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59 アースドラゴン2

 辺りが静かになったことで、さっきまでうるさく(わめ)いていたローブ男のことを思い出した。


 アースドラゴンの巨大な体躯に視界が(さえぎ)られ、彼の姿を確認することはできない。でもまあ……おそらく――


「グオオオオオオオンッ!」


 突然の咆哮に思考が中断された。


 見上げると、呆然としたようにピクリとも動かなかったアースドラゴンが、必死に足や首、尻尾をバタつかせている。


 たしか亀はひっくり返っても起き上がることができるんだっけ……? だとすればアースドラゴンもきっとそうなのだろう。これはこのまま放置しておけないよね。


 俺は異空壁を展開させながら、アースドラゴンに向かって走った。


 暴れまくっているせいでもうもうと土埃が舞う中、三回ほど尻尾の攻撃を受け、そのすべてを異空壁に守ってもらいながら、俺はなんとかアースドラゴンの元へと到着。そして右手で甲羅に触れた。


 硬いゴムのような手触りを感じつつ、俺は空を見上げ――


「『跳躍(ワープ)』」


 次の瞬間、俺とアースドラゴンは空中へと転移した。


 周辺の景色が一気に変わり、下を見るとさっきまでいた大地が見える。


 あちこちに倒れている冒険者たち。そこから少し離れた場所には馬車が見え、その周辺で騎士と賊が戦っている姿も見える。


 そして真下にはひび割れた地面と、真っ赤な花が咲いたように血が飛び散っているのが見えた。その中心には血まみれのローブ。アレが――ローブ男の成れの果てだろう。


 意外といえば意外なのだけど、俺の心に動揺はなかった。やらなきゃやられていたからだろうか。それともやったことを考えれば当然の報いだと思えるからだろうか。


 それに今はそれどころではないというのも、あるのかもしれない。重力の法則に従い、俺とアースドラゴンは落下の最中なのだから。


 俺はもう一度上を見ながら『跳躍(ワープ)』をする。


 さらに上を見て『跳躍(ワープ)』――と何度か繰り返し、アースドラゴンと一緒にどんどん高度を上げていった。


 ふと下を見ると、さっきまで見えていた馬車も倒れた冒険者もなにも見えない。赤い月明かりに照らされた大地がぼんやりと見えるだけだ。


 そろそろ頃合いだろう。


 俺はアースドラゴンから手を離すと、一人でさらに上に『跳躍(ワープ)』した。


「ギュオッ、ギュオオオオオオオォォォォーーン……」


 どこか悲壮な叫び声を上げるアースドラゴン。たぶん彼も地面に向かって落ちているというのを理解しているのだろう。


 ドラゴンと言えば空を飛ぶイメージがあるけれど、どうやらアースドラゴンにはその能力はないみたいでホッとした。


 すがりつくようにアースドラゴンが俺に向けて首をぐうっと伸ばした。だがもちろん俺には届かないし、仮に届いたとしても異空壁が守ってくれる。


 真っ逆さまに落ちていくアースドラゴンを眺めながら、俺は自分の足元に一面の時空壁を展開させ、その時空壁の上に乗ってみた。これは自家製エレベーターだ。


跳躍(ワープ)』で直接地上に行くというのも考えたのだけど、目測を誤ると酷いことになりそうだからね。そこで俺は時空壁を操って、ゆっくり下りていくことにしたのだ。


「ひい……こわっ」


 だが足元を見て思わず声が漏れる。


 空に昇っていくときには恐怖を感じなかったけれど、下を眺めながらゆっくり降りるというのはかなり怖い。そのうえ例えるなら、床にボコボコに穴の空いたエレベーターに乗っているようなものだし。


 そんな恐怖と、上空ゆえに吹き付ける風の冷たさに震えながら降下していると――


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 地上からとんでもない衝撃音が耳に届いた。きっとアースドラゴンのものだろう。


 俺は時空壁の上で寒さに震えながら、その落下地点を目指して下りていった。



 ◇◇◇



 アースドラゴンは森の中に落下していた。念のために馬車から離れた場所に落とすように気をつけていたので、これは予定通りだ。


 特大の衝撃音で周辺の動物も逃げてしまったのか、鳥の鳴き声ひとつしない中で、木々に囲まれて甲羅を下に無防備な腹を晒して仰向けになっているアースドラゴン。


 その分厚い甲羅はパックリと割れ、なにか青い体液が地面に垂れ流されており、その爬虫類じみた口元からは長い舌をべろんと伸ばしたままピクリとも動いていない。


 あの高さからの落下では、さすがのドラゴンと言えどもなすすべがなかったのだろう。完全に絶命したアースドラゴンの姿がそこにあった。


 リーダーが高額素材と言っていたし、森に打ち捨てておくのはもったいない。


 俺はアースドラゴンに触れながら『収納(ストレージ)』を念じる。『収納(ストレージ)』はなぜか生きている物は収納できないのだが――


 瞬時にアースドラゴンがいた空間がぽっかりと空き、森の中に草木がバキバキに倒れたミステリーサークルができあがった。どうやら完全に死んでいたようでなによりだ。


 さて、これでアースドラゴンの件はなんとか終わった。一息つきたいところだけれど、もちろんそんなわけにはいかない。


「伊勢崎さん……」


 俺はひとり呟くと、馬車のあった場所を目指して『跳躍(ワープ)』したのだった。

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[一言] デンジャーな技だな 絶体絶命でんじゃらすおじさんだな
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