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100 レヴィーリア様来襲

 いきなり飛びかかってきたレヴィーリア様は、伊勢崎さんにぎゅうと抱きつき首筋に顔をうずめた。


「おねっ、イセザキの匂いですわ! スーハースーハースーハースウウウウウゥゥーー!!」


「ちょっ……レヴィーリア様! お(たわむ)れは止めてくださいませ!」


「ハスハスハスハスッ!!」


「うぎぎぎっ、離れなさいっ……!」


 レヴィーリア様を引き剥がそうとする伊勢崎さんと、そうはさせじとしがみつくレヴィーリア様。そんな一進一退の攻防に割って入ったのはメイドのホリーだった。


「レヴィーリア様、ここは人目につきます」


 ホリーはひょいっとレヴィーリア様を引き剥がすと、あっさり馬車の中へと押し込んだ。護衛を兼ねているだけあって、腕力も相当なもののようだ。彼女は俺たちに向き直ると深々と頭を下げた。


「マツナガ様、奥様。我が主がご迷惑をおかけいたしました。それで、その……大変申し訳ないのですが、しばらくこちらの馬車でレヴィーリア様とご歓談いただけませんでしょうか」


『ここからお出しなさいホリー!』と、ドンドン叩かれている馬車の扉を片手で押さえつつ頭を下げるホリー。


「ハァハァハァ……。お、おじさま、どうされますか?」


 レヴィーリア様との攻防ですっかり体力を奪われたらしい。伊勢崎さんが肩で息をしながら俺に尋ねる。


「どうせ会いに行くつもりだったし、いいんじゃないかな?」


「それもそうですわね……。はあ、まったくあの子ったら……」


 一度ため息を吐いて馬車の中へと足を運ぶ伊勢崎さん。その後に俺も続いた。



 俺たちが中に入るとすぐに馬車が動き出し、待ち構えていたレヴィーリア様に伊勢崎さんがじっとりとした目を向ける。


「レヴィ……。私たちを探し回っていたと商会の方から聞いていますわ。会いに行くと約束していたのですから、少しは待てないものなのですか?」


「ご、ごめんなさい、お姉さま……。領都での謁見から戻ってきてからというもの、政務やらなにやらで心安らぐ日々がなくて、それでつい……」


 どうやら俺たちと別れてからは心労の日々が続いていたらしい。ああ、そういえば――


「レヴィーリア様、例のデリクシル様との謁見はどうなったのですか?」


 俺の問いかけに、伊勢崎さんに叱られてションボリしていたレヴィーリア様の頬がニタリと緩んだ。


「うふふっ、ふふっ! 思ったとおり生きているわたくしを見て、姉はまるで幽霊(レイス)を見たような顔で驚いておりましたわ! しかも謁見を早々に切り上げた後は食事に行ったそうなのですが、姉の護衛が馬車を放ったらかして逃げ去ったらしく、歩いて城まで戻ったという話を聞きましたの! ざまあありませんわ! オーホッホッホッホッホ!」


 手を口に当てながら高笑いするレヴィーリア様。どうやら高級レストランで俺たちにちょっかいをかけてきた兵士は、デリクシルの元に戻ることなく何処かへ逃亡したようだ。


 そうしてひとしきり笑ったレヴィーリア様は乾いた喉を紅茶で(うるお)わせると今度は一転、静かに語った。


「わたくしに刺客を差し向けたのは姉であることは、もはや疑いようがありませんわ。どうしてそこまでわたくしに執着するのかは未だ測りかねるのですが……こちらとしても黙っているわけには参りません。今は対策を練っている最中ですの」


「大変ですわね、レヴィ」


「代官としての政務でも頭を悩ます事案が次々と出てきておりますし、本当に大変なんですのよ? ですからせめてお姉さまをギューッっとさせていただいてお姉さま成分の吸収――ひいっ、ごめんなさい!」


 再び伊勢崎さんに覆いかぶさろうと立ち上がったレヴィーリア様だが、伊勢崎さんが指を一本立てるだけで青い顔をして席に戻った。


 今のは『光雷(ライトボルト)』の構えかな? 俺と手を繋がないと使えないんだけど、なかなか(しつけ)が行き届いているなあ。


「そ、それで、わたくしの近況はそんなところなのですが、お二人はどうされていたのですか? さきほどまでレイマール商会におられたみたいですけれど」


「俺たちは商会で買い物ですよ。レヴィーリア様の紹介のおかげでアースドラゴンが高値で売れまして、高価な魔道具が買えました。ありがとうございます」


「お役に立てたのならなによりですわ。どのような魔道具を買われたのですか?」


「魔道冷蔵庫や魔道コンロなど、自宅で使えそうな物ですね」


「あら、それはチキューのご自宅にでしょうか? ですがチキューのカデン製品の方が優れているのではありません? わたくしには買い替える必要はないように思えるのですけど」


「いえ、そうとも限りませんよ。やはり魔力さえあれば電力がなくても使えるという点が素晴らしいです」


「魔力にも限りがありますでしょう? ご自身の魔力が枯れてしまった場合、供給ができなければ止まってしまいますわ。チキューには魔力屋もいないでしょうし」


 魔力屋とは町中を巡回して、魔石のメンテナンスと魔力の供給をしている業者なのだそうだ。日本でいう灯油の移動販売みたいなものだと思う。


 とはいえ、魔力の量だけは自信がある。魔力枯れは俺には関係ないだろう――


 そう言おうとしたところで、レヴィーリア様は瞳を輝かせるとパンと手を叩いた。


「わたくし、いいことを思いつきましたわ! マツナガ様、購入された魔道具にはまだ魔力は込められておりませんわよね?」


「え? ああ、はい。別途料金を支払えば注入してくれるらしいんですけど、時間もお金もかかるみたいなので、そのまま買ってきました」


「でしたらわたくしが魔道具に魔力を込めるお手伝いをいたします! さあマツナガ様のご自宅に参りましょう!」


「ちょっとレヴィ、あなた忙しいのではなくて?」


「たまに息抜きくらいはやらないと、わたくしも潰れてしまいますわ! 決まり! 決定です! さあ、さあ!」


「いえいえ、レヴィーリア様。魔力は自分だけで大丈夫ですから」


「そんな遠慮なさらないで大丈夫ですわ! わたくしも人並みほどしか魔力はありませんけれど、普段は魔力を使ってませんし、たくさん抜いていただいて構いませんのよ!」


 そんな献血みたいに言われてもなあ。どうやって断ろうかと考えていると、伊勢崎さんが俺の服の袖を掴んでふるふると首を振った。


「こうなったレヴィはテコでも動きませんわ。説得に労力をかけるよりは、さっさと連れ帰ったほうがきっとおじさまもお疲れにならないと思います」


「そ、そうなの?」


「はい、それに……レヴィにも気晴らしが必要だと思うのです。おじさま、お願いしてもよろしいでしょうか……?」


 その伊勢崎さんの気遣うような視線の先、ひたすらに魔力供給のプレゼンを続けるレヴィーリア様の目の下にはくっきりとクマができていた。


 よくよく考えると実の姉に暗殺されかけ、今でもその脅威は失われてはいないのだ。その恐怖や貴族としての責務による重圧はいち庶民たる俺には想像すらできないだろう。


「……わかりました。それではレヴィーリア様にお願いしてよろしいですか」


「はい! 任されましたわ!」


 どんと胸を張るレヴィーリア様。長身ゆえに普段は目立たない形の良い胸がぽよんと揺れる。


 こうしてレヴィーリア様の二度目になる俺の自宅訪問が突然決まったのであった。

 ついに100話となりました! ここまで本作品を読んでくださりありがとうございます!

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ニコニコ漫画カドコミ
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