182 おっさん vs ナンパ集団2
「おらああああああああああああああああああ!!」
怒号を浴びせながら我先にと襲いかかってくるナンパ集団。
いつの間にやら路地裏に落ちていた鉄パイプやビール瓶まで持っているヤツまでいる。普通ならそれなりに緊迫した場面なのだろう。
しかし俺はすでに【加速】状態である。ゆっくり迫ってくる彼らを見てもなんとも現実味がなく、逆にちょっとしたホラーのようにも見えた。
まずは一番最初に殴りかかってきたナンパ男A。彼は腕に彫られたご自慢のタトゥーを見せびらかすように、大振りの右ストレートを打ち込んできた。
けれどもちろん当たってやるわけにはいかない。俺はそれを軽く避けると、彼のガラ空きのみぞおちに膝蹴りを食らわすことに決める。
おっさんの体で膝がそこまで上がるかどうかが心配だったが、なんとか膝は上がってくれた。後は【加速】の補正とカウンター効果で、ナンパ男Aのみぞおちをえぐるように膝が深く突き刺さる。
「ぐうううううえええええ~~~」
【加速】がかかっているので、耳に届くうめき声もスロー再生だ。少し緊張感が萎えるけど、こればかりは仕方ない。
膝をまともに食らったナンパ男Aは、口から胃液と一緒に食べたものまで吐き出した。こちらもスローのせいでじっくり見えてしまって気持ち悪い。
俺は棒立ちになったナンパ男Aの足元を蹴り上げる。するとナンパ男Aはさっきの青髪男と同じく突っ伏すように地面に倒れ込み、自分の吐瀉物で顔を汚した。
「こ~の~や~ろ~おおおおおおおおおおお」
お次は鉄パイプで殴りかかってくるナンパ男B。
俺は真っ直ぐ振り下ろされた鉄パイプを避け、ちょうどいい目印の鼻ピアスを狙ってグーパンチを――しようとして、さっきの昇◯拳で拳を少し痛めたことを思い出した。あんまり殴りたくはない。
ならどうしようか。よし、ここは俺も彼らを見習い、道具を使うことにしよう。
俺は懐から取り出すフリをして、【収納】から、さっきショッピングモールで買ったタバスコを取り出した。ピザトーストにかけるとウマイので冷蔵庫には常備している。
それをシャカシャカと振り、自分の手のひらの上に数滴落とす。そしてナンパ男Bの目を塞ぐように手のひらを押し付けた。毒手攻撃である。
「い~て~えええええええええええええええ」
鉄パイプを落とし、叫び声を上げながら自分の手で目を覆うナンパ男B。
彼はパニックに陥ると、背後の味方を巻き込んでやたらめったらと暴れ回ってくれた。毒手攻撃の想定以上の効果に思わずニンマリする俺。
これでひと息つけるかと思ったところで、今度は俺の隣を走り抜けていくのがナンパ男Cである。
息をつくヒマもない波状攻撃だ。もしかするとかなり手慣れているのかもしれない。それによく見れば、ナンパ男Cは最初に相原に声をかけてきた赤髪男だ。
人質にでもするつもりなのか、彼は伊勢崎さんたちの方に向かって走っていた。これは絶対に見過ごせない。
俺は地面に落ちた鉄パイプを拾うと、赤髪男に向かって投げつけた。
だが――投げた鉄パイプは宙に浮かんだままのろのろと赤髪男に飛んでいく。
なるほど、手から離れると【加速】の効果は及ばないらしい。
これなら俺が走ったほうが早いだろう。俺はすぐさま駆け出して赤髪男に追いつくと、彼の前に回り込んだ。
「――はああああああああああ!?」
突然目の前に現れた(ように見える)俺に、驚愕の表情を浮かべる赤髪男。
その顔を見ていると、コイツのせいで厄介事に巻き込まれたことを思い出し、少しばかりイラッとしてきた。
……そうだ、コイツには俺の新魔法の実験台になってもらおう。
新魔法――ことの始まりは三日前だった。
自宅で無職生活を満喫しているひととき。テレビのバラエティ番組を見ながら、鼻をかんだティッシュをゴミ箱に投げ入れた時のこと。
俺がひょいっと投げたティッシュはゴミ箱に見事ホールインワン――とはならず、ゴミ箱の縁に当たってぽてりと落ちた。
不衛生だし拾いに行くべきなんだろうけど、正直言って面倒だ。
こんなとき、誰しもが思ったことがあるはずだ。超能力を使ってゴミ箱に入れられたらなあ――と。
超能力の有名な能力のひとつにアポートというのがある。別の場所にある物体を自分の手元に引き寄せる超能力だ。
よく考えると、コレってすごく時空魔法っぽいよね?
そう考えた俺は落ちたティッシュが戻ってくるよう強く念じることにした。
念じ続けた時間は一分くらいだろうか、さすがにその時間で拾ったほうが早くないか? と、我に返りそうになったその時――
床のティッシュはパッと消え、俺の手元に瞬間移動していたのだ。
引き寄せる時空魔法【引寄】の誕生の瞬間である。一度使えるようになってしまえば、次からはすぐに手元に引き寄せることができるようになった。
しかし話はそこで終わらない。
引き寄せることができるなら、逆にその場から弾くこともできるのではと俺は考えたのだ。
俺はティッシュがその場から弾き飛ばされるのをイメージ――
するとティッシュはポンと軽い音を立て、俺の手元から吹き飛んで粉々になってしまった。その場から排出させる魔法【排出】の完成だ。
俺は撒き散らしてしまったティッシュの残骸の掃除に、結局ティッシュを拾うこと以上の労力をかけてしまったことを反省しながらも、いつかこの魔法が使えるときがくることを心待ちしていたのだ。
そういうわけで、今回使うのは【排出】である。
俺は未だ驚愕に目を見開いている赤髪男の胸にそっと手のひらを当てた。
全然鍛えてないガリガリの胸を手のひらに感じながら俺は念じる――
「――【排出】」
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオン!!
その瞬間、【加速】の状況下でもおかまいなしの、爆発でも起きたかのような轟音が辺りに鳴り響いた。
赤髪男はものすごい勢いで後方に吹き飛んでいく。どうやら驚きのあまり【加速】を中断してしまったようだ。
ドガッッシャアアアアアン!
赤髪男はきりもみ状態で宙を舞いながらゴミ箱に頭から突っ込むと、うめき声を上げながらガクリと気絶した。
いちおう手加減をしたつもりなんだけど……どうやら思った以上の威力がありそうだ。とりあえず呼吸はしているみたいなのでひと安心だよ。
それにしても手を触れさせただけで相手が弾き飛ぶなんて、まるで中国拳法の発勁みたいでカッコイイ。
これはなかなかすごい魔法を習得したのかもしれない。なんといっても念願の攻撃魔法である。
そして再び前を見据える俺。するとまだ無傷のナンパ集団の二人がお互い顔を見合わせた。
「おっ、おい! コレヤバくね?」「ぜってープロじゃん!」「逃げっぺ!」「おうっ!」
「ちょっと待って」
俺は彼らを呼び止める。背中を向けたままビクッと足を止める二人。
「気絶してる連中も連れて行ってくれるかな? ずっと寝てられちゃ近所迷惑だろうし」
「はっ、ハイッ!」
そこからの行動は早かった。ナンパ集団はダウンした連中をひきずり、ペコペコと何度もお辞儀しながら路地裏から走り去っていったのだった。
再び静まり返る路地裏。どうやらこれで終わったらしい。
「はあ……助かった」
騒ぎが起きたことだし、誰か来るかも知れない。俺たちも早く立ち去らないとな。俺は一度だけ大きく息を吐き出すと、背後を振り返った。
「さすがです! おじさまっ!」
伊勢崎さんが両手をぐっと握りしめながら、いつものセリフで俺を称えてくれる。でも彼女には一言いっておかないと。
「伊勢崎さん……。あんまり相手を煽るようなことを言っちゃダメだよ? 危険だからね」
「ごめんなさい、おじさま。あの程度の輩がおじさまを見くびっていることに我慢ができず……つい本音を漏らしてしまいました……」
しゅんとうつむく伊勢崎さん。というか本音ってどういうこと?
「……でも、やっぱりおじさまの敵ではありませんでしたね! 本当にすごく素敵でした!」
目を輝かせる伊勢崎さんを見ると、俺はもうそれ以上なにも言えなかった。まあ期待に応えられたようでなによりだよ。
そして、やけに静かな相原の方はといえば――
相原はぽかんと口を開けたまま、俺をじっとみているだけだ。これは一応、言い訳しておかねばならないだろう。
「相原……」
「……アッ、ハイ。な、なんすか、センパイ」
ぴくんと肩を揺らし、ようやく目の焦点が合った相原に俺は言った。
「実は俺、通信講座で中国拳法を習ってたんだ。どうだ、なかなか強いだろ?」
以前も相原をナンパ男から助けたときは、異空間から物を落としたのを二階からの善意の協力者ということでごまかせた。今回もこれでなんとかなるだろう。
すると案の定、相原はポンと自分の手を打って声を上げた。
「なるほど、そうなんだー」
よし、これで一件落着だな。
……と思いきや、相原が声を荒げて言葉を続ける。
「――っていやいやいや! さっきのはそういうアレじゃなかったっしょ!! なになに、さっきのなんなんすか。一体なんなんすかセンパイー!」
さすがに調子に乗りすぎたせいもあり、ごまかしきれなかったらしい。はてさて、どうしたものかな……。
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