62 ドラゴンスレイヤー
「ううっ……」
俺たちの近くで倒れていたリーダーが声を漏らすと、その直後にガバリと体を起こした。
「ハッ! アースドラゴンッ!! ――えっ、あれ? マツナガさんと奥さん!?」
俺たちの姿に気づき、目を丸くするリーダー。
彼はキョロキョロと辺りを見回すと、呆然とした顔つきでのろのろと立ち上がった。どうやら体の方はもうなんともないのようだ。本当に伊勢崎さんはすごいな。
「こ、これは一体どういうことだ……? マツナガさん、アースドラゴンはどこにいった?」
「もう倒しましたよ」
俺がそう答えると、リーダーはしばらく顔をこわばらせ、やがて納得したように顎に手をあてた。
「……だよな、そういうことだよな……。信じられねえような話だが、俺たちがまだ生きているってことは、そういうことになるよなあ……」
自分を納得させるように何度もウンウンと頷くリーダー。次に彼は俺の肩に手を置くと興奮気味に尋ねた。
「なあマツナガさん。いったい誰がどうやってヤツを倒したんだ!? マツナガさんの知ってることを、なるべく細かく教えてくれ。そいつの活躍っぷりを世間に知らしめてやらねえといけねえからな!」
使命感に目を輝かせるリーダーだが、俺としてはちょっと困る。偶然倒せただけだし、そもそも世間に知らしめられたくもない。
「ああ、そういうのは結構なんで」
「いやいや、なんといってもドラゴンスレイヤーだぜ? 冒険者ならここで名を上げない手はないだろ。戦いの役には立てなかったが、せめて名を上げる手伝いくらいはしてやらねえとバチが当たるってもんよ。……というか、マツナガさんが決めることでもないだろう? それで、誰がアースドラゴンを倒したんだ?」
「それは俺だと思います」
倒したということなら俺になるのだろう。
もちろん俺としては、冒険者のみなさんが勇敢に戦ってくれたお陰でアースドラゴンの特性がわかって安心して挑めたので、俺だけの手柄ではないと思うけどね。
しかしリーダーは面白い冗談を聞いたように吹き出すと、顔をほころばせながら俺の背中をバシバシと叩いた。
「ふはっ! んなわけねえだろ! アースドラゴンだぜ? マツナガさんもそういう冗談を言うんだな! はははっ!」
するとそこで伊勢崎さんが口を挟む。
「お言葉ですが、旦那様はすごいのです。アースドラゴンくらい、ちょちょいのちょいですわ」
珍しくムスッとした表情の伊勢崎さん。ちょっと怒っているのかもしれない。でも俺の説明が足りてないのはわかってるし、気にしないでいいんだよ。
そもそも伊勢崎さんだって、俺がアースドラゴンを倒したのをまだ知らないはず。ちょちょいのちょいでは倒してないしね。
さすがにそんな伊勢崎さんの言葉では納得しかねるのだろう、困ったようにリーダーが頭をぼりぼりとかきながら伊勢崎さんに話しかけた。
「あー……、たしかにな。あんたの旦那が夜がすごいという話は聞いてるし、ここの仲間たちもみんな知ってることだけどよ。でも、それとこれとは話が別だろう?」
「よる?」
首を傾げる伊勢崎さん。というか夜がすごいってのはああいう意味だよね? 一体なんでそんな話になっているんですかね。
俺が抗議の声を上げようと口を開いたところで、背後から声がかかった。
「マツナガ様がアースドラゴンを倒したのは本当でしょう。先程の賊との戦いぶりで私は確信しました」
声の主はホリーだ。まだ短剣を腰に下げ、どこかピリピリした表情のホリーがさらに言葉を続ける。
「そしてマツナガ様は商人です。商人にとってドラゴンスレイヤーの名声など煩わしいものにしかならないのは、あなたにも理解できるのでは?」
「たしかに商人には不要の名声かもしれないが……。えっ、本当にマツナガさんが?」
目を丸くしてホリーに問いかけるリーダー。それを無視してホリーが俺に顔を向けた。
「マツナガ様。なにか証拠になるような物を見せて差し上げればよいかと存じます。その上で皆さんに口止めをすればよいのです」
「ああ、それもそうですね」
証拠というのなら、一番わかりやすい物がある。
俺は冒険者がいない方向に手を向けると、そこに『収納』に入っているアースドラゴンを取り出すことにした。
異空間から甲羅を上にしてニュッと落ちてきたアースドラゴン。その巨体が地面に落ちた瞬間、ズシイイイイイインと鈍い音を辺りに響かせた。
突然のアースドラゴンの登場に意識を取り戻していた冒険者たちが騒ぎ始める中、あんぐりと口を開けながらリーダーが俺を見つめる。
「マ、マジか……。マツナガさん、あ、あんた一体何者なんだ?」
「俺ですか? 俺は見てのとおりただの行商人ですよ」
俺がそう答えると、隣の伊勢崎さんの声が耳に届いた。
「ドヤ顔の旦那様も素敵……」
え? ちょっと待ってほしい。たしかに少しはいい気分に浸ったけれど、俺はドヤ顔なんかしたつもりはない。……本当だよ?




