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世界一平和なラブコメディ  作者: しょーやー
1/4

日常の中の非日常

チャイムの音が鳴り、午前中の授業を終えたことを告げる。生徒たちは三三五五に散り始めた。購買に行ったり、隣のクラスを訪問したり、授業の分からなかった所を聞きに行ったり。学校は、お昼の日常を描き始めた。

 そんななか一組の男女に目がいった。ご飯を食べている。それだけならカップルがイチャコラしてるな、で終わるのだが、場所は屋上だ。学園ラブコメモノのドラマとかなら屋上は必須レベルの要素だが、安全上などの観点から非常時以外立ち入りが禁止されているはずだ。この学校は屋上侵入オーケーな学校なのかもしれないが、だとしたらなかなかに珍しいと言えるだろう。なんにせよ、安全には注意していただきたいところだ。なんせこういうところはろくにメンテがされておらず、老朽化している場合があるからだ。下に落ちたら死だ。もっとも落ちてら私が時を戻すだけなんですけどね。

 

 しばらくすると、食事が終わり、二人は地面に寝転がる。

「ねぇねぇぺんぎんくん、このま一緒にま午後の授業サボっちゃおうか」

「一人でやっとけ。それよりくらげさん、午後は雨が降るらしいですよ」

「こんなに晴れてるのに。私は持っていないので、ぺんぎんくんのに二人で入ることとしましょうか」

「…………誠に遺憾ながら一緒に入ることにしますか」

「もっと喜んで?」

 二人は日向ぼっこをしながらそんな会話をする。春の陽気が気持ちいいのだろう。今にも寝てしまいそうな顔をしていた。

 

 私がこの二人を見つけたのは今日ではなく、数日前のことだ。日課の地球観察をしていた時にたまたま見つけたのだ。この二人はのんびりしている。付かず離れずの関係で、見てる私も心地いいと感じる距離感だ。だが、のんびりの中にも面白さがあり、見てて飽きない。しかしただ見ていてももったいないので、こうして日記にすることにしたのだ。まぁそんなことはどうでもいい。私が書いて私が読むので内容は二人のことが書いてあればいいのだ。

 

 さて、時間は流れ太陽は傾いてきたが見えない。雨のおかげだろう。個人的に雨は好きだ。しかし辺りは寂れたように暗く、音と合わさって昏い気持ちになりそうな感じがした。こういう日は、雨の音を聴きながらセンチメンタルな感情に浸るのがいい。

 そんなことを考えているうちに、チャイムが鳴り、放課後になった。生徒の多くは下駄箱に向かっている。雨で部活が無くなったのか、今日はいつにも増して下校する生徒が多いように見えた。

 数分後には人の波は収まっていたが、まだちらほらと生徒が見える。その中に下駄箱で誰かを待っているであろう男子生徒を見つけた。言わずもがな先程の「ぺんぎんくん」と呼ばれていた生徒だ。そして女生徒の方はというと、

「ごめんぺんぎんくん、待った?」

「待った」

「様式美って知らない?」

 遅れてやってきた。先程は「くらげさん」と呼ばれていた女生徒だ。

 この二人の呼び名についてだが、さすがにあだ名だろう。「ぺんぎん」なんて名前、本名だったらキラキラネームすぎるし。

 ともかく、互いにそう呼びあっている二人は、相合傘の状態で学校から出ていった。ラブコメっていいね。

 

 しばらく二人の間には、雨の音だけが響いていた。が、少し進んだところで、急に止まる。

「ねぇねぇぺんぎん。あそこで座っているのは幼女じゃないかな?」

 言いながら指を指す。その方向には、確かに雨の中地べたに座っている少女がいた。

「ほんとだ、幼女が座ってるね。かえるさんごっこかな?」

「だとしたらリアル追求しすぎじゃない?」

 少女を幼女と呼ぶの流行ってるの?

 さすがにかえるさんごっこでは無いだろう。土砂降りとまではいかないが、割と降っている。春でもこのまま雨に打たれ続ければ風邪をひくのは誰が見てもわかる。

「どうしますかくらげさん」

「面倒ごとは嫌いだけど、幼女ならご褒美だよね」

「それもそうだ」

 特殊な考え方をお持ちのようで。

「それに、あれよく見たらウチの制服だよね」

「確かに、よく気がついたね」

 くらげちゃんが言った通り、少女の服はくらげちゃん達と同じ感じのデザインだった。少し違うのは学年ごとに見分けがつきやすいようにするためだろう。

「さすがに見つけちゃったからにはほっとく訳にはいかないでしょ。それに案外爬虫類なだけかもしれないし」

「それはもはや地球外生命体」

 二人は少女に近づく。近くまで行くと、足音に気づいたのか、少女は肩を震わせた。しかし振り向くことはなく、背中を向けたまんまだった。暗くて少し見ずらいが、髪の毛は白だろうか。後ろ姿だけでは、少女の容姿は分からなかった。

「君は地球外生命体かな?」

「挨拶が独特すぎるんですが」

「…………だれ? あっちいってよ」

 機嫌が悪いのか少し怒ってるようだ。ホントドウシテダロウネー。

「ねぇ、せめてお話をする時はこっちを向いたら?」

「はぁ? 勝手に話しかけてるだけじゃん。オバサンは黙ってれば」

「まだ高校生なんですけど……」

「僕が行こう。……こんにちは、今はかえるさんごっこの最中かな?」

 どうしてそうなった。

「……そんなわけないでしょ。つーかいきなり絡んできてキモ。さっさと消えて」

「……………………黙れ小僧」

「いや小娘じゃない?」

「突っ込むとこそこ?」

 二人して少女に敗北する。まぁどう考えても二人が悪いが。

「……あんまり初対面の人にそんなこと言うものじゃないよ」

 と、くらげちゃん。第一声地球外生命体のやつがそんなこと言うな。

「……ッ。勝手に絡んでくるからじゃん」

「私たちは同じ学校の子が座ったまま雨に打たれてるから、心配して声をかけたんだよ」

 えっもしかしてアプローチ下手くそ? 心配してる風には見えなかったよ?

「…………別にあなた達には関係ないでしょ。ほっといてよ!」

「ほっといて欲しいなら、こんな目につきやすい公園なんかにいなきゃいいんじゃない?」

「………………」

 くらげちゃんのカウンターが少女にクリーンヒットした。後ろ姿だから分かりづらいが、少女は戸惑っているようだ。

「君がこんなとこで座ったまま雨に打たれてるのはなにか事情があるのかもしれないけど、このままだと風邪ひくし、家に帰ったら?」

「…………いい、ほっといてよ」

「じゃぁこのままここでずっとこうしてるの?」

「…………知らない」

「知らないって。身体は大切にしないとダメだよ」

「……うるさいな。ほっといてってば!」

 小さな公園に、少女の声が響いた。

 依然座ったままの少女。どうにかしようとするくらげちゃん。見守るぺんぎんくん。三人の間に沈黙が流れた。

「…………あぁもう、面倒くさいな!」

 ほんの数秒後、最初に沈黙を破ったのはくらげちゃんだった。慎重になるのを諦めたようだ。

「ぺんぎんくん。ちょっとこの幼女お持ち帰りしようか。家に帰りたくないって言ってるし、大丈夫やろ」

「確かに。最悪怪しまれる前に帰せばへーきへーき」

 真面目な顔してとんでもないこと言ってるぞこの人たち。なにナチュラルに誘拐しようとしてるの? 普通に犯罪だからね。

「そうと決まれば。ちょいと御手を拝借」

 二人は少女の腕をむんずと掴むと、引きずるような形で連れていく。

「…………え? ちょ、ちょっとやめてええええ!![#「!!」は縦中横]」

 少女は叫ぶばかりだった。当たり前や。

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