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十四話 どうやら俺は組むらしい

「……話があるんだけど……」


 しばらくの沈黙が続いて隣に座る少女は静かに口を開いた。


「なんだよ?」


 畏まった態度の彼女に違和感を覚えながら言葉を待つ。


 酒場にいるのは俺と隣の少女のみ。


 店主たちは腹を空かせて帰ってくる冒険者達に備えて裏の調理場で夜の仕込みをしている。

 少し耳をすませばお互いの息遣いなど容易く聞き取れてしまうほどその場は静寂に包まれていた。


「───」


 どこか落ち着かない様子で少女はぎこちなく深呼吸を2、3回繰り返したところで、


「──これまでのことをどうか許して欲しいの……本当にごめんなさい」


 やっと次の言葉を放つ。


「は……ん!?」


 予想だにしない彼女の発言に思わずそんな間抜けな声が出てしまう。


 おかしい、会ってから今日まで罵倒、我儘の言葉は彼女の口から散々聞いてきたがお礼なんてまだ一度も言われた覚えがない。

 あれ?聞き間違いかなあ?


「す、すまん、よく聞こえなかったんだが、なんと仰ったんで?」


 もしかしたら俺の彼女に対するストレスが耳に幻聴を引き起こした可能性も無きにしも非ずなので聞き直す。


 これで幻聴だった場合、次の彼女の言葉は罵倒。絶対にそう。そうとしか有り得ない。ヤマトシッテルヨ。


「……そうよね、一度言葉にしたぐらいじゃ信じられないわよね……私は貴方に謝罪とお礼を言いたいの。本当に今までごめんなさい」


 彼女は自嘲的に言うと汐らしく微笑み深く頭を下げる。


「ふぁっ!?」


 聞き間違いでもなければストレスによる幻聴でない、ツインテことユエルから放たれた言葉は紛れもなく謝罪の言葉であった。


 ウッソだろおい!?

 今まで何度コイツの危機的状況を助けても「ありがとう」の一言は愚か、さも助けてきて当たり前みたいな顔してたやつが俺にごめんなさいだとぉ!?

 どういうことだ!?

 一体これから何が起きるっていうんだ!?

 世界滅亡か!!!?


「………」


 あまりの衝撃に俺の脳内はパニック状態。どんどん思考がおかしな方向に飛んでいき収拾がつかなくなっていく。


「や、ヤマト……?」


 頭を下げてもう一度謝罪をしたのにいつまでたってもレスポンスが帰ってこないことにツインテは困惑しゆっくりと顔を上げる。


 どういうことだってばよ!?

 どういうことだってばよ!?

 どういうことだってばよ!?

 あ、てかコイツ、いつの間にか普通に俺のこと名前で呼んでるな……。


「名前……」


 依然としてパニック状態の脳内は半分以上バグり、話の流れなど関係なく今はどうでもいい名前を指摘する。


「え、あ……ごめんなさい。いきなり名前呼び捨ては馴れ馴れしくしすぎたよね……えと、サイトウさんでいいかしら?」


 いきなり呼び方を指摘されたツインテは申し訳なさそうに謝ってしょんぼりと俯いてしまう。


「……は?」


 え、いや、は?何この可愛い生き物?


 今までのツンケンした態度はどこへやら、とても謙虚でお淑やか、どっかのいいとこのお嬢さんと言われても不思議ではないくらいの別人だよこれは。


 今までしっかりと名前なんて呼ばれたこと無かったのに、何かフラグや大事なイベントを踏んで親密度的なものを深めるとふとしたタイミングで美少女に名前を呼び捨てで呼ばれてドキッとしゃう。そんなベタベタにベターな展開を嫌いな男子なんていないだろうがよお!!?


 彼女の反応に俺の脳内はパニックを通り越してもうお祭り騒ぎ。


 自分がもう何を思っていて考えているのかなんて分からないし、どうでも良くなってきた。

 だがしかし、


「いや、そんなかしこまらず呼び捨てで構いませんよ、気安く山ちゃんと読んでくれたまへ」


 俺の反応に呼び方を変えた彼女に何も問題ないことを伝える、まとも……ではなく、しょうもない思考は生きていた。


「わ、わかったわ……でもヤマちゃんはあれだからヤマトのままで……」


 ツインテは俺の変なテンションに困惑しながら頷く。


「おう」


 山ちゃんと呼ばれないのは少し残念だが、何とか女子の名前呼びを死守したところで俺は満足して頷く。


「えっと、それでその話の続きなんだけど……」


 俺がホクホクと満足顔で澄ましているとツインテは気まづそうに俺の顔を伺う。


「ん? 話?」


 あれ、俺なんか話してたっけ?


「……その私の謝罪………」


 さっきまで何を話していたかも思い出せず、首を傾げていると控えめな少女の声がする。


「あ…………」


 その言葉で今まで自分が何故ここで話をしていたのか思い出す。


 同時にどんどんと頭の中が冷静になっていき、自分の暴走ぶりに恥ずかしくなる。


「ごめん、少し取り乱した。ツインテの謝罪だったよな、そうだよな、まさかお前からそんな言葉が出てくるとは思わず頭が混乱してしまった」


 真っ赤になっているであろう顔を片手で覆い隠し、天を仰ぎ言い訳する。


「あはは、そうよね。いきなりこんなこと言われても今更って感じだし困っちゃうよね……」


 俺の言葉にツインテはから笑いをすると再び顔を俯かせてしまう。


「あーいや違う。そういう意味じゃなくてだな──」


 彼女の反応を見てすぐに訂正をする。


 この世界に来てまだそんなに経っていないが、こいつにはかなり頭を悩ませられた。出会って間もないと言うのに面倒も沢山かけられた。ムカつくし、腹は立つし、我儘だし、攻撃力は皆無だし、回復だってしようとしない、正直ウザったくてしょうがなかった。


 しかし、


「──今までの行動、言動があるにしろ、自分の過ちを認め、しっかりと面と向かって謝るってのはそう簡単にできることじゃないし、すごいと思う。

 ツインテにどんな過去があってどんな心境の変化があったのかは分からないけど、今までがどうであれ結果としてこうして頭を下げて謝ってくれたわけだし俺はしっかりとその謝罪を受け取るし、許すよ」


 お人好しだろうが、馬鹿だろうが何だっていい、こうして謝られたのなら男として許さないわけがない。


「それに自爆して死にかけの俺を助けてくれたろ? これでお相子だ。あんだけ使うのを面倒臭がってた回復魔法を使ってくれてありがとう、ツインテのおかげで命拾いしたよ」


 俺は言いたいことを言い終わると、深く頭を下げてお礼とする。


「いや! 私なんかに頭を下げないで!? お相子なんてダメ! 私は一回しかヤマトのこと助けてないのに、私はもう何回助けられたか覚えてないぐらい助けて貰ってるんだから! 私の方こそ、ありがとうって言わなきゃダメで──」


 頭を下げられたことにツインテはかなり慌てふためき混乱した様子だ。


「──改めまして、今までの非礼をごめんなさい。そしてこんな我儘で自分勝手、迷惑を沢山かけた私を見捨てず助けてくれて本当にありがとう」


 しかしツインテは再び畏まると深く頭を下げてもう一度頭を下げる。


 互いが互いに頭を下げ合うという謎の構図が数分ほど続いく。


「「ぷっ」」


 どちらが先にそう笑ったのか、いやほぼ同じタイミングで俺たちは吹き出すと、


「「あはははははははは!!」」


 一人も客がいない酒場で笑いあった。


 そうして何が面白いのかしばらく二人で笑い終わると俺は自然と口を開く。


「一つ気になっていたんだが、どうしてツインテは俺にずっと付きまとってたんだ? 別に俺、強いわけじゃないし、結構「どっか行け」とか「離れろ」とか言ってたはずなんだけど……?」


 ずっと気になっていた。

 どうしてこのツインテは出会ってまもない俺なんかに付きまとってたのか。


「えっと……それはね。私ここ一年ぐらいまともに人と会話とかしてなくてずっと独りぼっちだったのね? それでやけくそになって草原でスライムに襲われてた時にヤマトに助けて貰って、何だかんだで構ってくれるヤマトに嬉しくてずっとついて回ってたの」


 俺の質問にツインテは恥ずかしながら答える。


 要は寂しかったから構ってくれる俺に付きまとってたのか。

 ……いや普通にヤバいやつじゃねえか。


「えっとじゃあ俺の遠回しの消えてくれアピールは通じてなかったのか?」


 内心でヒキながら聞いてみる。


「ヤマトが私の事厄介がってたのはずっと分かってたけどあれぐらいじゃあ私は突き放せないわよ、てかあんなので突き放してたつもりなの? 他の冒険者たちからは本当にガン無視とか斬り殺されそうになったこともあるからヤマトのは屁の河童よ、全然気づかなかったし……それに本当に話し相手ができて嬉しすぎて意地でも離れるもんかって思ってた」


 一気に良い意味でいつもの調子に戻ってツインテは楽しそうに話す。


「斬り殺すって、どんだけ嫌われてんだよ……。てかそれも気になってたんだ。何でツインテはそんなにローゼンの冒険者達に嫌われてるのか」


「ああ、それはね───」


 そこから俺たちはお互いのことを話し合った。


 ツインテが冒険者になった理由や、冒険者になってから自分が多くの間違いをしたこと、過去の仲間に謝りたいこと。


 俺もツインテのそんな話を聞いてか自分のことを話した。

 ツインテは俺が来訪者だとは知らなかったようで、その話をした時はすごく驚いていた。


「色々とあったんだなツインテも……」


「ヤマトもね」


 だいぶ話し込んで落ち着いた頃。


「ねえヤマト、最後にいい?」


「なんだ?」


 ツインテは俺の方を向くと真剣な表情で聞いてくる。


「……これだけ迷惑をかけてアレでヤマト的に嫌だってのはわかってるけど……その……私と一緒にパーティーを……私の仲間になってくれませんか?」


 今まで以上に緊張し小さく体を震わせて言う。


「パーティー? いいよ」


「そっ、そうだよね私とパーティーなんて───っていいの!?」


 俺のあっさりとした答えにツインテは勢いよく立ち上がり詰め寄ってくる。


 いや、近い近い。


「なんだよ、聞こえなかったのか? いいって言ったんだよ、お前とパーティー組んでやるよ」


 落ち着けと手で制して距離をとりながら答える。


「でも私、ヤマトにあんなに酷いことしてパーティーを組んでもらう資格なんて……」


 俺の答えがまだ信じられないのかツインテは疑心暗鬼になる。


「確かにお前にはたくさん迷惑をかけられた。正直前までだったらツインテとパーティーを組むなんて有り得ないし御免こうむる──」


「そ、そうよね……」


「──でもそれは過去の話だ。今はこうしてしっかりと反省して心を入れ替えたわけだし、全部チャラだ。今の変わろうとしてるツインテとならパーティーを組んでもいい、てかこっちからもお願いするわ。俺とパーティーを組んでくれ」


 右手を出して俺はツインテに握手を求める。


 色々と文句も言ったし、問題もあったが今はこうして腹割って話し合って、前とは違うのなんて一目瞭然だ。


「でも私本当に………」


「くどいぞ? それとも俺と組みたくないのかよ?」


 初めてあった時と比べると自信がなくなったというか、あの森の後からかなり自虐的になってしまったな。

 どんだけキャラ盛り込めば気が済むんだこのツインテは……。


「ち、違う! そうじゃないわよ! もう取り消すとか言っても聞かないからね!? 嫌って言ってもダメだからね!?」


 ツインテは焦った様子で俺の差し出した手を両手でギュッと掴む。


 それを同意と受け取った俺は強くツインテの手を握り返す。


「よし、それじゃあ俺たちは今日から仲間だ! 

 まあ、俺もお前も攻撃的には貧弱でアタッカーが不在の何ともバランスの悪い構成だが前とは違う。お前となら何とかやってけるだろ。これからよろしくなツインテ!」


「………そのツインテって呼び方やめて」


 改めて挨拶をするとツインテからそんなことを言われる。


「は?」


 これでやっと踏ん切りを付けて改めて仲間としてやって行こうとしたところ、ツインテから早速文句を言われて間抜けな声がでる。


「ヤマト、私と平原で会ってからずっとツインテとかお前とか言って、私のちゃんとした名前呼んだことないよね? 私にはユエルっていう名前がちゃんとあるの! そんなツインテとかお前とか呼ばれるのはイヤ……」


 次第にしょんぼりと悲しそうに言うツインテを見て罪悪感がやってくる。


 正確に言うと俺はツインテと初めて会って名前を聞いた時に、名前を呼んではいるのだがどうやら彼女にはその時の記憶が無いらしい。


 まあ今はそんなことどうでもいい。


 よく考えてみればあれからちゃんとツインテの名前を読んだことはなかった。


「……」


「……ヤマト……」


 無言で黙り込んでいる俺を見て、目の前のわがまま姫は綺麗な瞳にたくさんの涙を溜め込み今にも泣きそうになっている。


「……はあ──」


 別に仲間のことを愛称で呼ぶのは変なことではないし、俺的にはツインテ(この)呼び方がとても気に入っていたが、本人がしっかりと名前で呼んで欲しいと言っているのだからその要望通り呼んであげるべきだろう。


「──わかったよ……これからよろしく頼むな、ユエル」


 指摘されて呼び方を変えると言うのはかなり気恥ずかしく、顔を明後日の方向に逸らしながら目の前の少女を呼ぶ。


「──っ! うん! よろしくねヤマト!!」


 我儘で泣き虫でツインテな目の前のお姫様は出会ってから一番のとびきり輝いた笑顔でそう頷いた。

 不本意にもその笑顔に俺の動悸がムネムネしてしまったのは隠しておこう。


「んじゃ、昨日の依頼の報告しに行くぞ」


「うん!」



 どうやら俺はわがまま姫とパーティーを組むらしい。


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