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七話 どうやら俺は赴くらしい

 異世界バトラク。

 剣と魔法のファンタジーでゲームのような世界。

 そしてそんな異世界転生御用達のわかりやすい設定の世界に飛ばされた俺が現在いる場所はと言うとバリス大陸にあるローゼン王国の首都ローゼンだ。


 このローゼン王国はバリス大陸にある六つの国の中でも上位に入る大きさの国でとても豊かな国だそうだ。


 詳しい地図をまだ見てはいないので大陸の大きさ、どこら辺の位置にこの国があるのかは分からないが四季はしっかりとあるらしい。


 人間の他にもファンタジーならではの獣人やエルフ、ドワーフなどお約束の種族もいて、各種族の国や都市などもあるのだと言う。


 二百年ほど前まで各国や種族間で戦争が頻繁にあったそうだが魔王が復活して魔物が活性化してからは一時休戦と言うことになり今は各国が魔王を倒し平和な世界を取り戻すべく協力し合ってるらしい。


 魔王はバリス大陸と海を挟んでかなりの距離にある魔国領という大陸に拠点を構えており、この魔国領で力を蓄え、いずれは世界を我がモノにするのだそうだ。


 と、昨日のライセルさん達との話で聞けたのはこれぐらい。

 もっと詳しく聞きたかったのだが、全員何が楽しいのか大量の酒を飲んでベロベロに酔ってそれどころではなくなってしまった。


「まあ別にこれからゆっくり知っていけばいい事だし、のんびりとやっていこう」


 窓からギラギラと射し込む陽射しに目を細めながらベットから起きて大きく伸びをする。ここは昨日ライセルさんから教えてもらったギルドと提携している安くてリーズナブルな冒険者御用達の宿屋ホイホイ亭だ。ギルドから十分ほど歩いた場所にある。


 一泊100ゴルド朝食付きとかなり破格で人気の宿屋らしいのだが運良く部屋が空いていて泊まることが出来た。


 マジでラッキーだ。


『ゴルド』とはこの世界でのお金の単位で銅貨一枚=1ゴルド、銀貨一枚=1000ゴルド、金貨一枚=10000ゴルドの価値。銅貨にだけ限り大銅貨と言うものが存在し、これは大銅貨一枚=100ゴルド。1ゴルド=日本で直すと1円の価値。庶民の一般年収は50万ゴルドだそうで、日本円に直すと50万円程で一年は暮らせる。そう比べるとこの世界の物価はかなり安い。


 まあド〇クエとかF〇と同じノリの取っ付きやすい貨幣換算で助かる。


「よっこいせ」


 とりあえずベットから降り部屋を出て下の受付兼酒場の方に行く。


 着替えなどそんな物は持ち合わせていないので着慣れすぎてヨレヨレの上黒下灰色のスウェットで下に顔を出す。


「お! 起きたな(あん)ちゃん、おはようさん」


 するとそんな野太い声に挨拶をかけられる。


「おはようございますルドルさん」


 声のした方を向いて返事を返すと、そこにはこのホイホイ亭の主人ルドルさんが他の宿に泊まっている冒険者に朝食を運んでいた。


 鼻筋の辺りに横に一本大きな切り傷が特徴的で歳は五十半ばぐらい、白髪混じりの黒髪に顎に蓄えた立派な髭、大岩を連想させるゴツイ身体。元冒険者だと言われれば疑いもしないが、生まれてこの方客商売一本。魔物と戦ったことすらないらしい。顔の傷は子供の頃、猫に引っかかれてできたものだそうだ。


「適当に空いてる席に座って待っててくれ」


「分かりました」


 頷いて近くに空いていた隅っこのカウンター席に陣取る。


 朝の朝食ラッシュは終わったらしく、酒場はガランとしていて俺の他には四人組の冒険者と三人組の冒険者しか居ない。


「こっちの世界に来てから初めての朝はどうだい? ぐっすり眠れたかね?」


「はい、ぐっすりです。意外と寝付きはいいほうなんですよ」


 席に座ると直ぐに奥の調理場の方から、ルドルさんの奥さんのバラルさんがパンと野菜スープ、牛乳をお盆に乗せて置いてくれる。


 腰まで伸びた深紅の綺麗な髪。歳は30代前半と言っても不思議ではないくらいに大人な美貌の持ち主だが、実際はルドルさんと同じ歳らしく、それを聞いた時は驚いた。

 これが本当の美魔女と言うやつなのだろう。


「そうかい。それは冒険者向きな体質だね!」


「はは、そうですかね?」


「そうさね! 大事な素質さ」


 快活に笑い答えるバラルさんと軽く言葉を交わして朝食に目を移す。


「いただきます」


 手を合わせてしばらく食事に没頭する。


 パンとスープを交互に食べじっくりと味わう。


 日本(あっち)の食事と比べると質が数段に下がるのは馬鹿舌な俺でもわかる。


 しかし、濃い味ばかりの食生活を送っていた身からすると、この食材本来の味が楽しめる薄味の料理が新鮮で日本(あっち)の食事よりも美味しく感じる。


「どうだい、あんまり美味しくないだろ?」


 カウンターで頬杖しながらバラルさんが興味深そうに聞いてくる。


「いえ、美味しですよ」


「本当かい?」


「はい」


 短く答えてパンとスープを交互にループさせながら食事を続ける。


「………ふふ。どうやら本当みたいだね」


 しばらく呆けた顔をしたかと思えば、バラルさんは口元を抑え小さく笑う。


 何が面白かったのか全くわからず、首を傾げながらパンを頬張る。


 噛めば噛むほど旨みが出てくる、するめタイプのパンだなこいつ……。


「まだおかわりはあるから欲しかったら言ってくれ」


 バラルさんはそう言うと奥の調理場の方に戻っていく。その後ろ姿が嬉しそうに見えたのはどうしてだろうか?


「ありかほうほざいまふ」


 お行儀悪く、口に食べ物を含みながらお礼を言って再び首を傾げる。


 ・

 ・

 ・


 のんびりと朝食を終えて宿を出る。


「お、出掛けんのかあんちゃん?」


「はい、ちょっとギルドの方にでも行って仕事でも受けてこようと思って」


 外で掃き掃除をしていたルドルさんに声をかけられ答える。


「そうか。まだこっちに来たばっかだってのに直ぐに働き出すとはあんちゃんは真面目なんだなあ!」


 どこが面白かったのかルドルさんは豪快に笑いながら「頑張れよ!」と言って見送ってくれた。


 それに手を振って返事とするとギルドの方に歩を向ける。


「……」


 昨日はしっかりと街の外観を見ることが出来なかったのでよく分からなかったが、改めてしっかりと街を眺めて見ると自分が本当に異世界に来たのだと実感が湧いてくる。


 漫画やアニメなどで親の顔よりも見た中世ヨーロッパ風の街づくりに、平然と街の中を歩くケモ耳や尻尾の付いた所謂獣人、ずんぐりむっくりとした体型のドワーフ。


 お約束すぎる光景にwktkがヤバい。


 大陸の中でもかなりの大きさになる国の首都ともなれば多種多様な種族が集まるのは普通のことなのだろうが、異世界二日目にして直ぐにこんなお約束な種族を見れるとは思わなかった。


 あとはエルフを見れば完璧なのだが、見た感じエルフは見当たらない。


「やっぱりエルフは他の種族より珍しいのか?」


 エルフは数が少ない、他の種族を毛嫌いしている、というのもお約束の一つであり、やはりこの世界でもそうなのだろうか?


 まあ遅かれ早かれエルフもお目にかかれる日が来るだろうし、楽しみがあるのはいいことか。


 なんて考えながら十分ほど歩くと直ぐにギルドの方に着く。


 昨日ライセルさん達と一緒に来た時は何とも思わなかったがいざ一人でこの大きな建物に入るとなると緊張してしまう。


「………」


 少しの間その場で硬直して、覚悟を決め扉を開ける。


 ギィィ、と扉の軋む音がしながら恐る恐る中に入る。


 瞬間、中にいた冒険者や酒場の店員、受付嬢などが一斉に刺さるような視線をこちらに向ける。


「………っ」


 その異様な注目に一瞬怯んでビクビクしながら用のある受付カウンターの方へと歩く。


「おい、あいつが三人目の来訪者か?」


「強いの?」


「いや、正直言ってそうでも無い。ショウコさんの評価も低めだ」


「マジか、来訪者でも弱い奴ってのはいるんだな」


 昼間っから酒場の方で酒盛りをしている冒険者や、依頼の貼られた掲示板で仕事を見繕ってる冒険者達に微妙に聞こえる声でそんな会話が飛び交う。


 ……いやね、気を使って小さな声でコソコソ目に話してこっちに配慮してくれるのは嬉しいんだけど聞こえてるからね?

 てか、なんでみんな俺のこと知ってるの?まだ来て二日目なのに噂広まるのはや過ぎない?

 やだ怖い。


「固有魔法とかは持ってんの?」


「持ってるぽいがよくわからん名前だった。確か……吃逆だとかなんとかってショウコさんが言ってたな……」


「それどんな魔法だよ?」


「知らねえよ。でも大したことなさそうだろ?」


「確かに……」


 俺の個人情報ガバガバ過ぎん?


 この異世界は転生者……いやここでは来訪者、に対する理解があったりするし、そんなに珍しいものでもないらしいが、やっぱりどこの世界でも変わり種の情報ってのは出回るのも早いみたいだ。


 めっちゃ目立ってるんですけど……。

 これじゃあ目立ちたくない系主人公は直ぐに詰んじゃうぢゃん。


 入口から受付カウンターまでは大した距離ではないはずなのに、とてもそれが遠く感じられすこぶる居心地が悪い。

 そう感じなからやっとのことその場に着く。


「あ〜、ヤマトさんこんにちは〜」


 のんびりマイペースな声音で出迎えてくれたのは受付嬢のカーリーさん。


「どうも」


 さすがに二日目で見慣れたとは言わないが見覚えのある顔が出てきて少しほっとする。


「今日はどうなされたんですか〜?」


「えっと、初心者向けの依頼を見繕って欲しいのと、昨日ショウコさんから出た紙とかって貰うことできます?」


 無駄話をするほど仲良くもなければ、コミュ力がある訳では無いので簡潔に要件を述べる。


「依頼とショウコさん用紙ですね〜、わかりました〜ちょっと待てくださいね〜」


「あ、はい……」


 ふなゃりと可愛らしく笑って頷くと、カーリーさんは後ろにある棚の方へと行ってしまう。


「………まずはショウコさん用紙とそれから簡単な依頼ですね〜」


 直ぐに数枚の紙を持って戻ってくると昨日見たのと同じ、ショウコさん用紙を手渡してくる。


「ありがとうございます」


 それを受け取ると他の紙……依頼の紙だろう、はカウンターの上に広げられる。


「これなんてどうですか〜? どれも比較的安全でソロでも問題ない難易度ですよ〜」


 置かれたのは三枚。


 一枚目は森で薬草採取の依頼。


 二枚目はスライム討伐の依頼。


 三枚目は墓標遺跡の探索依頼。


 いや、三枚目は初心者向けではないでしょ。なんか遺跡に住み着いたドラゴンの討伐とか書いてあるし……。


「ふむ……」


 三択かと思いきや二択……いや、今回の目的を考えると一択か。


 報酬のことを考えてもこれで決まりだな。


「これ受けてもいいです?」


 受ける依頼の紙を指さし確認をとる。


「はい大丈夫ですよ〜。それじゃあギルドカードを出してください〜…………はい大丈夫です、頑張ってきてくださいね〜」


 言われた通りギルドカードをだし何かをされるとすぐに返される。最後に軽いノリで受注完了と掘られた判子を依頼用紙にして、激励?の言葉を貰う。



 どうやら俺はこれから初めての依頼に赴くらしい。


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