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双子竜の遠足

 レイルが次に谷間の黄金竜夫妻の元を訪れたのはそれから三日後のことだった。


「案外早かったわね」

「仕事頑張ったからな」

 レイルは胸を張った。

「ああそうなの」

「うわ。反応薄い」


 これ以上どう反応しろってか。


 わたしのうすーい反応がお気に召さないらしいけど、相手するのも面倒なのでわたしはそのままスルー。

 今日はどこにも出かけていないミゼル夫妻にフェイルとファーナは自分たちも人里に行きたいとお願いをした。


「そうねえ……」


 レイアは思案気に虚空を見つめる。

 やっぱり竜の子供はか弱いからあまり遠くには行かせたくないのだろうか。


「はしゃいで口から火を吐いたら駄目よ。ちゃんと分かっているの?」

「はあい」

「それからリジーとレイル以外の人間の前で魔法を使っても駄目。約束できるかしら」

「大丈夫!」


 元気だけはいいんだけどなあ。


 ちらっとレイアの顔を確認すると、その顔には「心配」と書いてある。わかる、ものすごくよくわかる。


「まあ、いいんじゃないか。最近の二人、いい子にしていたし」

 助け舟を出したのはミゼルの方。

「そうねえ」


 最終的にレイアが了承したことで人里への遠足が決定した。

 二人ともその場で小躍りする始末。


「リジー、大変だろうけど、引率お願いね」

「……頑張ります」

「俺もいるから任せておいてくれ」


 レイルが胸を叩いた。

 それも心配の種なんですけどね。


「やったぁ。今から行く?」

「飛んでいくの?」


 フェイルとファーナがわたしにまとわりつく。瞳がきらっきらと輝いているのを見ると、まあ仕方ないか、という心境になってくる。


「そういえば前回はどうやって向かったんだ?」

「ドルムントに送ってもらったのよ」

 なにせ風の精霊さんだし。人一人運ぶことなんてお手軽とのことだった。


「わたくしたちが送るって言ったのに」

 こういうとき頼ってくれてもいいのに、とレイアは頬を膨らませる。


「最初は歩いていこうとしたんだけど、全員に止められたのよ」

「当たり前でしょう。歩いたらどれだけかかると思っているの」

「はい。いまはちゃんと距離感掴んでいます」


「今日は僕たちの背中に乗って行こうよ」

「わたしリジーを乗せて行ってあげるわ」


 外に出たわたしたちは移動手段を相談し始める。


 と、そのまえに。


「レイル、あなたその格好で付いてくるつもり?」


 わたしはレイルの服装チェックを入れた。彼の格好は初対面の頃から変わらず、騎士装束。身元が分かるような格好はよろしくないと思う。


「え、ああー……」

「ここ、山の中よ。どんな騎士が山奥の村に用があるっているのよ」

「人間の社会って面倒だよな」

 レイルが心底煩わしいといった風にため息を吐いた。


「そういうことなら私に任せておきなさい」


 ミゼルが手を振りかざして、小さく何かを呟いた。

 するとレイルの服装が変化した。ミゼルが魔法を使ってくれたのだ。


「おお! まさしく村人その一といった風情だ」

「いや、これは森の中の訳あり人間その一、風の格好だ」


 それどこがどう違うのかしら。


「なるほど。奥が深いな。ミゼル殿」

「そうだろう」


 いや大して変わらないよね。


 ミゼルのおかげで今のレイルは薄い色の上着に濃い色のパンツに皮の長靴(ブーツ)といった本当に何の変哲もない村人Aといったいでたちになった。


「これを羽織るといい」

 といってカーキ色の外套を彼に手渡すミゼル。

「ああ、これあるとまた雰囲気出るな」

「だろう?」

 なぜだか二人とも楽しそう。


「あなたたちもこれを羽織りなさい」

 レイアが双子に外套を被せる。ケープのようになっていて、前をりぼんで結んであげている。

「人間の社会を学ぶよい経験だからね。いいかい。リジーとレイルの言うことをよく聞くんだよ」

「珍しいからといって、なんでもすぐに触っては駄目よ」

「どうしてぇ?」

 両親からの忠告にフェイルが質問をする。


「人間の社会には人間の作った決まりごとがあるからね。なにかに触りたくなったら、ちゃんと側にいる人間に許可をもらいなさい」

「わかった」

「はあい」


 二人はそれぞれ頷いた。

 行きはミゼルとレイアが一緒になって移動魔法を使ってくれることになった。子供たちもいるから当然といえば当然で。


 竜の作る魔法陣の中に入ったわたし達を光が覆う。一瞬眩しいと思ったらふわっとした浮遊感を感じて、次に目を開けるとそこは森の中。


「もう着いたの?」

「ここが人間のたくさんいるところ?」


 フェイルとファーナが辺りを見渡す。

 わたしは生れて初めての移動魔法に若干目を回す。なんとなく体がふわっとする。


「大丈夫か? 最初は慣れないからな」


 くらっと足がもつれたところをレイルが背中に手を回して支えてくれた。

 ちょっと、近いかも。って一番最初に出会ったときもこんな感じだったっけ。


 でもなんとなく、あのときと今とだと、何かが違う気がする。それが何なのか分からないけれど。心の奥がむずむずする。


「リジー様ぁ、大丈夫ですかぁ?」

「え、うん。平気。初めてだからちょっと体がびっくりしたのかも」


 すぐそばにティティも来てくれて、彼女はさりげなくレイルの腕を私の背中から取り払う。そのあと、彼女はわたしの両肩を後ろから支えてくれた。


「わたしは今回姿を消していますけれど、すぐそばにいますからね。あ、そうだ。これ、差し上げますぅ」


 そう言ってティティは髪の毛にぶら下げていた鎖を一つ取り外してわたしの首にかけてくれた。細かな鎖は赤金色に輝いていて、ところどころ赤い石が垂れ下がっている。


「これって……」

「わたしの炎を閉じ込めた石ですぅ。これがあればどんな悪漢も一発で黒焦げにできますからぁ」


 ティティは視線をレイルに合わせた。


「怖っ。そんな物騒なものいらないわよ」

「ええええぇぇ~。ティティはリジー様が心配なんですよぉぉ」


 受け取り拒否するとティティが泣き始めた。

 おーいおーいと小さい子がするように両手を目に添えて泣き始めるからわたしは面倒になって「わかったから。ちゃんとつけておく。心配してくれてありがとう」と言った。


「もらってくれて嬉しいですぅ」


 あ、嘘泣きだった。


 すぐににっこり笑顔になったティティ。結構演技派なことが判明した。


「ねー人間のたくさんいるところぉ!」


 フェイルにせっつかれてわたしたちはティティの道案内のもと森の中を歩いてフリュゲン村にたどり着いた。


 村は丸太を立てて作られた柵で覆われていて昼間の時間、入口は空いている。のどかな村で衛兵はいないみたい。

 時折家畜の鳴き声と子供たちの遊ぶ声が聞こえてくる。


 あれだけ人里に行きたいと喚いていたのに、いざ村に足を踏み入れてみればフェイルもファーナもどこか緊張した面持ちでわたしの両側をしっかりと陣取ってチュニックのすそを握りしめている。


 わたしが手を差し出すときゅっと握ってきた。あ、可愛い。


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