ゴム
(やっぱり、いつもと違う事をするんじゃなかった・・・。)
俺はそう思っていた。
事の始まりは3時間前だった。
「やばい、後2分でバスが来ちまう。」
俺はそう口にしながらバス停まで走っていた。
今日は、大学の授業が1時限しかなかったため、いつもは歩いて帰る道をバスに
乗って帰ろうとしたのだ。
俺がバス停に着くと、ちょうどよくバスが来た。
バスに乗ろうと足を動かした時、俺は異変に気付いた。
右足が接着剤でくっついた様に動かないのだ。
足を動かそうと四苦八苦している間、運転手は待っていてくれた。
しかし、いつまで経ってもバスに乗ろうとしない俺を、運転手は嫌がらせをしているのだと思ったのだろう、バスを出発させてしまった。
俺は深呼吸をして、心を落ち着かせ、靴底を触ってみる事にした。
変わった物は何も無かったが、俺の靴底にガムが付いていた。
「ついてない、ガムを踏んでいたなんて。」
独り言を言って俺は右足を引張った。
けれど、動かない。
(オカシイ)
俺はそう思った。
確かにガムはくっつく物だ。けれどこの粘着力は異常だ、地面と靴にしっかりとくっついて動かす事ができないのだから。
俺は、カッターでガムを切ろうと頑張った。
しばらく、カッターでガムと格闘しているとバスが来た。
俺の乗りたいバスだった。どうやら格闘している間に1時間経っていたようだ。
ガムは未だに地面と靴を繋いでいる。俺は仕方なく来たバスを見送った。
次のバスが来るまでまた、1時間。
「次までに、俺はこのガムを切ってやるそう決意した。」
30分くらい経った時に、通りかかったおばあさんが俺に声をかけて来た。
「足を痛めたのかい?」
そう聞いて来たおばあさんに俺は、この不思議なガムの事を話した。
おばあさんは、「とりあえず、靴を脱いでみたらどうだい?」と言って来た。
俺は、その言葉を聞いて自分の頭の悪さを痛感した。
簡単な事なのだ、ガムは靴にくっついている。
靴を脱げば俺の足は動かせるのだ。
俺はおばあさんの言ったとおり、靴を脱いだ。
正確には脱ごうとした。
俺は恐る恐る、靴の中に指を入れた。
(靴と靴下がガムで繋がっている!?)俺は、気絶しそうになっていた。
でもまだ望みはある。
靴下を脱げばいいのだから。
俺は靴下を脱ごうとした。
・
・・あれ?
・・・・かかとの裏で引っかかる?
・・・・・まさか。
俺は悲鳴を挙げていた。
ガムは俺の足にしっかりとくっついていたからだ。
俺の悲鳴を聞いた大学の警備員が走ってやってきた。
「どうしました?」
警備員は俺にそう聞いてきた。
今までの事を俺は正直に話したが、警備員は俺を(頭の)可哀想な人という目で俺を見ている。
警備員は俺の話の真偽をおばあさんにも聞いている。
おばあさんが俺の話が本当の事だというと、警備員はまだ半信半疑な顔をしたまま、「ちょっと引張りますよ。」そういって引張った。
もちろん、俺の右足は動かない。
警備員は俺の話が本当だと信じて、救急車を呼ぶと言って警備員室にいったん戻っていった。
その間に来たバスを俺はまた見送った。
俺は3時間前の自分を恨み始めていた。
しばらくして、救急車がやってきた。
かなり大掛かりになってきたなぁと俺は思っていた。
20分くらい頑張っていただろうか、救急隊員が、「これ、本当にガムなのか?」と不安になる事を言い出した。
俺は、「何とかなりませんかね?」と不安からか、そう聞いていた。
「切ろうと思っても切れないし、綱引きのように引張ってみましょう。」隊員がそんなことを言って人を集め始めた。
隊員の呼びかけで20人ほど集まってきた。
皆さん力自慢の体育会系の方々だ。
隊員が俺の体を持ち、隊員の腰を後ろの人が持ちと続いている絵を見て俺は、カブを大人数で引張る話を思い出した。
「皆さんいきますよー!!」隊員が言うと、太い声で「オ−!!!」皆さんが言う。
皆が俺を引張り始めた。これで、助かるかもと思ったけれど、俺の予想の遥か上を行ってしまった。
俺を除いた全員が飛ばされて行ったのだ。
俺には何が起こったのかまったく解らなかった。
そのうち、太陽と月がルーレットのようにぐるぐる回っている事に気がついた。
どうやら、俺を引張った事で地球が回り始めたのだ。
それも、勢いよく。
1時間くらい経っただろうか、太陽の光が届かないところまで行ってしまったらしい。
空を見るとそこには黒い渦があり、どんどん近づいて来ていた。




