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二話 どうやら俺は飛ばされるらしい

「おほん。さてやっとのこと中身の詰まってない脳みそで自分の死を理解出来たところで本題に入れるわね」


 一つ咳払いをして仕切り直すと微笑みの女神エミリーは足を組んでこちらを見てくる。

 ……いきなり口悪くなりすぎでしょ。


「本題?」


 彼女の言葉に若干腹が立ちながら聞き返してみる。


「ええ。貴方みたいな馬鹿でも分かるように、とーってもわかりやすく言うわね。アレよアレ、最近よくある若くして死んだんだから異世界に転生してその人生をやり直しませんか的なヤツよ」


 すっかりとやる気をなくした女神は適当に言う。


「………」


 女神の適当な説明に文句の一つでも言ってやろうと思っていたのだが、悔しいことに彼女の説明はイマドキのオタク気質な男子高校生にはとても端的でわかりやすい説明で、例に漏れずそのオタクに含まれる俺はそんな雑な説明で理解出来てしまった。


 てか、本当にこういうのあるんだな。

 ラノベとかでよく慣れ親しんだ展開ではあるのだが、いざ自分自身がその当事者になってみると不思議な感覚でしかない。


「なに? 今のでもわからなかったの?」


 口を開かない俺の様子を女神は自分の話を理解できなかったと受け取ったのか、半笑いで嫌味ったらしく聞いてくる。


「ああいや、本当にあるんだなと思って……」


 女神の言動にかなり俺の怒りの沸点が爆発しそうなのだが、今はグッと堪えて適当に答える。


「ああそう。それでもちろん転生するわよね?」


「えーと……こういうパターンのお決まりだと何か目的があって異世界に飛ばされるもんですけど何かあるんでしょうかね?」


 女神の言葉にすぐにYESとは答えを出さず質問をする。


 俺も男子ならば誰もが通るであろう厨二病を経験してきた男子高校生だ。現在進行形でこういった厨二チックな話は大好きだし、別に二つ返事で『はい、いいですよ』と言ってもいいのだが現実的に考えてまずは色々と確認が必要だろう。すぐにでも異世界行きたいけども。


「別にないわよ」


「え? ないんすか?」


「ええ、ないわね」


 そう身構えてした質問なのだが帰ってきた答えはとても簡単なものだった。


「ええっと……剣や魔法の世界で世界を滅ぼそうとする魔王を倒せ!とかそういうのは……」


「ああ。そういうアンタらみたいな厨二病が好きそうなのはいるし、別に倒して世界救ってもいいけど強制ではないわね」


「はあ……」


 お約束のパターンだと『世界を救ってくれ!』みたいなノリで異世界に転生させるはずなんだけど適当だなこの異世界転生。


「あ! わかった! アンタもしかしてアレね? そういう魔王とか倒してやるから俺TUEEEEなチート能力とか武器が欲しいって言うんでしょ?」


 煮え切らない返事をしているとその様子をどう受けったのか女神はバカにしたように半笑いで言ってくる。


「いやー最近の中高生ってみんなこんな感じなの? すぐになんか強い武器よこせだのチート能力よこせだのあーだこーだ言ってすぐ他人の力に頼ろうとするのよねー」


「………」


 あーやだやだ!とわざとらしく両手を上げて戯ける女神に今日一で腹が立ちながらも何も言い返せない自分が悔しい。


 なぜ何もいいえ返せないかと言うともちろんチート能力や強い武器が欲しいわけで、全部女神の言ってることは正しく、何も言い返せないのだ。


「まーったく甘やかしすぎっていうかゆとりっていうか、あなた達人間が書いたこういう物語の神も女神もみんな優しすぎるのよね〜。都合よすぎって言うか〜、異世界転生舐めすぎって言うか〜───」


「えっとそれじゃあ俺はこの身一つでまた一から異世界で生きればいいんですか?」


 終わる気配のないネチネチとした女神の言葉に我慢ができず、額に青筋を浮かべながら質問をする。


「いえ、そんなことして飛ばした異世界で直ぐに死なれても困るから肉体と記憶はそのままになんならチート能力も上げて送り出すわよ」


「あれだけ言っといてチート能力くれるのかよ……」


 いや、貰えるんなら貰っとくけどさ。一々この女神腹立つ言い方するな。

 こんなのが本当に女神でいいのか?


「それで転生するのしないの? 一応言っとくけど断る場合はまた一から肉体も記憶もやり直しで同じ世界に産まれてもらうから。天国なんてもん存在しないからね」


 心の中で思ったことはギリギリのところで言葉には出さず話を聞いていると再び女神が問うてくる。


「え、天国ってないんすか?」


「ないわよ。毎日忙しいのに天国なんか作って死んだ魂の管理する仕事も増えるとか面倒すぎるわよ。今のこの確認作業だって面倒で、アンタの後も死んだ魂がまだゴロゴロといるんだから早く終わらせたいの分かる? ここはもう一度同じ世界でリセットしてやり直すか、別の世界で自由に生きるか決める場所、ただそれだけよ。それでどおすんの?」


 聞いたこちらが悪いのだが聞きたくもない愚痴をさらに聞き、決断を迫られる。


 死に方はアレだがこの際死んでしまったのは仕方がない。両親には申し訳ないが、謝ってもその言葉は届かない。もう一度リセットして同じ世界をやり直すのは今の自我がある状況では地獄の選択でしかないし、異世界に行く一択だ。まあ最初から行く気満々だったけども。


「異世界の方でお願いします」


 自分の中で結論を出すと女神にはっきりとそう言う。


「あ、そ。じゃあ強力な武器とチート能力ならどっちがいい?」


 なんとも素っ気ない返事をして女神は流れ作業のように聞いてくる。


 ふむ、武器か能力か。どちらも捨てがたいが、どちらかと言えば能力の方が無限の可能性を感じられて、お得感があるから能力だな。


「えと、能力で」


「そ。それじゃあ能力の決め方だけどアンタが選べる訳じゃなくて、アンタの今までの人生で起きた出来事とかやり遂げたこととかを見てアンタにあったオリジナルの特殊な能力を授けるわ。それと可哀想な死に方をしたアンタにしょうがないから加護もあげる」


 短く答えると女神はまたも素っ気なく頷き、スラスラと業務的に話を続ける。


 一々癪に障る言い方だがまあオマケが貰えるっぽいので我慢しよう。


「あの質問いいすか?」


 どこからともなく机とペン、A4のルーズリーフを出し何かを書き出している女神に確認を取る。


「なに?」


「その……異世界ってステータス画面って言うかそういうゲーム的で数値的なわかりやすいものってあるんですかね? もしあるんだったら今見ていたいな〜って──」


 こちらに一切見向きもせずOKと言うように答えた女神に遠慮なく質問をする。


「…………」


 しかし女神は軽快にスラスラと走らせていたペンを止めると、こちらをどうしようもないゴミを見るような目で見てくる。


「な、なんすか?」


 流石にどうしてそんな反応をされるのか分からず無言の女神に聞くしかない。


「はあ……そんなのあるわけないでしょ、アニメとか小説の読みすぎ、ゲーム脳、厨二病、クソキモオタク乙」


 クソ。なんでちょっと気になったこと聞いただけなのにこんなに言われなければいかんのだ。

 そもそも今この状況がアニメとか小説の展開みたいな話なのだからそう思っても仕方ないだろうが、そろそろその綺麗な顔面に一発拳をキメてもいいような気がしてきた。


「アンタは剣や魔法の世界って聞いてゲームみたいに感じるかも知んないけど、現実は現実。もうちょっと無い頭使って考えましょうね?」


 ……本当にどうにかしてこのクソ女神を懲らしめることは出来ないだろうか?


「……………よし出来た。これがアンタのチート能力よ」


 本気で女神を屠る方法を考えていると、文字の書かれたルーズリーフを器用にこちらに投げて渡してくる。


「ふむ……」


 ルーズリーフには結構な分量の文字が書かれており、パッと見で何が書いてあるか全てを読み取ることは出来ない。なのでしっかりと一行目から目を走らせる。


「はいそれじゃあ渡す物も渡したしこれでチュートリアル的なのは終わり。あとは適当に異世界を楽しむといいわ」


 大きく伸びをすると女神は俺の頭上に青白い穴を開ける。


「え、ちょ、まだ読んでる……」


 その穴はこちらを吸い込もうと風を巻き上げ、段々と強さをまして行く。


「あっちに言った後のこともその紙に軽く書いてあるから失くすんじゃないわよ〜」


「いや、雑すぎるだろ!?」


 フワッと体が浮かぶ落ち着かない浮遊感が訪れ、頭から青白い穴に突っ込んでいく。


「それでは、斎藤大和さん。貴方に神々の加護があらんことを」


 最後に思い出したかのように自称微笑みの女神は丁寧な言葉遣いで別れの挨拶をし手を振る。


「おい、ふざけんな! この駄女が────」


 全部言い終わる前に青白い穴は俺を飲み込みどこかへ誘う。



 そして何も無い真っ暗な場所には女神がポツンと一人残った。


「せいぜい楽しませてくださいね、斎藤大和さん」


 穴のあった虚空を見つめ最後に女神はその名の通り微笑みながら少年を見送った。


 どうやら少年は雑に異世界に飛ばされるらしい。


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