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7 今後の方針

「――オホン……どうやら実験の結果、やはり私が魔法を使うには、おじさまの手を握る必要があるとわかったわけですが――」


 あの後すぐに意識を取り戻した彼女は奪うように俺の手をつかみ取り、鼻の『治癒(ヒール)』、さらに『清浄(クリーン)』という魔法を唱え、血痕すらも消してみせた。


 そして何事もなかったかのように、ベッドに腰掛けて語り始めたわけである。


 これはつまり、おっさんとはいえ異性の腕を抱いて緊張してしまい、パニクってしまったということだろう。


 俺にも異性との接触で慌てふためき、心にもない言葉や行動を起こしてしまった黒歴史がいくつかある。


 若かりし頃にはよくあることということだ。俺も伊勢崎さんの意向に従い、今回のことは無かったこととして、そっとしておくことにした。


 ただ、平静を装っているつもりでも、伊勢崎さんの頬の赤みまでは消えてはなかったけど。



「ひとまず私の身体の状態を知ることができました。後はどうやって地球に戻るかということですが――」


「それについては、俺からひとつ考えがあるよ」


「……なんでしょうか?」


 一瞬目を泳がせる伊勢崎さん。さすがにもう半額ステーキとは言わない。


「魔力を供給して思い出したんだけど、異世界に転移する時――俺も魔力……魔法を使っていたような気がするんだ。もしかしたら俺がなにかをやらかしたのかもしれない」


「あの時は私も取り乱してましたし、詳しい状況は思い出せませんが……たしかにその線もありますね。当時の状況を再現できれば一番良いのですけど、そういうわけにもいきませんし……」


 そう言いながら伊勢崎さんは鞄を開けると、そこからサバイバルナイフを取り出しテーブルの上に置いた。持ってきていたんかい。


「近くにあったせいか、一緒に転移したみたいです。おじさまを刺した憎き……忌々しい刃物ではありますが、なにせこんな世界です。なにがあるかわかりませんから、断腸の思いで持ってきたのです……!」


 眉間にシワを寄せながらナイフを睨む伊勢崎さんはちょっと怖かった。


「本来ならスクラップにしてこの世から消し去りたいところなのですけど、せめておじさまのお役に立てばよろしいかと存じます。どうか護身用にお持ちくださいませ」


「それなら伊勢崎さんが持っていたほうがよくない?」


「いえ、私には過ぎたる物です。ですから、さあ」


 伊勢崎さんは有無を言わせぬ口調でサバイバルナイフを前に押し出す。


 なにが過ぎたる物なのかはわからないけど、まあ伊勢崎さん運動神経よさそうだしな。密かに格闘技なんかも習ってたりするんだろうか。


 俺がサバイバルナイフを受け取ると、伊勢崎さんはハンカチを取り出し、自分の手を拭った。嫌われてるなあサバイバルナイフ。道具に罪はないよ。


「さて、仮におじさまの行動がキーポイントであったのなら、おじさまが魔法について学ぶことで道が開けるかもしれません。しばらくはここを拠点に活動するのが良いかと思いますが、いかがでしょうか?」


「そうだね、俺もそれがいいと思うよ」


 俺の言葉に伊勢崎さんがにっこりと笑う。


「ではそういたしましょう! うふふっ、二人きりで異国に滞在だなんて、まさに新婚旅行みたいですわねっ!」


「ははっ、新婚のフリだけどね」


 どうやら伊勢崎さんは俺が気負わないように、旅行を楽しむ気分でやっていこうと伝えてくれているようだ。本当にやさしい女の子だよ。


「とはいえ外を出歩くにも、情報を仕入れる必要がありますわね。ひとまずこの領地の現状を知っておきたいのですが――」


 伊勢崎さんがそうつぶやいたとき、部屋の扉がノックされ、返事の前に扉が開いた。


「やあセイナに旦那さん。そろそろあんたらの身の上を聞かせてもらっていいかい?」


 やってきたのはエミールだ。手にはいくつかの衣服を持っている。おそらく伊勢崎さんが事前に頼んでいた俺たち用の現地の衣服だろう。


「うん、エミールおばさん。私もちょうど聞きたいことがあったの」


「そりゃあ奇遇だね。邪魔するよ」


 エミールはのしのしと歩くと、空いていた椅子にどかりと座り込む。こうして情報の交換会が始まった。

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コミカライズは『電撃大王』にて連載中ですが、webでもひと月ほど遅れて掲載されております。
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― 新着の感想 ―
[一言] これは好意的に解釈してるというより現実から目を背けてるだけなのでは
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