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十一話 どうやら俺は巻き込まれらしい

「ふむ……」


 現在俺はギルドまで来て依頼掲示板で良い依頼がないか物色していた。


「ねえ、このゴブリン討伐とかいいんじゃないかしら!!」


 そろそろ本気で依頼をクリアしないと野垂れ死にするのもすぐなのでじっくりと吟味する。


「あ! オーク討伐とかもいいんじゃない!?」


「……」


 やはりできるだけ戦闘は避けるべきだ、一か八かで討伐系の依頼を受けるのは止めて採取系の依頼にするか。


「このドラゴン───」


「いやそんなの受けないからね」


 今ままで無視していたというのにしつこく自分のオススメを言ってくるツインテに思わず反応してしまう。


「なによ、ガッポリ稼ぐんならやっぱり魔物倒さないとダメでしょ? そんな薬草取りでちまちまなんてやってらんないわよ」


 ツインテは俺が手に取った採取系の依頼書を見てそう言う。


「そうか、ならそうすればいいじゃん。俺は武器もないから()()()比較的安全な採取系の依頼でちまちま稼がしてもらうわ」


「な……それとこれとは話が別じゃ………」


 俺の返答にツインテは罰が悪そうに口篭りモジモジと手遊び始める。


「……はあ、とりあえず俺はこの薬草採取を受ける。ツインテが討伐系の依頼を受けたいなら勝手にしろ、俺たちは別にパーティーを組んでるわけじゃないしな」


「………っ」


 少し言い方がキツいとは思ったがこっちも生活がかかっているのでそうも言っていられない。


 言ってしまえばこのツインテがいなければ採取系の依頼に限りクリアすることなんて簡単なんだ。


 採取系の依頼でもこの好奇心旺盛なツインテ僧侶は無駄に魔物にちょっかいを出して、最後には自分では収拾をつけることができず俺に助けを求めてくる。


 いつもなら俺が冷たくされる方だってのに逆に女の子に冷たくするなんてコミュ障の俺にはハードルが高い。


「……はあ」


 もう何度目になるか分からないため息をついて黙りなツインテを置いて受付カウンターに行く。


「あ、ちょ、待ちなさいよ!」


 これだけしてもまだ付いてくるのかこいつは?

 一体何がコイツをここまでそうさせるんだよ。


「こんにちは〜ヤマトさん。あら〜今日もお二人一緒なんですか〜? 仲良しですね〜」


 受付に行くともうおなじみになりつつあるカーリーさんが出迎えてくれる。


「こんにちはカーリーさん。今日はこれを受けたいんです」


 この人いつもいるけどいつ休んでるんだろう?

 なんて疑問は置いといて掲示板で取ってきた依頼書をカウンターに置く。


「あ、はい〜分かりました〜……えーと、二人で受──」


「いえ、一人です。後ろにいるこのツインテは関係ありません」


 カーリーさんは変な気を使わせ依頼を二人で受けるか聞いてこようとするがすぐに否定をする。


「そ、そうですか〜。それで〜……」


「ツインテ言うな! 私も受けるわその依頼!!」


 カーリーさんがツインテの方を見ると食い気味でツインテはそう言う。


「はいはいそうですか、まあせいぜいお互い()()()頑張ろうな」


「望むところよ!!」


 あくまでもお互い別々に依頼を受注することを強調する。


「あの〜、それではギルドカードの提示をお願いします〜」


「「どうぞ!」」


 二人揃ってギルドカードを出し、クエストがスタートする。


 ・

 ・

 ・


 ローゼンを出て東に二時間ほど歩いたところ。

 そこに目的の薬草が生えている、ファリルの森がある。この森には回復薬や解毒薬、様々な薬に使われる薬草がポイント、ポイントで群生しており、薬師達にとっては宝の宝庫なのだそうだ。


 しかし森にはお約束のように魔物が住み着いており、そう易々と薬草を取りに来ることが出来ないのだと言う。


 そこでこれまたお約束のように冒険者の出番と言うわけだ。


「相変わらず不気味な森だな」


「ねえー私もう疲れちゃったんですけどー」


 今回俺が取りに来た薬草はポーテル草という回復薬の元となる薬草だ。


 この森は奥に行けば行くほど珍しい薬草が生えているが、強力な魔物も出てくる。今回取りに行くポーテル草は比較的手前の方に群生ポイントがあるので流石のことがない限り魔物との戦闘もなく安全に依頼をこなせる。


「あ! なんだろうこのキノコ、食べれるのかしら?」


 ポーテル草1kgで1000ゴルドの報酬となり、たくさん取ってくれば取ってきた分だけ報酬は増える。

 前にも二回ほどこの森の依頼を受けたが全て後ろでうろちょろとしてるツインテによって失敗に終わった。


「今回は絶対にクリアしてやる……」


 後ろで何やらはしゃいでる奴の事は完全に無視して草取りに集中しよう。


「ねえーあんなとこに変な鳥がいるわよ!」


「……」


 絶対に無視だ、こっちも生活がかかっているのだ。


 20分ほど森を歩いたところで足を止め、木の根元に五芒星の形をした黄緑色の草を見つける。


「お、あった! ここら辺にも群生してるんだな」


 この不思議な形をした草がポーテル草だ。この薬草は密集して大量に生える草で一つ見つけてしまえばある程度の量を採ることが出来る。


「よっしゃ、森の恵みに感謝して頂いていきますか」


 木の根元に行き、根っこごと草を引き抜くのではなく根っこを残す感じで茎の部分でちぎるようにポーテル草を採っていく。


 なんでもポーテル草は根っこを残して明日まで待っていればすぐに収穫できるほど成長が早い草らしく、基本根っこを採るのがNGな薬草らしい。


 薬草なんて全く詳しくないし、別に根っこを取ろうが残そうがどっちでもいいと思うが、とりあえず教えられた通り採取していく。


 …………。



 辺り一体に生えていたポーテル草をだいたい採り終えて一息つく。


「思いのほか大量に取れたな」


 かれこれ一時間ほどスクールバッグと同じぐらいの大きさの布袋がパンパンになるぐらいにポーテル草を採った。


「ギルドで採取用に借りれる普通の布袋より大きめのやつを借りてきたからこれ全部で3kgぐらいはあるか?」


 魔物にも襲われること無く無事にノルマの1kgを優に超える量の草を採ることができた。


「てか、あのツインテはどこ行ったんだ?」


 こうも薬草採取が捗ったのはあの泣き虫僧侶が邪魔をしてこなかったからで、ふと森で何をしているのか気になる。


「……まあ飽きて帰ったのかもな。俺も帰るか」


 一応辺りを見渡して近くにいない事を確認し、そう判断すると森の出口に向かって歩き出す。


「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 一歩、二歩と歩き始めて直ぐにそんなもう聞きなれた叫び声が聞こえてピタリと動きを止める。


「………」


 俺の聞き間違えかもしれないと思いもう一度耳を澄ませて見る。


「助゛け゛て゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」


 ……聞き間違いであって欲しかったその声は再び助けを求め叫ぶ。


「はあ………しょうがねえなあ」


 今日は草を採っている最中は邪魔をしなかったので仕方なく助けてやることにする。


 俺ってなんて優しいんだろう。


 すぐに叫び声がしたところにつくとそこにはとても残念な光景が広がっていた。


「うわあ……」


 そこには俺が初めて草原で出会った猪型の魔物の、名前は確かブルファン、三匹に襲われ木の上に登ってなんとか耐え忍ぶ、顔を涙でぐしゃぐしゃにした美少女の姿があった。


「ひいいいいい! 木を揺らすのやめなさいよ!!」


「「「ふごふご!!」」」


 ブルファン達は木に登ったツインテを落とすために一匹ずつ木に頭突きをして木をかなりの勢いで揺らしていた。


 見てくれが良いだけに見た目とのそのギャップに残念さが加速している。


 まだそこまで森の深い位置ではないおかげか、強い魔物に襲われてなくて助かった。ブルファンはスライムと同等に雑魚扱いされている魔物で、しっかりと個体として形があるので不規則な体質のスライムよりも弱いと言われている、武器があればアイツらならなんとかなるだろう。


「はあ……とりあえず検証の為に吃逆かけておくか」


 ブルファン達はツインテにご執心で俺には気づいておらずとりあえず他の二匹よりも体が一回り大きなブルファンに吃逆の呪いをかける。


「ふごふご……ヒック……」


 中指と親指を擦り合わせパチンッと乾いた音がなると一回り大きなブルファンは体を揺らし変な音を出す。


「……よしかかったな」


 呪いがかかったことを確認してそのまま様子を伺う。


 すぐに助けには行かず呪いをかけたブルファンの観察をする。まだ俺の事はツインテにもブルファンにもばれていない、こうして安全な位置で呪いにかかった魔物を観察できるなんてそうそうない。


 ツインテには申し訳ないがあと少しの間だけ木の上で耐えてもらおう。

 本当にやばい時には助けに入るがそれまではこの能力の検証をさせてもらう。


「早く助けに来てよぉぉおおおお!!」


「ふご……ヒック……ふご」


 まだこっちに気づいていないツインテは助けに来ない俺に向けて叫ぶ。


「……」


 すごく俺の中の良心が痛むがもう少し我慢してくれ。


 何度も何度もツインテがしがみついている木に突進するブルファン達。


 しかし、一回り大きなブルファンだけはしゃっくりが止まらず動きのキレがとても悪い。


「ふごふご!」


「ふごふご!」


「ヒック……ふごふご!」


「……」


 今ので五回目か。


 まだあのブルファンが爆発する気配はなく突進は続く。


「もう無理! 力が入らないよおおおお!!」


「……っ! もう無理か……」


 ツインテの叫びと、どつかれ続けた木がグラグラと揺れ始めたのを見てここら辺が限界だと判断。


「ふごふご……ヒック……ヒック!」


 これで六……七回目。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


「仕方ないっ!!」


 そこら辺に転がっていた小石を拾い駆け出す。


「……くらえっ!」


 拾った小石をすぐさまブルファン達目掛けて鋭く投擲。


「ふごっ!?」


「ふごふごっ!?」


「ふご……ヒック……ふごっ!? ……ヒック」


「こっちだ豚ども!!」


 なんとか全部のブルファン達に石が当たり意識がこっちに向く。


 今ので九回……。


「あぁ……来てくれたあ……!」


 ツインテはいつものツンケンした態度ではなく弱々しい声で喜ぶ。


「おい! キャラ変わってんぞツインテ!!」


 どんだけ自分にキャラ盛り込めば気が済むんだあの女は!


「ふごふご!!」


 こっちに意識が向いた一匹の呪いにかかってないブルファンが突進してくる。


「きたな!」


 地面に落ちていたツインテのモーニングスターを拾いブルファンを迎え撃つ。


 てか自分の武器ぐらいしっかり持っておけよアイツ。


「ふごっ!」


「ふごふ……ヒック……ごっ!」


 他の二匹は突進してこず突撃して行ったブルファンを応援している。


 今ので十回目……まだ爆発する気配はない。


 ……一匹ずつ来てくれるのはありがたい。これならいける!!


「ふごっ!!」


 変化などつけず、単調に真っ直ぐな突進でブルファンは来る。


「………」


 タイミングを合わせろ……。


 モーニングスターを振りかぶり深く腰を落とし構えを取る。


「ふごーっ!!!」


 俺とそのブルファンが衝突するまであと5m。あと一秒でモーニングスターが届く距離。


「シね!」


 脳が瞬時にそう判断すると腕を鞭のようにしならせてモーニングスターを振るう。


「……ふんご!?」


 タイミングが上手く合い、モーニングスターは綺麗な軌道を描いてスパイクの部分がブルファンの頭部にめり込み悶絶の声が響く。


「よし!」


 ブルファンが絶命したのを確認してすぐに残りの二匹に視線を移す。


「ふんごー!!」


「ふご……ヒック……ふご……ヒック!」


 残りの二匹は仲間が絶命するのを目の前にして、目を血走らせ憤怒する。


 十二回……爆発はまだか。


 俺はそんなこと気にも留めずに一回り大きなブルファンの一挙手一投足を見逃さず観測する。


 ……しゃっくりの回数が増す度にしゃっくりをするスピードが上がっている。それに動きも不自然になってきている。


 もう少しで爆発するのか?

 それともハズレを引いたか?


 しっかりとした手応えは感じられず、モヤモヤとした気分だ。


「タイムオーバーだ!」


 ツインテも腕の力が限界のようですぐにでも木から落ちそうだ。実験はここまでにして決めにかかる。


「はあああああぁ!!」


 二匹が突進する前に加護の力で強化された脚力で一瞬でモーニングスターが届く間合いまで詰める。


「ふご!?」


 吃逆のかかってない方のブルファンは反応することが出来ずそのまま俺の振りかぶったモーニングスターに頭をぶち抜かれる。


「……ぺっ」


 割れた水風船のように返り血が飛び、口の中に不快な鉄の味が広がる。


「最後はお前だ!!」


「……ヒック……ふごぉおおお!!」


 仲間をさらに殺され怒りにその場で地団駄を踏み、攻撃の標準を俺に合わせる。


「遅い!」


 奴がしゃっくりをしながら不規則に地団駄を踏んでる間にすぐさま間合いへと踏み込む。


「ふご──」


「っ!?」


 モーニングスターを振りかぶり呪いのかかったブルファンに最後の一撃をお見舞いしようとした瞬間、奴の頭上に表示された1と言う数字が目に映る。


「──ヒック!」


 その数字はブルファンがしゃっくりをしたと同時に1から0へとカウントダウンをし、突然奴の体が膨れ上がりその場で爆発が起きる。


「な────」


 爆音と共に肌が焦げるほどの熱量と衝撃、爆発の衝撃で大きく打ち上げられた体は勢いよく地面に叩きつけられる。


「────っ!!」


 声にならない悲鳴と轟音で耳が壊れたのかキリキリと変な金切り音が鳴り止まない。


「……ヤマト!?」


 誰かが自分の名前を呼んだ気がして声のした方へ手を伸ばす。


 誰に名前を呼ばれたのか分からないのに、どうしてか初めてちゃんとソイツに名前を呼ばれた気がした。


 ああ不味った。これは死んだわ俺。

 まさかあそこで爆発するとは思わん。本当にあのクソ女神はとんでもないハズレ能力を寄越してくれたもんだ。


 ……でもまあいいかどうせ死んでまたあの腹立つ顔を拝むことになるのだろうし、思いっきり文句を言ってやろう。


「───ト!!──マト!!」


 誰かが……女の子が俺の名前を一生懸命に呼ぶ声がする。


 うるさいな、静かにしてくれ。

 ゆっくり寝れないじゃないか───。



 どうやら俺は爆発に巻き込まれたらしい。


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