表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/52

マンドラゴラの逆襲……ではなく、ストーキング?

新連載立ち上げ記念にいくつか番外編を更新します。


 チュンチュン……という小鳥のさえずり。窓から差し込む朝日……。

 これぞ少女漫画に登場する主人公の優雅な朝の光景……。

 ……でもなく。

「おっはよ~」

「リジー起きて。起きて。朝だよ~」

 という双子の大きな声と実力行使によってわたしは朝っぱらから盛大にたたき起こされた。

 たたき起こされ、というかベッドの上に華麗にダイブ。

 う、重……。子供といえど体重二人分。わたしは「ぐぇっ」っていう潰されるカエルのような声を出す。

 子供ってなんでこんなにも早起きなんだろうね。

 いや、そのまえに乙女の部屋に無断で入ってくるなや。寝起きすっぴんなんですけどね。

「……あ、あと。あと五分……」

 わたしはベッドの中から声を出した。まだ眠っていたいお年頃なの。

 察して……。

「リジー! 朝だよ。起きようよぉぉ」

「二度寝は駄目だよぉぉ」

 とまあ、双子は察してくれるはずもなく。

 元気すぎるくらいにお育ちになった双子のちびっこ竜は本日もわたしを朝も早くからたたき起こしてくれたのだった。



「あーもー眠い」

 朝の支度をティティに手伝ってもらいながらわたしはぼやいた。

「リジー様、昨日もお疲れでしたからねぇ~。寝不足は美容の大敵だと本にも書いてありましたぁ」

 それってたしかグレゴルンとかっていう人だか誰かだかが書いた本だよね?

「朝早すぎ……せめてあと一時間寝たい」

 まだ朝の六時だよ。早いわ。

 そろそろ夏って頃合いで、日の出が早いんだよね。そして子供たちは基本元気だから早く目が覚める。目が覚めると遊びたくて仕方がない。ということでわたしを起こしに来る。

 うん。なんかもう前世で遊び相手をしていた甥っ子と姪っ子と同じだわ。あの子たちもうちに泊まりに来ると朝早くに目が覚めてたなー。そしてわたしは一番若いんだから、という理由だけで子供たちの相手をさせられていた。前日スマホゲームで深夜跨いで起きていたとか、そういう事情は一切考慮されなかったよね。

「ではではぁ。ティティは本日、リジー様がぐっすり眠れるためによい香りのするお花を摘んでおきますですぅ」

 ティティがわたしの髪の毛を梳かしながら歌うように言った。

「ありがとう、ティティ」

「どういたしましてですですぅ」

 ティティ、わたしの後ろで一回転。精霊の彼女はいつもふよふよと宙に浮いているから。

 わたしは鏡越しに彼女と目を合わせて軽く会釈をした。

 ほんとうティティっていい精霊だなぁ。

 髪の毛を丁寧に溶かしてもらって、着替えて朝食を食べて。

 食べている最中もフェイルとファーナはわたしの両隣できゃっきゃと本日の予定について話をしていた。

 今日も遊ぶ気満々だからしっかり食べておかないとね。体力維持の基本は良質な食事から、よ。

 こういうときレイルがいるといいんだけど、って考えてわたしはぱたぱたと彼の顔を頭の中から消した。神出鬼没な彼を当てにしたら駄目だって。

「どうしたの、リジー」

「ねー?」

 わたしが急に頭を左右に振ったからか、双子が揃って聞いてきた。

「んー。何でもないわ」

 うん。なんでもない。

 まあ、友達っていうくくりで言えば頼りになるし、貴重な人間の話し相手だもんね。

 わたしは意識をレイルから離して朝食を食べ終え、双子に急かされつつ洞窟の外へ。

 はあ、まったく。せっかちなんだから。

 今日は朝から雲一つない晴れだから双子はそれだけで嬉しいみたい。こういう純粋なところは可愛いなって思っちゃう。晴れているから機嫌がいい、なんて可愛いよね。

「お外~」

「今日は何してあそぼっか」

 双子がうきうきと駆けだそうとする。

 ああもう、人間の姿で前も見ずに走ると転ぶわよってわたしが注意しようとするとファーナが急に止まった。

「あー。マンドラゴラだぁ」

「へっ?」

 面白そうにファーナが摘まみ上げたのは。

 たしかにマンドラゴラだった。

「本当だ」

 フェイルがファーナのすぐ横にやってきた。

「リジーの落し物?」

 ファーナが純粋な目でわたしに確かめてくる。

 たしかにわたしはここ最近薬草摘みをしている。森の精霊たちに薬草を教えてもらって摘んでいるのだ。乾燥させて人間の村に売りに行こうと思っているから。

 いやだけどね。

 わたしはファーナが掴んでいるマンドラゴラをじぃぃっと凝視する。

 干からびたミイラのようにだらんと力を無くした植物……。なんか、おっさんにも見える顔……。いや、見えない。気のせいだって。

「これって……昨日フェイルが引っこ抜いたマンドラゴラに似ているような」

 わたしは首をちょこっとひねった。

 なんか、このしわくちゃ加減が似ている。わたしが引っこ抜いていたマンドラゴラとは種類が違うような。

 と、そのときファーナが掴んでいるマンドラゴラがもそもそと動いた。

「ひゃっ!」

 わたしは変な声を出した。

 だって、急に動くとか。怖っ!

 わたしはじっとマンドラゴラを見つめた。

 そして青ざめた。

 だ、だってなんか今、目が合ったような気がする……?

 い、いや。気のせいだよね。

 うん。そうだよ。わたしは自分に言い聞かせる。

「ファーナ。とりあえず、そのマンドラゴラを草の中においてきなさい」

「はぁい」

 ファーナはどうやらマンドラゴラに執心しなかったようで、わたしの言いつけをちゃんときき、マンドラゴラを森の中に返すために駆け出していく。ファーナの後ろを「僕も~」と言いながらフェイルが付いていった。

 わたしは二人をお見送り。

 にしても、どうしてこんな地べたにマンドラゴラが?

 ま、いいか。

 さて、今日は何のお菓子を作ろうかな。わたしの意識は完全にそこでマンドラゴラから離れたのだった。



 翌日も朝からよく晴れていて、わたしは洞窟から外に出てうーんと背伸びをした。

「んー、今日も変わらずにいい天気ね」

 と、歩いていると何かを踏んづけた。

 草かな。洞窟の真正面は竜とかわたしとかが地面を踏み鳴らしているから基本土むき出しなんだけど。雑草でも生えたかな。

 わたしは今しがた踏んづけた草を見た。

「おっきな雑草ね」

 人間になったフェイルとファーナが足に引っかけて転んでもいけないし抜いておこうか。

 草の茎に手を伸ばしたかけたところでわたしはなんとなく、じぃぃっと見つめた。なんか、見覚えのある葉っぱの形。

 なんだっけ。

 ま、いいか。

 わたしがまさに力を入れて雑草を引っこ抜こうとしたとき。

「駄目ですぅぅぅ!」

 上からティティの叫び声が聞こえてきた。

「うわっ!」

 わたしはびっくりして雑草から手を離した。

 するとすぐに目の前にティティの顔が迫っていた。

「リジー様っ。この草はマンドラゴラです。この森最強のうるさいやつですよぉ」

「えっ、そうなの?」

 わたしは慌てて雑草、もといマンドラゴラを見下ろした。

 た、たしかになんとなく見覚えのあるような葉っぱの形をしているような。

「どうしてこんなところに……」

 マンドラゴラというと、昨日なぜだか洞窟前に転がっていたことを思い出す。双子たちが森に返してきたのに。

 まさか、ね……。

 わたしはたらりと一筋の汗を流しながら下を見つめた。

 と、そのとき。

 ずぽずぼっとマンドラゴラが地面から這い出た。

「ひぃぃぃぃ!」

 わたしとティティは互いに肩を抱き合って悲鳴を上げた。

 勝手に這い上がってきたよ。

 土から根っこが出てきたよ!

 え、なにこれ。怖いんですけどっ!

 逃げようと思ったんだけど、足が動かない。心臓がどきどきしすぎてて、いや、ほんとに動けん。

 マンドラゴラ、わたしたちを見上げてごにょごにょと何かを言っている。

 あれだ。これは絶対にフェイルが引っこ抜いたあいつだ。

 だって、あいつもフェイルに引っこ抜かれたあとにぶつぶつと言っていたもん。

「な、ななに言っているの、この人(?)」

「え~、なになに……」

 ティティはふわりと浮いた体を逆転し、マンドラゴラのほうへ頭を近づける。耳元にマンドラゴラ。

「ふんふん」

 あ、ティティってばマンドラゴラ語が分かるんだ。さすがは精霊。すごい。

 って、わたしが関心をしているとティティの顔色がめきめきと変化した。

「リジー様が美人過ぎて大好きになってしまった……。ずっと一緒にいたい。結婚して……って、なぁに厚かましいことを言っているのぉぉぉぉ」

 怖い冗談かと思うような台詞のあと、ティティの語尾が荒くなる。

 いや、わたしもね。マンドラゴラに好かれてもどうしようもないというか。

 わたしが困惑をするのと、ティティの燃えるような赤い髪の毛が文字通り燃え上がるのとが同時だった。

「ふざけるんじゃないわよぉぉぉ! でっかい虫はどこぞの茶金髪野郎だけで十分なのですぅぅぅ」

 などと叫んでティティは思い切り炎をマンドラゴラに向かって放った。

『ギョエェェェェェェ』

「わーんっ! リジー様耳押さえてくださぁぁい」

 ティティの炎に巻かれまいと叫ぶマンドラゴラに、わたしを守ろうとするティティ。

 わたしはティティの魔法によってマンドラゴラ砲の直撃は免れたものの、それでも耳の奥に奴の叫び声が響き、頭がぐわんぐわんと回った。

 ちょ、朝から頭がくらくらする……。

「あーっ! あいつ逃げたのですぅ」

 ティティが悔しそうに地団太を踏んだ。

 いつの間にかマンドラゴラはその場からいなくなっていた。

「な、なんて逃げ足の速い」

「ていうか、マンドラゴラって自分の足(いや、根っこ?)で歩けるのね」

 何でもありだな、この世界。



「今度こそ丸焼きにしてやるぅぅ」

「僕も。僕も丸焼き合戦!」

「わたしも」

 ティティは本日も、洞窟前の土の中に潜っていたマンドラゴラを見つけ、丸焼きにしようと奴を追いかけている。

 ちなみにかれこれ三日間もこの状況が続いている。

「二人とも、真似しちゃだめよ」

 わたしは頬を引きつらせながら双子を制止。じゃないと森が焼ける。真っ黒に。

 ていうか、あのマンドラゴラいい加減に諦めてくれないかな。まさか悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムを好きだという輩が現れるとは思わなかった。草だけど。草だけれどもね!

「ティティだけ鬼ごっこずるーい」

「ずるくない。ずるくない」

 ファーナの不満声にわたしは感情のこもらない声で応酬。

 今はまだ洞窟の手前で済んでいるけれど、これ、部屋の中とかにいつの間にかいたら怖すぎる案件だから。

「ずるいよー」

 フェイルまで。

「ずるくない。ていうかティティー、捕まえたら地の果てまで捨ててきて頂戴」

 マンドラゴラにまとわりつかれるのは、ちょっと、いやかなりいただけない。

「了解なのですぅ」

 はるか遠くからティティの声が聞こえてきた。

「じゃあ僕たちも捕り物するー」

「ティティには負けないんだから」

 フェイルが嬉々として駆け出すとファーナも当然とばかりに後に続く。

「ふ、二人とも! 森を焼いたら駄目なんだからねっ!」

 わたしは念のために釘を刺しておいた。

「わかってるもーん」

 そんな声を聞きつつ。本日も炎の精霊と黄金竜VSマンドラゴラの鬼ごっこは続くのであった。


 ちなみにマンドラゴラはどうなったのかというと……。

 ちょっと考えると怖いから、黙秘しますっ!


現在『異世界に召喚されたら魔王サマの妻になりました』を新連載中です。

こちらの応援もよろしくお願いします。


こんな日常話ですが・・・

レイルとリジーのその後も書く予定です

更新頻度はゆっくりになりそうですが、お付き合いいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ