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夢喰

作者: たけとう

ー記ー

今、太陽を覗くと橙色をしていて、街が一色になっていました。この風景には心当たりがあって、心当たり、ちゃんと伝えるなら記憶していると言うのでしょうか。ですが言葉に表すには少し時間がかかります。彼が僕の心の奥底で深い眠りについているからです。だからといって、僕は、彼の眠りを無理に起こしはしませんでした。そっとしておくことに、僕は意味を感じたのです。


ー風ー

ある日、風が窓ガラス越しに僕達を見ていたので、その光景に僕は寒気を感じました。静かだった部屋全体もいきなり騒ぎだしました、まあ僕も部屋であったら騒ぐかもしれません。落ち着かない部屋で1人ぼっちの僕は静かに眼を瞑って、自分は落ち着いていなければと思い、そっと静かに床に寝そべってみました。僕は少し成長したのかもしれません。


ー爺ー

風がうるさく、地面におしゃべりしていました。よく耳をすましてそのおしゃべりを聞くと、おしゃべりしているのは風でなく、低俗な爺さんだったのです。全ての髪の毛は白髪に染まり、毎日着ている甚兵衛は所々に汚れが目立ち、数箇所に穴が空いているのが特徴的でありました。けれど顔は、顔だけはいつもぼやけてみえるのです。不思議でした。この人には最近よく出会います。爺さんは会う度に僕に対して口の水分を充分に飛ばしてくるのですが、発言がデタラメでなんと言っているのかわかりませんでした。僕は嫌がるように傘をさしたのです。


ー天ー

太陽がのこのこと現れています。大分、能天気だと思います。僕も一度はその自由さに憧れて、自由でいることを望んだ事があります。結局、僕にそれは許されませんでした。僕がいつまでも唯の人間であり、以上を望まなかったからです。僕が唯の人間、唯の人間でなければ、自由を得ることができたのかと考える日が多々ありました。ですが考えるほど僕は阿呆だと痛感しただけでした。


ー花ー

ここには色々な種類の花がそれぞれ光を浴びていて、花の中には綺麗な者もいれば、元気な者もいました。だから、汚い者もいます。壮大に広がる花畑で、僕は花を一つ持ち帰ることにしました。選んだその花に愛を感じたからです。綺麗でも元気なわけでもない、優しい普通の花でした。僕ならその花を愛せることができると感じました。愛した花。愛したはずなのに、今になって、名前は何故か思い出せないのです。


ー素ー

薄情な人間ほど、人間らしいものはありません。

「人間は完璧には創れない。」

と神は言って、同時にこうも言いました。

「傲慢に、泥まみれに、賢く、成れと。」

思い当たる節は数えきれんばかりあったので、阿呆となんら変わりない自分を後悔しました。自分のことは自分が一番理解していた気でいたのに。


ー虫ー

広がる道に飛び出す飛蝗がいました。その道に車は通ら気配はなく、その場には僕と飛蝗だけでした。その飛蝗は、虫ながら言葉を喋っていたので、そっと名前を尋ねると、飛蝗はこっちを向いてこう答えました。

「尋ねずともわかるであろう。」

彼は羽を広げ、低空飛行し何処かへ行ってしまい、同時に一台の車が前から進んできました。確か白い車だったと思います。


ー夢ー

目を開けると僕は唯、整地された場所に立っていました。まわりは白く覆われ、この場の広さは分かりたくもないほどでした。前には1人の性別の区別がつかない人?が黒いサラサラしたの布を上から被せて立っていて、周囲を確認して2人きりだと悟り恐る恐るとその人?に近づきました。人?は白い両手を前に差し出して、右手から橙色の猫、左手から灰色の狐を出したのです。人?は

「幸せな方を選べ。」

声は何故か高音で少しノイズ音が入っていて、気味が悪くなりました。僕は迷いながらもどっちか選ぼうとしました。ですが、僕の記憶はそこで終わってしまっていたのです。


ー音ー

静かな朝の駅のホームは僕だけで、響くインターホンの音が心を落ち着かせてくれました。列車が線路を通る音と共にベルが鳴り、オレンジ色の2両編成の列車がホームと並行に並び、中を見れば、5人ほどの人が乗っていました。ドアが開き、僕は迷わずにその列車に乗りました。乗っていた5人は、女2人、男3人で、それぞれの年代も違うようで、関わりがなさそうに見えました。しかし、何故か5人が同じ車両に1席間隔開けて座っているのです。僕はそれが妙で仕方がなかったのと同時に少し面白く感じたりもして、僕も同じように座ってみました。なにも変わりはありませんでした。


ー闇ー

何故か僕の目が開かなくなりました。暗く狭い部屋に綴じ込まれ、数秒、いやそれよりも短いもので部屋が動いているので、僕はこの部屋に恐怖で蹲る外ありませんでした。僕の体は硬い紐と繋がれており、部屋から出ることができそうにないので、いつになればこの部屋から出ることが出来るだろうと考えました。結果、恐怖で食べ物は喉を通りそうにありませんでした。まあこの部屋には、食べ物を置ける広さはないのですが。


ー雑音ー

僕は未だ、暗い部屋に閉じ込められていました。時計などは勿論ないので(暗くてあってもわからないのですが)、どのぐらいの時が過ぎたかなど考えることも無くなってしまいました。それはご飯など食べていないのに、体は疲れていないのが不思議で、仕方がなかったからかもしれません。かもと言ったのにはもう一つ理由があって、それは最近、隣の部屋?から話し声が聞こえるからです。内容までは聞こえないのですが、笑い声や歌が聞こえたのは確かに聞こえ、この暗い部屋からは想像できないほどでした。勿論、部屋は暗くて怖いままです。ですが、その時から、僕は安心を覚えました。


ー型ー

それは突然に起きたのです。部屋に光が差し出し、僕は何故か部屋から押されるように出されたのです。不思議だったのと同時に込み上げる感情は、感動でした。僕の目は未だ開いていないのですが、僕にはわかりました。明るい場所にいて僕を何人かの人が取り囲んでいることが。本能的?に僕は口を大きく開け、つい、泣いてしまいました。安心からだと思われます。


ー或ー

寝ていた僕を、名前を呼んで起こしてくる人がいました。その名前は僕の母がつけたらしいです。「葉汰」それが僕の名前で、皆からそう呼ばれていました。決して、この名前が嫌だったわけではなかったのですが、これではない、と思う自分がいたのも覚えています。呼ばれた方を向くと、男の人が立っていて、ぶっきらぼうな笑みを、こちらに飛ばしていました。曇天の中でも、顔を必死に出そうとしている太陽のようでした。僕は彼にむけ、手を伸ばしたのです。


ー安ー

これまでの僕は緊張でものを言えるような人ではありませんでした。これまでというように、僕も人間なので成長をしました。つまり、少しであれば、人と話すことができます。まだ文の中に「え…」などと入れてしまって詰まらせる事がありますが、大きな成長なのです。僕が"まま"と呼ぶと母は、喜んでくれました。僕が"ぱぱ"と呼ぶと父の表情は、はにかんでいました。


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