66 質疑応答
薄暗い馬車の中。向かい合って座りながら、俺と伊勢崎さんはレヴィーリア様にこれまでのいきさつを説明した。
ひと通りの説明が終わったところでレヴィーリア様は大きく長い息を吐くと、確認を取るようにゆっくりと話し始める。
「つまり――お姉さまとマツナガ様はこことは違う世界のご出身で、マツナガ様のお力で今この世界に来られている」
「はい」
「マツナガ様の住まわれている世界には魔法は存在しておらず、代わりに科学というものが発達しており、マツナガ様の扱う商品はその科学の産物である――そういうことですか?」
「そういうことです。ご理解していただけましたでしょうか?」
「それは……。も、もちろん、あなた方がウソを言ってるとは思わないのです。ですが貴族という立場ゆえでしょうか、言葉だけでは納得しかねるというのが、わたくしの正直な心境ですわ……」
申し訳なさそうに肩を落とすレヴィーリア様。しかしこちらは証拠だってバッチリと提示しているのだ。
「証拠ならこれで十分じゃないですか。このLEDライトがまさに科学の産物ですよ?」
俺はテーブルに置いてあったLEDライトを指差すと、レヴィーリア様はそれを手に取ってカチカチとライトのオンオフを繰り返した。
「それではマツナガ様、このLEDライトという物は科学のどういう仕組みで動くのですか?」
「ええっと……。それを説明するには俺の知識だけじゃちょっと難しいと思います。申し訳ない」
だってしょうがないじゃない、文系だもの。
「それならやはり、これは異国の魔道具だとしか思えないのですが……」
「でも魔力を込めなくても使えるんですよ?」
「魔道具も年々発展しております。最初に魔力を込めておけば後は魔力不要の魔道具が異国で開発されたと考えたほうが納得できますわ。もちろん魔道具の仕組みはわたくしにはわかりませんけれど、マツナガ様もLEDライトの仕組みが説明できないのなら、それは同じことでしょう?」
ううむ、なるほど……。『理解ができないなら科学も魔法も同じ』ということか。たしかに彼女の考えもわからないでもない。
この世界でそれほど怪しまれずに日本の商品が受け入れられたのには、そういう考えが下地にあるのかもしれない。
そう思えば、俺たちの説明を受け入れられないレヴィーリア様の心情は理解できる。しかし……それはそれとして、なんだかもうまどろっこしくなってきたよ。
幸いなことに、ついさっきホリーが今夜は朝まで警戒態勢のままのだと伝えにきた。
その際にレヴィーリア様も人払いを命じたので、ここにはしばらく誰もやってこないのだ。
なるべく言葉を尽くして説明したつもりだが、これ以上の説明は厳しいと思う。こうなったら後はもう実力行使しかないだろう。
「伊勢崎さん……」
「ええ、おじさま」
伊勢崎さんも同じ考えのようだ。俺たちはコクリと頷き合った。
「レヴィーリア様、お手をお借りしてもいいですか?」
「え? 今ここで、でしょうか? ……いえ、許します」
なぜか戸惑いを見せたレヴィーリア様は、顎を引いてスッと背筋を伸ばすと、綺麗な所作で手の甲を差し出すように腕を伸ばした。
……ああ、コレ知ってる。貴族が手の甲にキスをするヤツだ。だがもちろん俺にそんなつもりはない。
「いえ、レヴィーリア様。手を握らせていただくだけでいいんですよ。それでは失礼して――」
俺はレヴィーリア様の手を握る。すると伊勢崎さんもレヴィーリア様と同じ仕草で手の甲を差し出してきた。
「――許します」
「いや、許さなくていいからね。それじゃ握るよ」
「むううう~」
俺は不満げに口を尖らせた伊勢崎さんの手も握る。
もう何度も握っている伊勢崎さんの手はいつもと同じく華奢で細くてひんやりとしており、レヴィーリア様の手はそれに比べるともっちりと柔らかで温かい。
そんな両者の違いを感じながら、俺はレヴィーリア様に伝える。
「今から転移魔法で俺たちの世界に案内します」
「え?」
突然の話に首を傾げるレヴィーリア様。俺はかまわずに言葉を続けた。
「では――『次元転移』」
――次の瞬間。俺は彼女たちを引き連れて、住み慣れた榛名荘マンションへと帰還を果たしたのだった。




