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一話 どうやら俺は死んだらしい

「突然ですが貴方は死にました」


 なんとも聞き惚れてしまう綺麗な声で目の前のおねーさんはそう言った。


「…………はあ」


 恐らく、いや、確実にこちらに向けられて放たれたその言葉にいまいちピンっとこず、曖昧な返事しかできない。


 見渡す限り真っ暗な場所。

 目の前には金髪藍眼、きわどい純白な絹の服に身を包んだキレイなおねーさんが勉強机やコンピュータ室に必ずあるクルクルと回転する椅子に腰をかけている。


 俺はと言うと状況の理解が全く出来ず、ボケらっと黒い地面に正座で座り込んで、目の前のおねーさんをガン見している。


 そして上からはなんだかよく分からないキラキラとした光が俺とおねーさんを照らしていていた。


「………は?」


 現在状況を頭の中で並べ、少し考えてみても訳が分からず再び疑問の声を漏らす。


「ですから斎藤大和さん、貴方は死にました」


 こちらの二度の疑問の声に目の前のおねーさんは先程と同じことを言う。


「死んだ?」


「はい」


 おねーさんの言葉の一部を復唱し聞く。


 おねーさんは一瞬『しつけーよ』と言いたそうな顔をして頷く。


「いやいやいやいやいやいやいやいや」


 やはり訳が分からず半笑いで首と手を横に振って俺はおねーさんの言葉を否定する。


 というかいきなり『あなたは死にました』と言われて何の疑問もなく『はいそうですか』と納得できるのは、異世界転生モノの主人公くらいなもので、実際問題いきなりこんなことを言われれば納得できるわけがない。


 というかおねーさんの説明不足がすぎる。


「はあー、飲み込みが悪いわね」


 先程の凛とした態度はどこへやら。

 おねーさんはとてつもなくダルそうに椅子の背もたれに体重を預け椅子でクルっと一回転してからそう愚痴る。


 確実に説明不足のおねーさんに問題があるはずなのにどうして俺は要領が悪いみたいに言われなければいけないのだろうか?


「いやですね、いきなり死んだと言われてもそりゃ困惑しますよ。こちとらさっきまで何の問題もなく生きてた訳ですし……せめてどうして、何で死んだのかくらい教えてくだい」


 少し癪に思いながらも目の前のおねーさんにどうして自分が死んだのか理由を聞いてみる。


 別にこちらはいつものように友達と学校に行って、いつものようにほどほどに勉学に励み、それはそれは普通の高校生活を送っていただけである。

 いきなりトラックが目の前に突っ込んできたり、通り魔に刺されたり、足元に魔法陣が現れたわけではない。……最後のは死んでないな。


「なんの問題もなく……ねぇ? まあいいわ。覚えてないなら教えてあげる──」


 ジト目でこちらを見ながらおねーさんは言葉を続ける。


「──貴方はしゃっくりを100回したことによって死にました」


「………は?」


 これから長く壮大な理由が語られるかと思われたおねーさんの言葉は短くそう言いきられた。


「しゃくり?」


「そうしゃっくり。貴方、今日の朝からしてたわよね?」


 自分の聞き間違いかと思いおねーさんに確認をするが間違いでもなんでもなければ、ちゃんとした事実らしい。


「いやいやいや、たかがしゃっくりで人が死ぬなんて聞いた事ないですよ! 何かの冗談ですよね!?」


 事実の確認をとってもどうしても信じたくなく立ち上がりもう一度聞く。


「くどいわね、本当ったら本当よ。それにね、貴方は『たかがしゃっくり』って言ったけれどしゃっくりだってれっきとした病気なのよ?」


「しゃっくりの概要なんていいんですよ! 一体どうやったら100回しゃっくりをして死ぬんですか!?『しゃっくりを100回したら死ぬ』なんて迷信でしょ!?」


 依然として気だるそうにこちらの質問に答えたおねーさんに確実に怒りを覚えて半狂乱で問う。


「私もそう思ってたわよ……けど実際に起こったんだからしょうがないじゃない。詳しく説明するとかなり長くなるから省いて説明するけど、しゃっくりっていうのはお腹の中の「横隔膜」っていう臓器が突如けいれんを起こして、喉が閉じて空気が入らなくなって、口から「ヒック」とか「ぎっ」っていう「変な声」が出る症状のことなのね? 横隔膜って言うのは呼吸をするためにとても大事な臓器で貴方は他の人より強すぎるしゃっくりで横隔膜に負担をかけすぎて仕舞いにはその横隔膜を破裂させて、その破裂した勢いと呼吸困難で死んだのよ」


 どこから出したのかおねーさんはペットボトルに入った紅茶を飲んで適当に答える。


「は………」


 まだ適当ではあるが大分マシな説明を聞いて呆然としてしまう。というかするしかない。


 他の人よりもしゃっくりが強いとかどうかは知らないが確かに今日は朝からしゃっくりをしていたし、学校でもずっと鳴りっぱなしだった。


 だがしかし、まさか本当にしゃっくりなんかで死んでしまったのか?


「何の偶然か、ちょうど100回目のしゃっくりで死ぬなんて残念な人ね。くくくっ……」


 無様すぎる死に方に膝から崩れ落ちて悲しみに沈んでいるとおねーさんが笑いながら煽ってくる。


 …………。

 てかいまさらだけどこのおねーさん誰だよ?

 いきなり死んだとか言い出すし、態度悪いし、人の死に様嘲笑うし、悪魔かなにかか?


「そーいえば自己紹介がまだだったわね。私はこの天界に住まう女神が一人、微笑みの女神エミリーです」


「嘲笑うの間違いでは?」


「あぁ??」


 こちらの思考を読んだのか目の前のおねーさんは自分のことを女神と名乗りそう自己紹介する。

 ……いや、女神がそんなドスの効いた声出すなよ。


 どうやら俺はしゃっくりを100回して死んだらしい。

 

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