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四話 どうやらそんなに珍しいものでもないらしい

「いやあ助けてもらった上に、こんなにご馳走になってすみませんね〜」


「ハハッ。気にしなくていいよ、困った時はお互い様ってやつさ」


 人間、不思議というか図太いというか、先程まで死ぬ一歩手前だったのに、一度その危険が去れば腹も減るもんだ。


 石造りの大きな建物の中に、沢山の人が瞬く間にどんどんと出入りする。その建物の中にある活気に満ちた酒場。


 まだ太陽はサンサンと空を照らしているのに、どうしてかこの酒場にいるヤクザ顔負けの極悪ヅラをした人々はテーブルの上に沢山の酒や肉を乗せてどんちゃん騒ぎをしている。


 昼間っから酒ひっかけるとかガラが悪すぎるだろ、悪いのは顔だけじゃなくて性根もか、ダラしない大人どもめ。


「ああ? 何見てんだゴラァ!?」


 おっと他の席を覗き見るなんてマナー違反だったな。

 大和いっけなーい!反省反省!!


「ん? どうしたんだいきなり体を震わせて、寒いのか? ………ああアイツらか、怖がる必要ないよ見た目はアレだが話せばいい奴らだ」


 嫌だなー俺があんなチンピラ共に怖がるわけないじゃないですかヤダー。これは武者震いってヤツですよ。舐めないでもらいたいですね。

 ………ゼンゼンコワクナイヨ。ホントダヨ。


 そんな日本のどこにでもある居酒屋とは少し……いやかなり訳の違う酒場──正確にいうとローゼン王国の王都にある冒険者ギルドに、俺は目の前に座っている男女四人の冒険者パーティーに連れてこられていた。


 何を隠そう目の前にいるこの人達は俺の命の恩人その御本人達でして、草原で魔物に殺されそうな所を助けて貰ったわけで、それだけでは飽き足らず、ただ今俺はこの人達の汗水垂らして稼いだ金で飯を貪っていた。


 ……うん、俺ゴミすぎる。


「大丈夫か? まだ具合が良くないならあまり無理しない方がいいぞ?」


 先程まで食事にガッツいていた俺の手が止まったことを体調不良と受け取ったのか、テーブルを挟んで正面に座る男は心配そうに聞いてくる。


「ああいや、大丈夫……です」


 急いでチンピラどもに睨まれて怖気付いていたメンタルを叩き直す。


 俺の正面に座った銀色の剣に、銀色の鎧を身に纏ったTHE戦士な見た目の優男は、俺を助けてくれたパーティーのリーダーで戦士のライセルさん。金髪に青眼、海外の有名俳優バリの顔面偏差値を持ちで、誰がどう見てもイケメンと答える容姿だ。男の俺が思わず『惚れてまうやろ〜』と心の中で叫び出すぐらいにはイケメンだ。


「そうです。あまり無理はよくありません。食べ終わったらもう一度体の様子を見ますね」


 ライセルさんの右隣に座っている少女は、彼の言葉に頷きそう提案してくる。


「いえいえ、本当にもう体の調子は良いんですよ! これもレーンさんの回復魔法のお陰です!!」


 肩をぐるぐると回して元気なことを少女に主張する。


 細かい金の装飾が施された白いローブに身を包んだTHE聖職者な見た目をした可愛らしい少女は、僧侶のレーンさん。金髪に青眼、海外の有名女優バリの顔面偏差値を持ち誰がどう見ても美少女だと答えるだろう。俺が一歩間違えなくても惚れてしまうほどに可愛い。因みにライセルさんの実の妹だ。


「ガハハッ! 若いのだからそう心配せんでも大丈夫だ、なあボウズ!」


 ライセルさんの左隣に座ったガタイのいい男は豪快に笑うと手に持ったビールグラスを勢いよく飲む。


 ライセルさんよりも一回り大きな剣と盾、それに鎧を見に纏ったTHEタンクの男は重戦士のロビンさん。焦げ茶の短い髪に青眼、ライセルさんと比べると申し訳ないが普通の容姿をしており、無骨な漢って感じだ。その無口そうな見た目とは逆にお喋り好きでよく笑う人だ。


「………」


 最後に今のところ一言も言葉を発さず、無言でこちらをガン見してくるロビンさんの隣に座った女性は魔法使いのサリーさん。黒いローブに見に纏い、武器は木の杖。長い黒髪に黒目、可愛らしさと言うよりは美人と言う言葉が似合う女性だ。無言でいつも不機嫌そうに見えるがライセルさん曰く、極度の人見知りでただ緊張してるだけらしい。彼女が何も喋らないのもそれが理由だとか。


 以上、男女2:2とバランスの取れたこのパーティーが平原で俺を助けてくれた人たちだ。


「まあ大丈夫ならそれでいいけど……それでヤマトはあんな所で武器や防具も身につけずに何をしていたんだ?」


 空腹を訴えていた腹も満たされ、食事に一息つけたところでライセルさんが問うてくる。


「えーと──」


 死んでこの異世界に飛ばされてクソ女神に怒りをぶつけていたら魔物に襲われた。と言ったところで信じて貰えないだろうし、どう誤魔化したものか。


 ………いや、果たして本当にそうか?

 あの女神の口ぶりからしてかなりとまでは言わないが、そこそこの数の死んだ人間をこの世界に転生させてるっぽいし意外と転生者は珍しくないのでは?

 逆に変に嘘をつかず素直に聞いた方がいいのでは?

 いやしかし、この世界での転生者の扱いってのがまだしっかりと分かっていないのに自分が転生者だと口走るのは早計ではないか?

 もしこの世界での転生者の立場、扱いが酷かったら嫌だし────。


「ヤマト?」


 ああほら!俺が答えをクズってるからライセルさんも不思議に思ってる。

 ……ええいままよ!こういう時に限っていい感じの言い訳も思いつかないしここは一か八かで正直に話すしか────。


「──えっと、そのぉ〜、ぼくぅ〜、実わぁ〜ここじゃない別の世界で死んで転生してきたって言ったら信じますぅ?」


 モジモジと手遊びをして相手の様子を伺いながら慎重に慎重を重ねて聞いてみる。

 ……いや、ただのクソキモイ陰キャだわ。


「───」


 ライセルさん達は少し目を見開いてパーティー間で顔を見合せ何か納得したように頷く。


 緊張のせいか、彼らのその仕草が落ち着かず、数秒と経っていないのに長時間返答を待っているような錯覚に陥り、嫌な汗が止まらない。


「な──」


 そうして開かれた口と同時に俺の緊張が限界値を超えて、


「──なんだヤマトは来訪者だったのか! それなら早く言ってくれればよかったのに!」


「ごめんなさい、ごめんなさい! 何でもするんで俺の体を解剖するのは止め………へ?」


 ライセルさんの言葉にそんな情けない言葉を被せてしまう。


「ん? 何を勘違いしているか分からないけどヤマトは来訪者なんだよな?」


 俺の言葉に首をかしげながらライセルさんは確認してくる。


「来訪者ってのが転生者を指す言葉なんですよね? だとしたらそうですけど、信じるんですか?」


 自分の説明が通じたことに未だ確証を得れず質問を質問で返す。


「今の説明だけじゃちょっと難しいけど、あの状況とここまで連れてくる時のヤマトの物珍しそうな様子とかを見たら不思議と納得できちゃうかなあ」


「その来訪者ってのは珍しいものなんでしょうか?」


「いや、そんなことは無いよ。ここら辺だったら年に何人かはヤマトみたいな人は現れるね。でも今月は多い方だよ、ヤマトは三人目だ」


「マジすか……」


 ライセルさんの言葉に一気に先程までの張り詰めていた緊張が緩まる。


「アハハ、さっきも言ったけど来訪者──君たちの言葉で転生者っていうのはそんなに珍しいものじゃないし、ヤマトが何を緊張してたのかは分からないけど安心していいと思うよ?」


「ありがとうございます……」


 俺の大袈裟すぎる安堵にライセルさんは笑いながら水の入ったコップを勧めてくる。


 それを有難く貰うと勢いよくコップの水を飲み干す。


「……ぷはぁ」


「落ち着いた?」


「あ、はい、ありがとうございます」


「それは良かった。それでヤマトはどこまでこの世界のことを知ってるの? なにか聞きたいこととかない?……って別に僕達に聞かなくてもわかるか」


「え、なんで?」


 質問する気満々だった俺はライセルさんに聞き返す。


「聞くところによると来訪者達はこの世界に来る前に神様や女神様にある程度この世界のことについて書かれた書物を渡されてからこっちの世界に来ると聞いたよ。実際に君たち来訪者は僕たちには読めない言葉で書かれた書物を持っていたし、ある程度この世界の知識を持っていた。ヤマトも渡されたんじゃないかい?」


 んー?おかしいぞぉー?書物?なんのことかなぁ?俺が渡されたのはただのルーズリーフ一枚ぽっちだし書物なんてごたいそうな物貰った覚えはないなぁ。


 まさかあの女神、適当な仕事しやがったな?

 あのふざけた文書もそういう事か?

 あのルーズリーフを破り捨てて死にかけたのは俺の自業自得だが、そもそも仕事が適当だったら元も子もないと思うんだですけど……あ、なんか腹たってきた。


「や、ヤマト? どうしたんだ?」


「ん? いやなんでないですよ?」


 おかしいなあ、どうしてさっきまで持っていたコップがなくなって手が血だらけでになってガラスまで刺さってるんだろぉ?


「血が……! す、すぐに回復を!!」


 レーンさんが俺の血だらけになった手を見兼ねて急いで回復魔法らしきものをかけてくれる。

 あの女神まじ許すまじ。


 どうやら転生者はそんなに珍しいものでもないらしい。


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