表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/229

お昼寝の思い出



「あの、えーっと、セルーニ? 柱の燭台に見覚えがあるのですが、何故でしょう?」


「そのようですね……。 恐れながら申し上げますと、多少なりとも、ミアーレア様のランプのイメージが影響されたのかと…… 」



 オーマイガー! セルーニの説明を聞いて、私は頭を抱えた。

 原因は、昨日アルトレックスの炎を纏った剣を見た時、「なにそれ暗いところを照らせて便利! 夜、ランプがわりになるじゃん!」と思ったことだった。


 多少の影響どころか、バリバリ具現化している。

 筋肉たくましい上半身を晒しながら、剣を構えるミニアルトレックス像達を、達観した目で見つめ呟く。


 

「セクハラ、じゃなくて逆ハラで訴えられたら、どうしよう」


「あの、ギャクハラとは何でしょうか?」


「えっと、いえ、その…… そうだ! やり直しをしませんか? 魔力は頑張って提供致します!」


「恐らくですが、結果は変わらないと存じます」



 今季のレイアウト変更は、不可能と分かった。



「 ……そうですか。分かりました。アルトレックスを家に招待するのは、冬を超えてからに致しましょう」



 何事も諦めが肝心だ。この彫刻達だって、こう、目を細めて輪郭をぼんやりさせれば、新古典主義の素敵な芸術品に見えないこともない。

 うんうん、写実性がとても素晴らしい。ネオ・クラシシズムとは、かくあるべきだ。


 ルネッサンスな彫刻達を無理やり受け入れる。

 来年の冬を迎えるまでには、なんとかしてランプイメージの意識改革をしようと、強く決意をするとともに、春の訪れを切に願った。


 目の前にある問題から目を背けるように、お互いそれ以上燭台の話題には触れずに朝の支度を終えると、一階に降りて朝食を取る。

 食後には、いつものようにロンルカストがやってきた。



「 …………本日のご予定でございます。本来であれば、レオルフェスティーノ様へ杖結びの進捗報告へ向かうのですが、本日は陰の日のため、外へ出ることはお控えいただきたく存じます」



 いつもと違い、スケジュール説明の前に、ちょっと長めの無言の時間があった。

 笑顔の中に、とてもいろんな意味が込められている気がしたが、私はそっと目を逸らす。

 友人の大事な大剣を、心の中で便利なランプ呼ばわりしていたら、模様替えで燭台のモチーフになってしまいましたなどと答えられるはずがない。



「はい。分かりました」


「午前中は座学で地理を、午後は書類とアロマ制作を行います。花弁の乾燥分が終わるようでしたら、回復薬の時間にお当てください」


「地理……うぅー 」



 やっぱりか。そうくるとは思っていたが、案の定、座学は苦手な地理だった。

 ヘニャリとテーブルに、頬をつける。コンッコンッと、軽い音をたてながらやってきたティーポットが、ほっぺを突いてきた。優しくツンツンされながら、目を閉じる。



「パピー、くすぐったいよー 」



 あぁー、注ぎ口から出る暖かい湯気と、お茶の香りに癒されるなぁ。

 ずっとティーポットと現実逃避をしていたかったがロンルカストに促され、渋々執務室という名の勉強部屋へと移る。


 やたら豪華な椅子に座り、東の街名と勝てる気がしない睨めっこをする。暫くすると、半開きになった扉の隙間から、ひょいっと黒猫が顔を出した。

 朝、上機嫌で咥えていったシャーラムはもう持っていないようだ。食べちゃったのかな? それとも、どこかに隠した?

 隙間から中の様子を確認した黒猫は、テトテトと部屋の真ん中まで歩くと、足を折りちょこんとその場に座りこんだ。



「黒猫ちゃん、何してるの?」


「うーん? 今は此処が1番だから」



 此処が1番? どういう意味か分からなかったが、黒猫が寛いでいる場所をよく見ると、ちょうど窓から差し込む光が当たっていることに気がつく。

 あぁ、そういえば薬屋でも店番中に、店頭幕から透ける日差しが当たる場所に合わせて、カウンターの椅子の位置をよく微調整したなぁー。

 私は薬屋のことを思い出し、膝をついた掌の上に頬を乗せた。


 ちょっと雑なサルト先輩が朝当番の日は、いつもより幕と店先の位置が広かったり狭かったりして光の差す位置がずれるから、結局自分で幕の張り直しをしてたっけ。

 


「太陽の光を、追いかけてきたんだ?」


「そうだよ、ふわぁーぁ…… 」

 


 やっぱりだ。日差しが当たるとポカポカして、お昼寝に最高なんだよね。 

 こっそり居眠りしているところを見つかって、ミグライン店長に怒られたりもしたなぁー。あの拳骨は、すごく痛かった。

 一瞬意識が飛んで、前世を回想したりしたもんね。 ……もしかしてあれが、走馬灯っていうのかな?

 途中から、冒険者の常連さん達がよく遊びにきてくれるようになって、居眠りする暇なんて無くなったけどね。



「日差しが当たると、あったかくて気持ちいいよね」


「 ……ミア、机の上で、彼が待ってるよ?」



 黒猫は、片目を開けて話しかけてくる私を面倒くさそうに一瞥する。

 鼻先であしらうかのようにボソッとそう言い、開けた目を再び閉じた。

 金色の瞳が見えなくなった黒猫は、黒いふわふわの毛糸の塊が、床に落ちているようにも見える。

 


「彼? あぁ、この紙のこと?」


「うん。待ちくたびれてるんじゃない?」


「続きをしたくないから、言ってるのに」


「そう? 僕は忙しいから。またね」


「 ……つれないなぁ。日向ぼっこがそんなに忙しいの?」


「魚を捕まえたいのなら、もう少し暖かくなってからの方がいいと思うよ 」


「そうじゃなくて。態度が冷たいってこと」


「ふわぁーぁ……僕は、難しそうなことを考えてるミアの横で寝るのに忙しいんだ。ミアがお仕事につれない態度だと、僕も眠れなくて困るよ。僕じゃなくて、机の上の彼と仲良くしてあげて?」


「むぅー! 意味分かってて、意地悪言ってたんだ!」


「ミアーレア様。午後も座学をご希望でしたら、なんなりと仰ってください」


「わわっ!? 違います! ちょっと休憩っ、息抜きをしていただけなんです!」



 窮地に立たされ焦る私に知らんぷりを決め込んだ黒猫は、プスプスと心地良さそうな寝息を立てはじめる。

 呼吸に合わせて小さく前後する毛玉に恨めし気な目を向けながら、私は残りの時間を東地域の街名暗記に努めた。

 

 やっと午前が終わり、セルーニ特製のおしゃれランチで元気を回復する。

 座学から解放された午後は、ルンルンで待望の書類仕事をした。

 書類仕事のノルマが終わると、アロマ作成に邁進する。

 アロマ制作中、黒猫が私よりも上機嫌に鼻歌を歌いながら部屋に入ってきたので、杖結びの続きをさりげなくお願いしてみた。



「黒猫ちゃん、今度お散歩に行かない? それで、ついでに杖の木まで、案内してほしいなぁなんて」


「んー? 今度ね」


「うん今度! それで、いつにする?」


「ミアは、明日起きた時に踏み出す足を、どっちにするか決めてるの?」



 結果は惨敗だった。昨日のロンルカストの時と同じように、のらりくらりとはぐらかされる。杖ゲットまでの長い道のりを感じて、しょんぼりする。


 しょげかえりながらもアロマ製作を続け、乾燥済みの花弁がなくなったので、残った時間は回復薬を作った。

 杖はゲットできなかったが、来週平民街に持っていく分のお土産はゲットできた。うん、今日はこれで満足しよう。

 夕食を取り、セルーニに手伝ってもらいながらお風呂に入る。



「ふわぁーぁ…… セルーニ、おやすみなさい」


「おやすみなさいませ。ミアーレア様」



 寝室で1人になってからは、調剤部屋での黒猫としたやりとりを思い出し、もっと上手な頼み方ができたんじゃないかと反省をする。



「うーん。でも、あれ以上言うのは無理だったしなぁ」



 朝と勉強部屋での一件で、しつこくすると嫌がられると学習した私は、あれ以上聞くことができなかった。

 何日かあけてから、機嫌が良さそうな時を狙ってまた聞いてみよう。急いでないし、それで大丈夫だよね?


 ベッドの中で、言い訳じみた呟きを自分に言い聞かせながら目を閉じる。

 そうして、朝の大規模リフォームからはじまった黒猫との共同生活1日目は、恙無く幕を閉じたのだった。

 



 次回は、久しぶりに怖い貴族の元へ向かいます。


 お読みいただき、ありがとうございます。


 少しでも続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや、下の⭐︎を押してくださると嬉しいです。 創作の励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ