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五話 どうやら普通らしい

「そ、そうだったのか……」


 一旦女神への怒りは置いといて、とりあえずライセルさん達に俺が死んで女神にあってこの世界に飛ばされて、ライセルさん達に出会うまでの流れを大雑把に説明をした。


 ライセルさんは俺の話を聞き終わり苦笑いしながらビールの入ったグラスで口を湿らす。


「お、お気の毒に……」


「ま、まあきっといいことがあるぜ坊主……」


「……」


 他の御三方にも哀れみと慰めの言葉を頂き俺のメンタルはもうズタズタだ。

 情けない、情けなさすぎる。


「えっと……とりあえずこの世界はさっきヤマトが言っていた通り魔物が跋扈する世界で、世界を我がモノにしようとする魔王から世界を守るために沢山の人間が戦っている世界だよ。全くこの通り過ぎて僕達からは特に補足することは無いんだけど、改めて他に聞きたい事とかないかな。僕たちに答えられることならなんでも答えるよ!!」


 ここまで来たらもう開き直ってどんなに情けないことでも聞いてやろう。


 ライセルさんのありがたい言葉にそう吹っ切れる。


「……俺はこれからどうすればいいでしょうか?」


「う……」


 言葉にしてさらに自分が惨めに思えてくる。


 いくら精神が疲弊しているからと言って、これは他人に聞くようなことではない。わかっている。そんなことなどわかりきっているのだが……誰かに手を引張てもらわなければ再び立つことなんて出来ない。


 だって!こちとらまだピチピチの高校生で社会の社の字も分からないペーペーなんだぞ!?なのになんだこの仕打ちは!

 これが社会か!?現実か!?

 こんなのただの甘えだってわかってるけど俺だってまだ甘えたいお年頃なんだよぉぉぉおおおおおお!!


 ……よし、よく口に出さなかった。


「とりあえず先にも後にもお金は必要だからまずはお金を稼ぐしかないんじゃないかな?」


 盛大に心の中で駄々を捏ね終わったところでライセルさんからそう提案される。


「確かに……して、どうやってお金を稼ぐのがいいと思いますかね?」


 ひとつ頷いてすぐさま質問する。


 もうここまで来たら最後まで思いっきり頼りまくろう。そして絶対恩を返そう。そうしよう。


「危険を侵さず稼ぐなら正直にいうと日銭を稼ぐのでさえも厳しいと思う。他の職業よりも実入りがいいのは一般兵士とか国に仕えることだけどもう今年の兵士募集試験は終わってるし、すぐにお金を稼げるのはやっぱり僕達みたいな冒険者かな」


 しっかりと考えた上でライセルさんはそう説明してくれる。


 うん、まあ、そうだろうとは思ってたけどそれは言わない、言っちゃいけない。誰かにそう言って貰うことに意味があるわけでこれは事実確認だ。


「聞くところによると来訪者はみんな不思議な力を神から授かってこの世界に来るっていうじゃないか。そのどれもが強力なもので来訪者は基本的に強くなるのが早いらしい。ヤマトも何か力を授かっているんだろ?」


「……!!」


 ライセルの言葉で目を背けていた嫌なことに向き合う時が来る。


「その力があればきっと冒険者でもやって行けると思うよ。それこそさっきの魔物もその力があれば簡単に倒せたんじゃないのか?」


「あ、あはははは……」


 乾いた笑みしか出てこない。

 色々と女神に問題があったと思うがこればっかりは完全に俺の自業自得だ。


「ヤマト?」


「─────す」


「え? なんて言ったんだい?」


 こちらの言葉が上手く聞き取れずライセルは聞き返してくる。


「───ないんです」


「ごめん、もう少し大きな声でお願い」


「……使い方がわからないんです……」


「あ…………」


 全てを察したかのようにライセルさんは俺から目を逸らし申し訳なさそうにする。


 やめて!そんな申し訳なさそうな顔をなんてしないでくれ!


 迷惑をかけまくると言ったが、かけたらかけたで居た堪れない気持ちになるのは当然のことでマジで死にたくなってくる。


 お互いが目を逸らし無言の時間が続く。


「……それなら調べればいい」


 そんな苦痛でしかない時間をぶち壊す天使の声が聞こえてくる。


「え?」


 反射的に声のするほうを見るとその声の主は今まで一度も言葉を発していなかったサリーさんだった。


「調べる……そうか、そういえばアレがあったな! ナイスだサリー!!」


 サリーさんの言葉にライセルさんは何かを察したようで席から立ち上がり後ろに視線を移す。


「アレですねお兄様!」


「そうかアレだな!」


 ライセルさんの視線の方向でレーンさんとロビンさんも何かを察したようで嬉しそうに立ち上がる。


「アレ……?」


 しかし俺はライセルさん達の反応や視線の方向を覗いて見ても皆目見当もつかず、頭上に疑問符が浮かび上がるだけだ。


「ヤマトこっちだ!」


「え、ちょ……」


 一人だけしっくりとこず首を傾げているとライセルさんに腕を掴まれ、どこかへと引きずられる。


「これだ!」


 そう言われ連れてこられたのはギルドの受付カウンターの横に置いてあるゴツゴツとした石の前だ。


「なんですかこれ?」


 何となく流れで察しがついてはいるが間違っていたら普通に恥ずいのでライセルに聞いてみる。


「これは人の身体能力値や魔力値を調べることが出来る魔結晶だよ。冒険者になる時にまずこの魔結晶で自分の力を測ってから階級が振り分けられるんだ。この魔結晶には人の能力値を測る他にその人に与えられた加護や特別な力を調べることも出来て、これを使えばヤマトがどんな力を授かったのか分かるはずだよ」


「なるほど……」


 はいキター。

 異世界転生のお約束の1つ、人の能力を測ることが出来る変な石〜。


 てかあのクソ女神、ゲーム見たいな強さを可視化出来るステータス画面系の便利な機能とかは無いって言ってたのにあるじゃん、めちゃくちゃあるじゃん。なんであの場で聞いた時盛大に嘘つかれてバカにされたの俺?


「あ、カーリーさん、冒険者になりたいって言う新しくこっちに来た来訪者の人がいるんですけど、ショウコさん使ってもいいですか?」


 なんて女神への疑問と怒りが再び湧いたところでライセルさんが続ける。


「へ? 来訪者の新人さんですか? 今月はヤケに多いですね〜。分かりましたいいですよ〜、ショウコさんで測り終わったら用紙を持って私の所まで持ってきてくださいね」


 ひっきりなしに次から次へと受付に来る冒険者達の対応をしながら、そう言った温厚そうなおっとりとした受付のお姉さんは魔結晶の使用許可をくれた。


「ありがとうございます! それじゃあヤマト、ショウコさんの一番尖ってる部分に人差し指を刺してくれ。魔結晶というのは人の血から能力を分析するんだ!」


 ワクワクと興奮しながらライセルが魔結晶の使い方をレクチャーしてくれる。


 ……いや、それよりも。


「あの、そのさっきから言ってる()()()()()()ってもしかしなくてもこの魔結晶のことです?」


 当たり前のように会話に出てきて、誰も触れないから黙っていようかと思ったが気になって仕方がないので聞いてみる。


 なんで魔結晶に個別の名前がつけられてるんだよ……。


「そうだよ? あーそっか……魔結晶にはそれぞれ意思があって、ギルドなんかにある魔結晶には親しみを込めて名前をつけるんだよ。声を出して喋る事は出来ないけど文字を介してなら会話もできるよ。あ、触れる前はしっかりとショウコさんに挨拶してね。ショウコさん、女の子だからそこら辺は気を使ってあげて!」


 俺の疑問に察してくれたライセルは説明と注意事項も言ってくれる。


 え?女の子なの?


「お、オーケイ……よろしくお願いします……し、しつれーしまーす?」


 まさかの魔結晶が女の子という事実に驚きつつライセルさんの説明に頷いて、恐る恐る魔結晶のショウコさんに手を伸ばす。


「おい、アイツ来訪者だってよ」


「今月は多いな。またバケモノの誕生か?」


「どれくらい強いんだ?」


 触れる瞬間、周りの冒険者からそんな声が聞こえてくるが、こういった来訪者のステータス測定というのは注目の的なんだな。これもお約束の一つと言えば一つだな。


「いてっ……」


 ショウコさんの一番尖った鋭利な部分に人差し指を刺して一滴、二滴と真っ赤な血がショウコさんのゴツゴツした体に伝う。


 瞬間、ショウコさんは青白く発光すると『チンッ』と古いオーブントースターのような子気味良い音とともに文字が書かれた一枚の紙を出す。


「お、出てきた! 読んでみてよヤマト!」


 青白い光が止んで紙を手に取るとライセルが興味津々に聞いてくる。


「わっ、わかりました──」


 周りにいた冒険者も途端に静かになり聞き耳を立てるようにこちらに興味津々だ。


 ……これはアレだなきっと今から読み上げる俺の最強すぎるステータスの内容にみんな驚いて俺TUEEEEで優越感に浸れるヤツだな!

 思いのほか早くこの時が来てしまったか……。


 そんな今から訪れようとしてる現実にウハウハしながら紙に目を通す。


「どれどれ………」


 女神の便利な力でショウコさんから出てきた紙には日本語で文字が書かれており、全く不便なく読むことが出来る。


 ──あら、初めまして可愛い坊や♡私の名前はショウコ、よろしくね♡

 長いのは面倒だから簡単にあなたの能力を教えてあげるわね。───


 ん?なんかこんな感じの文、前にも見たような……。


 ──強いか弱いかで言えばあなたはどちらでもないわね。みんなが来訪者って言ってたからどれだけ馬鹿げた能力を持ってるかと思ったけど、別にすごく戦闘に特化した能力値でもないし、かと言って弱すぎる訳でもない。本っ当に中間ね、悪く言えば中途半端。──


 え、何それヤマト思ってたのと違う。


 ──でもガッカリしないで、あなたには女神様から二つの加護がさずけられてるわ。一つ目は微笑みの女神の加護で二つ目は早足の加護。どちらも素晴らしい加護よ。それと──


 おお、最初の加護は気に食わんが二つあるのはいいんじゃないか?


 ──それと、あなたに授けられた特別な力。これは部類で言うと魔法であなたにしか使うことの出来ない固有魔法よ……その名は吃逆の呪い。使い方は………あら、あなたのポケットに入ってるわね。それじゃあ私から言えることは以上よ。良い冒険者ライフをね、頑張って可愛い坊や♡──


「………」


 紙に書かれた内容を全て読み終わり周りに静寂が訪れる。


 いや、俺TUEEEEな内容は?

 てか能力値って数字とかじゃなくて言葉で説明されるのね。それにしても内容が曖昧と言うかあやふやと言うか微妙すぎるだろ。他の人もこんな感じなのか?


 ライセルさん達の方を見て様子を伺うが、彼らはただ苦笑いしながらこちらを見つめ返すのみ。


 周りの冒険者ギャラリーは、


「なんだ平均値かよ」


「来訪者でも平凡っているんだな」


「加護二つ持ちは珍しいがそれだけだし……」


「固有魔法も訳わかんない名前だしハズレだな」


 と各々落胆の声を漏らしながら解散していく。


 は?だから俺TUEEEEは?


「ま、まあ伸び代があるってことだし、あまり落ち込むことじゃないよ!」


 ライセルさんは俺の肩を叩いてそう励ましてくれる。


「そ、そうですよ! あんな普通……いえ! 素敵なショウコさんの解析文章なんて久しぶりに聞きました!」


「う、うむ、男は最初から最強ではつまらん!」


「……どんまい」


 他の三人にもそんな励ましの言葉を頂く。


「………」


 予想外の展開に言葉が出ない。


 なんでここに来てお約束じゃないんだよ。



 どうやら俺の強さはこの世界では普通らしい。


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