シバわんこは見ていた
俺は柴犬。
とあるうちに飼われてた。
これは俺が体験した、ちょっと修羅場な話。
犬が何言ってんだって?
いやいや、犬だからこそ見える景色があるんだよ。
俺は実は捨て犬だった。
河原でキューキュー鳴いていたら、今の家族に拾われた。
家族からは大層かわいがってもらってさ。
俺は思ったよ。なんとしても恩返しするんだワンって。
その家庭は、パパさんとママさん、子供が二人の四人家族。俺が貰われたころは順調に行っててさ。
みんな仲良く暮らしていたんだ。
ところが。
世の中、そー上手くいかない。
なんとパパさんが仕事辞めてきた。理由? 職場で有能な人が次々と雇われてさ。
居場所がなくなったんだって。
それでまあ、辞めさせられた。
それからだよ。うちがめちゃめちゃになったのは。
パパさん、自暴自棄になってさ。
酒飲んで暴れてさ。
挙句の果てに悪い女に騙されて、家族を捨てちまったんだ。
パパさんが出て言った日。俺は犬小屋の中で聞き耳を立てた。
「あんなの、もう父さんとも思わない」
「酷い」
「家族をなんだと思ってんだ」
「あんた達……やめなさい」
ママさんの声だ。
「でもお母さんに暴力振るって俺絶対許さない」
あ、これはお兄ちゃんの声。
「そうだよ。あんな奴でていってくれてせいせいするよ」
これは弟君の声。
わふう……。俺は頭を前足にのせて考え込んだ。
で、それから。
ママさんが働きに出た。
朝早く出ていって、夜は午前様。
大変だ。
俺はそっと玄関から家の中をのぞいた。ママさん、疲れた体に鞭打って片付けとかしてる。
くううん。なんか辛そう。
因みにママさん、この後で俺を散歩に連れて行ってくれるのだ。
なんか申し訳ない。俺はテチテチ歩きながらママさんの顔を見る。ママさん、ん?どうしたの?と、
優しく俺に話しかけてくれる。
あー、俺に出来ることは何かないものか。しっぽブンブンっっっ
で、それから少しして。
なんとパパさんが帰って来たのだ。
俺は尻尾全開で迎えた。パパさーん!
よしよしって頭撫でてくれた。パパさん変わってない。
見てくれはちょっと悲惨だけど。
ママさん、玄関まで走って出迎えた。あんた、大丈夫?って。
パパさん、うん、と頷いて、すまなかった、と謝って。
ママさん、いいのよ、アンタが悪いんじゃない。と。
ママさんとパパさん、二人して玄関にはいってく。ほっ、これで一安心……じゃなかった。
「出てけ!」
パパさんになんか飛んできた……野球のボールだ……あ、これお兄ちゃんだ。
それがパパさんの顔に見事にヒット。
ママさんが叱る。なんてことするのと。
「それはこっちのセリフだよお母さん! 何でこんなやつ家に入れるんだよ!」
「そーだそーだ、出てけ!」
「やめなさい!」
ママさん必死で止める。パパさん、やられっぱなしで何も言わない……。
パパさぁぁぁぁぁん!
くっそー、こんな時に何も出来ないなんて。
なんのために柴犬やってんだ!(え)
でも俺ごときが行ったところで、犬語しか喋れん。ちくせうっっ。
でも、でも、このままじゃ……。
俺は玄関まで飛んで行って、
とにかく、
一生懸命話した。
パパさん、俺に愚痴ってたこと。
子供たちにもうしわけない、母さんに申し訳ない、俺のせいでって。
追い詰められてどうにもならなくなってって。
人は、人はさ
俺は犬だけど、
どうにもならない時だってあるんだよ兄ちゃん弟君!
分かってやってくれよ、頼むよ。今、君らがパパさんを分かってやらないと、分かってやらないと!
パパさんに向かってワフワフ、わわわん、
ママさんに向かってウオオオオン、
子供たちに向かってワオーン、ワンワンワンワンっっっ
ああ、人語喋れないのがもどかしいっっっっっっっっっっっっ。
わふう、ワンっっワンッッッワワワワワンッッ。
ワォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
それから、いく年かが過ぎて。
パパさんとママさん、子供達はまた、一緒に暮らすようになった。
あ、忘れてた。俺と。
俺はあの日以来。なぜか演歌が歌える犬と言う、謎スキル持ちにされてしまった。
ちがわいっっ!
あーでも、
それでもいいや。仲良くなってくれたんなら。
俺は犬小屋の中で、満足そうに尻尾をふった。




