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西塔第一側近の気遣い



 廊下に出ると、ベルセ様がいた。驚いて、ビクッとしてしまう。

 ディーフェニーラ様の横にいたはずなのに、いつの間に移動したの!? 瞬間移動!?

 優雅な仕草で胸に片手を当て、頭を下げる。



「ご案内いたします」


「ベルセ、案内は不要だ」


「レオルフェスティーノ様、ミア様はディーフェニーラ様の訪客でございます」


「ふん、好きにしろ」


「ありがとう存じます。それでは、こちらへどうぞ」


 

 鼻を鳴らして、不機嫌そうにするレオルフェスティーノ様に、ベルセ様は柔らかな笑顔で対応した。

 ベルセ様に先導かれ、レオルフェスティーノ様、私、ロンルカスト様の順で歩く。


 角を曲がると、廊下の両端には、沢山の時計が並んでいた。

 ズラリと並ぶホールクロック達は、カチコチとバラバラに振り子を動かしている。

 変な時計。 ここ、きた時には通らなかったよね?



「レオルフェスティーノ様、東の塔は少々、手の届かぬところがあるのではないでしょうか?」


「事足りている。要らぬ心配だ」


「そういえば先日、ある騎士のグラーレが、体調を崩したそうですね。 隊の乱れを、ディーフェニーラ様も、大層心配なさっておいででした」



 グラーレが、体調を崩した?


 もしかして、ロンルカスト様が足を踏んでしまった、あのグラーレだろうか? あの時、怪我を負ってしまったのかもしれない。瞬間的に、思い出して青ざめた。



「騎士団長であられる、レオルフェスティーノ様もさぞかし憂いを…… おや? ミア様、どうかなさいましたか?」



 顔色を変えた私をチラリと見て、ベルセ様はスススと、近づいてくる。

 跪き、手を取ると心配そうな顔をして覗き込んだ。



「ミア様、顔色が優れないようですが、いかがなされましたか?」


「ベルセ、其方……」


「ミア様、壁の向こうの民にとって、こちらでの時はご負担でしょう。 少し休憩をなされては如何でしょうか?」


「ベルセ、やめろ」


「ミア様、お加減は如何ですか? 宜しければ、あちらにお部屋をご用意しております。」



 ベルセ様は、向かって右前方にあるお部屋に、手を向ける。

 ベルセ様、優しい…… そして、なんて準備がいいんだろう。

 

 さっき、緊張から気絶しかけたばかりだ。出来れば、少し座って休憩したい。怖い冷徹貴族とも、離れたい。

 私が休憩室を渇望していると、前にいる冷徹貴族が、片手で顔を覆って大きな溜息をついた。



「はぁ…… ベルセ、もう良い。 これは、東の塔で処置をする」


「さようでございますか。差し出口を申しまして、失礼致しました」



 ベルセ様は私の手を離し、立ち上がった。

 一礼すると、先頭に戻り中断していた案内を再会する。

 冷徹貴族と離れて休めるかもと思っていた私は、項垂れた。


 ベルセ様が引いてしまった……

 しかも、何故か東の塔に行かなければならなくなった……


 二重のショックに消沈する。絶望だ。

 「もう帰りたい。大丈夫です!」と言いたいが、口を開いたら殺すぞ令は、まだ続いているかもしれない。


 優しく触れてくれた、ベルセ様の離れた手が名残惜しいよ。

 私は、銀色の長髪が揺れる、冷たい背中にしょぼしょぼと続いた。



「ミア様、またの御登城を、お待ちしております。」



 笑顔のベルセ様に見送られて、いつもの馬車に乗り込んだ。

 冷徹貴族とロンルカスト様は、別の馬車に乗るようだ。

「平民と同じ馬車に乗るなど、吐き気がする」とか、思われてそう。


 相乗りにならなくて、心底ほっとしたが、これから向かうのは、東の塔だ。

 本当は帰れるはずだったのに と窓の外を見ながら失意の底に沈む。



「何かの手違いで、平民区域に行ってくれないかな」



 馬車を引くグラーレに、念を飛ばしてみたが、叶うことはなかった。

 ガタゴトと進んでいた馬車は、しっかりと東の塔の前で止まる。そびえ立つ漆黒の扉は、今日も威圧を放っていた。

 扉の前には、ロンルカスト様が立っている。

 馬車はほぼ同時に出発したのに、先についていたようだ。



「ミア様、此方へどうぞ」



 促されても、全然行きたくはない。憂鬱なまま、重い足を動かした。

 案内役のロンルカスト様も、心なしか硬い表情をしている。

 いや、この前の一件で嫌われているのか。


 さっき私が顔色を変えさえしなければ、今日だってこんな手間もなかったはずだ。

 「何で、まだいるんだ」とか、「東の塔で迎えなきゃいけないなんて、面倒だ」と、思われていてもしょうがない。


 肩を落として、ロンルカスト様に続く。

 もしかしたら、休憩室に連れて行ってくれるのかもという一抹の望みをかけたが、案内されたのはいつもの扉の前だった。

 不穏な黒い扉の前に、淡い期待が消える。



「入れ」



 開いた扉の向こうでは、執務机の奥に座るレオルフェスティーノ様が、道端の吐瀉物を見るかのような顔で此方を睨んでいたのだった。



お家に帰る前に、ラスボス部屋に寄り道するようです。



バックのナンバーさんが好きなので、歌詞の一節を引用させていただきました。

自己満極まりないですが、満足大変しております。

ミアが呟いた一言です。



お読みいただきありがとうございます!

とても励みになります!

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