人目がつかない場所までは遠い。
なのでママチャリで行ける近くのコンビニにばかり、通うことになったんだけどね。
異世界で過ごす1時間が地球の1分なのは変わらなかった。コンビニ店員から見ると数十分ごとに買い物にやってくる客みたいになっていたけれど、そこは深くは気にしないことにした。
――そうして旅を続け、出発から十日が経った。結局、六日目の襲撃以外はなにひとつトラブルもなく、俺たちは安全に旅を進めることができた。
「領都が見えてきましたよ」
ふいに御者台のホリーから馬車の中に声が届き、俺は窓から外を覗き込んだ。
窓の外に広がるのは、城塞都市グランダよりも大きくて高い壁。その中心には大きな門があり、ひっきりなしに多くの馬車や通行人が通っていて活気にあふれている様子が見える。
こうして俺たちはついに旅の目的地、カリウス領領都カーネリアに到着したのだった。




