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九話 どうやら俺は拾ったらしい

「うっぐ……ひっぐ……こわ……がっだ……!」


「あー………」


 男は女の涙に弱い、なんて言うがそんなの男だろうが女だろうが人は誰かが泣いてれば驚くし、困惑するし、弱い。それは自分が泣いてる人の相手をしなければいけないのなら尚更だ。


 ……何が言いたいかと言うと。

 目の前の女の子が泣き止んでくれない。


「うわあああああああん!」


「えー……」


 どうやら俺の魔法(指パッチン)は発動したらしく一匹のスライムが「ヒック」としゃくりをした後に突然そのスライムが爆発して爆散した。他の周りにいた四匹のスライムも爆発に巻き込まれて爆散。


 何を言っているか分からないと思うが俺もよくわからん。


「うわあああああああん!」


「おー……」


 そして目の前で泣く少女は爆発には巻き込まれなかったものの爆風には巻き込まれ、10mほど地面を転がり周り現在の状況の完成となる。


「うわあああああああん!」


 地面に可愛らしく女の子座りで座り込んで一生懸命に何度も何度も目から溢れる涙を拭う。


 そういう性癖をお持ちの方たちから見ればとても心に突き刺さる光景かと思うが実際のところそんな綺麗なもんじゃない。


「うわあああああああん!」


 歳は俺と同じか少し下、随分と整った可愛らしい顔立ちで碧瞳にツインテールの長い黒髪。お胸と背はそこまでと言った感じだがそれを除けばモデルのようなスタイル。まあ一言で言えば美少女。


 なんで異世界ってこんな可愛い女の子ばっかいるんだろうね?オイラ、フシギデナンナイヤ。

 ……まあいい。


「うわあああああああん!」


「……」


 じっくりと見た目を分析してみたがこれに現在の状況をプラスするとまあ酷い。


 全身は地面を転がり回ったので土だらけ、爆発で飛び散ったスライムのネバネバとした残りカスみたいな物も所々に着いており、最後は涙と鼻水でグシャグシャに崩れた顔面。


 まだ見てくれが良いので何とか見れるがこれがブスだったらとっくに見捨ててる。


「うわあああああああん!」


「てかうっせえな!? いつまで泣いとんじゃ!!」


 今までなんとか我慢していたが、それも限界となりつい泣いている女の子に怒鳴ってしまう。


「………」


 目の前の少女はピタリと泣くのを止めると次は俺の顔をガン見して、

「うわあああああああん!! なんでぞんな酷いごというのおおおお!!!」

 と、さらに酷く泣きわめき、もっと収拾がつかなくなる。


「ああ!すまん! ごめんなさい! 怒鳴って悪かったよ! そうだよね! 辛かったよねえ! 怖かったよねえ!?」


 自分の発言を悔い、急いで謝る。


「……ひっぐ……うっぐ……いいよ……ゆるす……」


 何とか許してもらえ、少しだけではあるが泣きじゃくるのも弱まった。まるで赤ん坊の相手をしているような気分……。


「……はっ!」


 とそこで一つひらめく。


「本当かい? ありがとぉ〜優しいねぇ〜お嬢ちゃん。えーと、お嬢ちゃんは自分のお名前言えるかなあ?」


「えっと……おなまえはユエル……としは17ちゃい……ぼうけんしゃでそうりょです」


 相手が赤ん坊のようならば赤ん坊のように接すればいいじゃない!なんて安直なヒラメキで赤子をあやすような喋り方で話しかけたが意外と好感触。素直に聞いてないことまで言ってくれた。てか同い年かよ。


「そ、そうかあユエルちゃんって言うのかあ、お名前ちゃんと言えて偉いねえ〜」


「えへへ……」


「……うぐっ!?」


 優しく質問をすると泣き止んでユエルと名乗った僧侶のその純粋な本当の子供のような照れ笑いに不覚にもグッと来てしまった。


「……お兄ちゃんはなんていうの?」


「うぐぅっ!!?」


 さっきまで初対面で人のことバカにしたり、汚い声で叫んだりしてたくせに何だこの可愛い生き物は!?

 キャラ変わりすぎだろ。お兄ちゃん呼びはずりいよ……。


「お兄ちゃん……?」


 質問に答えず可愛さで悶える俺を見て首を傾げる。

 ああもう!それも可愛いなあ!!?


 いかん、変なテンションになってきた。


「すー……はー……俺はサイトウヤマトって言うんだ。歳は君と同じで冒険者だ、よろしく」


 深呼吸をして正気を取り戻し答える。


「うん! よろしくねヤマトお兄ちゃん!」


「うぐあぁああ!!?」


 穢れの知らない向日葵のように微笑む少女の姿に浄化しそうになる。

 だから……お兄ちゃん呼び……やばい……。


「と、とりあえずここで話すのもアレだから一旦ギルドに戻ろうか……」


 これ以上はこの笑顔を見ていられないと、俺の中の萌がキャパオーバーしてしまうと体が咄嗟に判断し、顔を背けながらそう提案する。


「わかった!」


 にぱーっと白い歯を輝かせながら最高の笑顔で答える。


 耐えてくれ、俺の萌えキュンメーター。

 ……いや、なんだよその変なメーター。

 いかん、また変なテンションになってきた。


 ・

 ・

 ・


「疲れた……」


「お疲れ様で……あら〜? ヤマトさん、後ろの()()はどうしたんですか〜」


 無事に何とかギルドに戻ることができ、依頼完了の報告しようと受付に行くと出迎えてくれたカーリーさんが聞いてくる。


「えーと──」


 何故か俺は行きの時よりも一時間多くかけて首都ローゼンまで戻ってきた。


 それもこれも後ろで呑気にヨダレを垂らして寝てる少女の所為である。


 ローゼンに向かって戻っている最中に「足が痛い」と駄々を捏ね始め、仕舞いにはまた泣きそうになったので仕方なく半分以上の距離をおぶってここまで帰ってきた。


「あ〜彼女ですか〜。それはお疲れ様でした〜」


 と依頼中に起こったことを全てカーリーさんに説明すると平然とした顔で答える。


「え? こいつしょっちゅうこんな感じなんですか?」


 全く驚いていないカーリーさんを不思議に思いながら聞く。


「まあ〜……しょっちゅうこんな感じですね〜……」


「……」


 マジかよ、あんなこといつもしてよく今まで生きてたな。


「それよりも〜、依頼の方はどうでしたか〜」


 カーリーさんはこれ以上ユエルの事について触れる気はないようで、ざっくりと話題を変えてくる。


 それよりもって結構大事だと思うんですけど……。


「あ、はい、無事に終わりました。これでいいんですよね?」


「はーい、確認しますね〜」


 俺も郷に入っては郷に従えで、これ以上は触れずとりあえず依頼達成の報告をする。


 基本、採取系の依頼はその依頼物を納品すれば依頼完了の証拠となるが、魔物の討伐以来の場合はその魔物のどこかしらの部位を剥ぎ取ってそれを証拠とする。


 今回のスライムの場合は死亡後に落とすピンポン玉ぐらいの魔石を持って帰れば証拠となる。あのスライムと似たような青色の水晶玉みたいな見た目、五匹なので合計で五個の魔石だ。


「はい、確認完了致しました。ヤマトさん依頼ご苦労さまでした、こちら報酬の銀貨6枚になります、ご確認ください」


「ありがとうございます」


 確認が終了し俺の討伐が承認され依頼が完了となる。


 まさか初めて自分で稼いだお金が異世界とは思いもしなかったが、初めて自分で稼いだお金というのはとても嬉しい。なんと言っても響きが素晴らしい。


「………あの質問いいですか?」


 少しの間、じんわりと感動に浸りながら自分の後ろに受付に並んでいる冒険者がいないのを確認して聞く。


「はいどうぞ〜?」


「その魔石って何なんですか?」


 スライムから拾った時からこれが何かずっと気になって仕方がなかったのだ。

 色々とゲームや小説とかだと武器の素材だったり、魔道具的な物に使われるのがお約束だけどこの世界ではどうなのだろうか?


「これはですね名前のまんまですけど魔力のこもった石です」


「………え? それだけですか?」


 簡単すぎる説明に思わず聞き返してしまう。


「はいそれだけです」


「えっと、何か武器の素材とかに使われるとかは……」


「ないですね」


 俺の淡い期待をバッサリとカーリーさんは切り捨てる。


「えっとそれじゃあこれって別に価値のある物とかではないんですか?」


「いえ、そんなことないですよ〜。見た目は綺麗ですし、貴族などの上流階級の人達からは宝石、アクセサリーとしての需要があります〜。まあ、貴族などが欲しがるのはこんな下級の魔物から取れる魔石ではなくもっと強い魔物から取れるものなんですけどね〜。強い魔物から取れる魔石はコレとは比べ物にならないぐらい綺麗なんですよ〜」


「なるほど……」


 最後の質問で納得のできる返事がきて頷く。


 この世界での魔石はゲームや小説見たく武器や道具の素材とかではなくて、嗜好品の一つなのか。

 確かに見た目は綺麗だし、好む人も多いだろうな。


「ありがとうございます──」


「いえいえ〜」


 意外な結果に興味を引かれながら、優しく説明をしてくれたカーリーさんにお礼を言う。


「──それとなんですけど──」


「はい?」


 しかし、まだ俺の質問は終わっていない。というかこっちが本題まである。

 カーリーさんは首を傾げ俺の次の言葉を待っている。


「──これ、どうすればいいですかね?」


 後ろでまだ寝息を立てているツインテ僧侶を指さして聞く。俺はただこの人を保護しただけなので、これ以上面倒を見る義務なんてない、それこそギルドの仕事だろう。


「あ〜………」


 カーリーさんは今まで目を背けてきたことを指摘されたようで、気まずそうな表情になり愛想笑いをする。


 ……まさかこのまま俺に擦り付けて対処させようとか思ってませんよね?

 違いますよね?

 ねえ?


「えーと、そうですよね〜! あとはこちらで介抱しますので他のギルド職員のものに渡して貰えますか〜?」


 自然と無言の圧力のようなもので答えを待っているとカーリーさんは急いで他の職員を読ぶ。


「了解です」


 俺はこのまま擦り付けられなくて本当に良かったと安堵し、すぐに来た職員に泣き虫居眠り姫を引き渡す。


「本当にお疲れ様でした〜」


「ありがとうございます」


 最後にもう一度労いの言葉を貰い俺はギルドを後にする。


 色々と少女……ユエルについて気になることもあるのだがあれは面倒臭いタイプだ、忘れてしまおう。今日は無事に依頼が成功したことだけを喜ぼう。

 無事に異世界一日目、初仕事は成功で終了した。



 どうやら俺は今日、変な少女を拾ってしまったらしい。


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