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十六話 どうやら俺は見つけたらしい

「なんか、気難しそうな人だったわね?」


「……あれは違うだろ……」


 とてつもなく普通の老人に店を追い出されてから俺たちは今度こそホイホイ亭へと帰ってきた。


「ねえヤマト?」


「あそこは普通にそれっぽい見た目の人が出てくるもんでしょうが……」


 宿の下の酒場は冒険から帰ってきた冒険者達で今日も賑わっており、ほぼ席は満席だ。


「ねえてばっ」


「なんだよあのヨボヨボの普通なちゃんじいは……何かの間違いだろ?」


 いつものカウンター席に陣取ると、直ぐにこちらに気づいて出迎えてくれたバラルさんにおまかせで料理を注文して、静かに料理が来るのを待っている。


「ヤマトってば!!」


「うお!? なんだいユエルさんや?」


 いきなり耳元に響く大きな声で俺は体をビクリと驚かせる。


「なんだい?じゃないわよ。気難しそうな人だったわねって聞いてるじゃない!」


「え、ああうん、そうだねえ」


 何やら彼女はご機嫌が斜めのようで不満げに頬を膨らませている。

 あれ、俺なんかしたかなあ?


「まったくもう……それで? またあのお店行くの?」


 ユエルは呆れた様子でため息をひとつつくと、水の入ったコップを口につける。


「ん? そうだなあ、ちゃんと店の中も見れなかったし、掘り出し物もあるかもしれないから明日朝一で行ってみてもいいか?」


 店主は普通だったがしっかりと武器を物色したわけではないし、とりあえずもう一回行ってみたい。


「別にいいけど、私はあそこで武器を買わない方がいいと思うわ」


「どうしてだ?」


 別にあの店で武器を買うと決めたわけではないが、あまり乗り気ではない彼女の言葉が気になり聞き返す。


「ぱっとしか店内を見てないけど、随分長い間掃除がされてないみたいだし、二年近くこの街にいる私があんな所に武具屋があるなんて初めて知ったわ──」


「それはただ単にユエルの探索不足じゃないのか?」


「そんなはずないわ! パーティーを追い出されてからは暇すぎて隅から隅までこの街を探索したもの! ここら辺に関しては私の知らないことなんてないわよ!!」


「あ、そうですか」


 妙に説得力のあるその言葉に俺はなんだか心がいたたまれない気分になる。


「楽しそうに何の話をしてるんだい?」


 やんややんやと話していると、注文をした料理を持ってきたバラルさんが声をかけてくる。


 今日のおまかせ料理は魚と野菜の酒蒸し焼きで付け合せのパンと一緒にテーブルに置いてくれる。


「ありがとうございます」


「待ってました!」


 バラルさんにお礼を言ってナイフとフォークを持って料理をつつく。


 綺麗な白身を食べやすいサイズに取って口に含む。


「ん!うまい」


「やっぱりここの料理は絶品よね!」


 瞬間、塩と野菜の旨味が染み込んだ白身のホロホロとした食感が口の中に広がり、頬が緩む。


 味、食感としては真鱈に近いような淡白な味わいだが、しつこくない程度に脂も乗っていてすごく味わい深い魚だ。


「それは良かった。それで『武具屋がどうこう』とか言ってたけど何の話なんだい?」


 俺たちの反応を見て嬉しそに笑うとバラルさんは俺たちの会話を聞いてたようで再び尋ねてくる。


 もしかしたらバラルさんならあの武具屋の事を知ってるかもしれない。


「えっとですね──」


 そう思い一旦食事の手を止めて俺は簡単にさっきの武具屋での事を説明した。


「大通りを少しすぎた裏路地にある名前のない武具屋……」


「はい、バラルさん知らないですか?」


 俺が説明した場所を脳内映像で再生しているのかバラルさんは目を瞑って考え込む。


 これで長年この商店街で宿屋を営んでいるバラルさんも知らないとなると、二年近く住んでいるユエルがあの武具屋を知らなくても不思議ではないし、逆にあの武具屋に対して謎が深まっていく。


「……ああ! ゼペット爺さんの武具屋だね!」


 少ししてバラルさんは手を叩くと謎が解けたように答える。


「知ってるんですか?」


「ああ、知ってるよ。あの眼鏡をかけた目つきの悪い爺さんだろ? ……そうかい、まだ元気に店を開いていたんだね」


 バラルさんは懐かしそうにそう答える。


「どんな人なんですか? 今日その武具屋に行ってみたんですけどそのゼペットって人、機嫌が悪かったみたいですぐにお店を追い出されたんですよ」


「あはは! 相変わらずだねあの人も──」


 バラルさんは俺の困った様子を見て可笑しそうに笑うと言葉を続ける。


「──ゼペット・オルフェルグ、今年で確か80歳になるこのローゼンに古くからいる鍛冶師だよ。武器に魔法を付与させる付与魔法(エンチャント)が得意な鍛冶師で、あの人の作る魔剣は世界中の冒険者が喉から手が出るほど欲しがる一振だとか。いつしか金床の魔術師って呼ばれるぐらい世界的にも結構有名な人だったんだよ──」


「なん……だと……」


 あんな普通の見た目しといてめちゃくちゃすごい人なのあのおじいちゃん?

 ……てか、魔剣だと!?

 めちゃくちゃファンタジーぢゃん!!


 バラルさんの説明で俺のテンションが一気にぶち上がる。


 今の説明の中には厨二病が興奮する単語が盛りだくさんだった。まあ仕方ないね。


「──でも、アンタらも見たからわかると思うけど、あの偏屈な性格と30年前に腕の怪我でめっきりと武器を作るのをやめてしまって、もうずっとあの人の姿を見ていなかったんだよ。でもそうかい……変わらず元気そうなんだね」


「ははは……」


 見た目の予想と反し、あの老人がかなり凄い御仁という事実が明らかになり気の抜けた声が出る。


 うん……やっぱり人を見た目で判断するのはいけないね!


「凄いね、あのゼペット爺さんのわかりにくい場所にある武具屋を見つけるなんて! 今ローゼンにいる冒険者があのお店を知ってるのなんて殆ど居ないよ」


「ど、どうも」


 バラルさんの言葉に嬉しくなり思わず照れてしまう。


「昔のローゼンの冒険者は、あの人の武器を使っていない冒険者がいなかったほど有名で良い武器を作る人だったんだよ。今はどうか分からないけど、またあのお爺さんの店に行くんならよろしく言っといておくれ」


「色々と教えてくれてありがとうございます。わかりました、伝えときます」


 バラルさんは話終わると奥の厨房へと振り返り仕事へ戻る。


 完全に俺の予想して凄腕鍛冶師という異世界転生系お約束のパターンが期待できる展開になってきて、再びあの店に興味が湧いてきた。


 見た目はお約束ではなかったが、この際それは目を瞑ろう。

 魔剣とかめちゃくちゃwktkな案件なんだが!?

 上手く行けば俺もあの爺さんに魔剣を作ってもら得るかもしれない。


「だってよ。どうやらあの爺さんすごい人らしいぞ?」


 淡い希望を抱きながらあまり乗り気ではなかったツインテ少女の方を見て見ると、


「ふえっ!? なにが!!?」


 隣のツインテは料理に夢中でバラルさんの話をまともに聞いていなかったらしい。


「はあ……」


 なんとも色気のない奴だ。


「なに? 何のため息なのそれは?」


「いやなんでもない……とりあえず明日は朝一でまたあの武具屋に行く。いいな?」


 隣のツインテに呆れながら明日の予定を確定させる。


「はーい」


 彼女の適当な返事を聞いて俺は少し冷めてしまった料理に再び口をつける。


 ……うん、冷めてもうまい。



 どうやら俺は凄い爺さんを見つけたらしい。


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